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Online edition:ISSN 2758-089X

認知症高齢者のBPSD 発現と脳機能の関連~ MRI 局所容積変化の検討~

認知症の症状,特にBPSD は罹患した本人のみならずその家族や周りの人の生活,QOL にも影響を与える.BPSD は中核症状と環境要因,身体要因,心理要因などの相互作用によって起こることが多く症状の軽重には個人差もあることからその発症予測は難しい.BPSD 発症に関わる神経基盤の理解とその発症リスク予測につながる客観的な指標の確立のための探索的検討として,BPSD の発症と脳の構造的変化との関連を検討する目的で,MRI データにおける大脳皮質の局所容積変化をBPSD 発症の有無で比較し,BPSD 発症に関連する脳領域の検討を行った.川崎医科大学附属病院脳神経内科ものわすれ外来を受診した患者20名(平均74.8歳,男性5名)を対象に年齢,性別,認知機能(MMSE-J,FAB),うつ(GDS-15-J),BPSD の程度(阿倍式BPSD スコア:ABS)を用い,BPSD の有無(ABS:0vs1以上)によって患者を2群に分け患者背景,臨床指標評価を比較した.また同時期に測定したMRI 3DT1画像データを使用し,SPM12ソフトウェアを用いて患者の灰白質,白質,脳脊髄液領域を分離し,解剖学的標準化を行って灰白質容積の群間差を検討した.結果,年齢,性別,MMSE,FAB,GDS は両群間で有意差を認めなかった.灰白質容積の群間差の検討では,BPSD あり群では右中前頭回(BA6),右下前頭回三角部(BA45)の灰白質容積が有意に低下していた.BA6とBA45におけるABS と灰白質容積にはそれぞれ負の相関があった.認知症患者のBPSD 発症が右前頭葉皮質の灰白質容積低下が関連している可能性が示唆された.先行研究によりBA6は他者の意図を推察する心の理論課題に関与し,BA45の灰白質容積の低下は統合失調症患者における妄想や陽性症状との相関が示唆されている.今後BPSD の発症予測や個別治療の可能性につながる重要な知見と考えられ,今後の研究の進展が期待される.
著者名
久德 弓子, 他
48
51-55
DOI
10.11482/KMJ-J202248051
掲載日
2022.10.26

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