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Online edition:ISSN 2758-089X

認知症と自動車運転~運転免許外来開設5年を振り返り今後の展望を考える~

認知症の重症度とともに運転事故の危険性は高まることから,中等度以上の認知症では運転すべきでないという点についての世界的コンセンサスは得られているが,専門学会ごとに認知症の運転中止基準は異なる.当院では2017年4月よりものわすれ外来とは別に運転免許外来を新設し,時間をかけた丁寧な診療と告知,指導,運転免許返納後の生活確保・支援ができるよう,多職種で受診者に対応してきた.2021年7月までの当外来受診者は64人(のべ117人)で,ほとんどが免許更新時の第1分類該当や交通違反のための受診であった.当外来にて施行した神経心理検査の平均点は,MMSE-J 21.3/30,DASC-21 28.4,CDR 0.6と全般的認知機能低下が比較的軽度な者が多かったが,FAB 10.9/18,TMT-A 102.4s,TMT-B 261s と注意,前頭葉機能,視覚情報処理や遂行機能の低下は明らかであった.当外来を受診した患者には上記の検査結果を踏まえて全例に運転免許返納を推奨したが,全患者が運転継続を強く希望し,運転中止に至った例は20例のみで,残りのうち更に20例は半年毎に当院を再診し現在も運転継続している.この20例は,MMSE-J 22.3/30,DASC-21 26.2,CDR 0.5とやはり全般的認知機能は比較的保たれており,19例(95%)を軽度認知障害と診断している.全般的認知機能が比較的保たれている軽度認知障害の患者は現実的に運転できていることから,都市部と異なりインフラ整備が十分には整っていない地域での運転の重要性を鑑みると,社会インフラの整備,限定免許や安全運転技術などのサポート体制の強化など高齢者の運転継続の可能性についても模索すべきであると考えられる.
著者名
久德 弓子, 他
47
159-168
DOI
10.11482/KMJ-J202147159
掲載日
2022.1.19

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