h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

topimage01

2011.04.06

antibody, CD4 and CD8 T-cell resoponse against XAGE-1b (GAGED2a) in non-small cell lung cencer patients*

 本邦での死因の第一位は悪性新生物となり,新規のがん診断と治療法の開発が急務である.近年,新しい治療法として免疫療法が注目され,免疫原性の高いがん特異抗原を用いたワクチン療法が試みられている.がん精巣(CT, cancer/testis)抗原は,その発現が精巣とがん組織に限定されていることからワクチン療法の標的抗原として有望視されている.本研究では,非小細胞肺癌(NSCLC)患者でCT 抗原のひとつであるXAGE-1b(GAGED2a)に対する宿主免疫応答について検討した. 液性免疫については,2005年から2011年に,川崎医科大学附属病院を受診した肺癌患者407例(小細胞肺癌: SCLC 45例,非小細胞肺癌:NSCLC 362例),および対照群として健常人50例を対象として検討した.抗体の検出はXAGE-1b 合成タンパクを用いELISA 法で測定した.また細胞性免疫については,血清抗体価陽性症例KLU187,陰性症例KLU37の末梢血単核球(PBMC)より単離したCD4 T 細胞,CD8 T 細胞を用いてXAGE-1b 抗原と抗原提示細胞,T 細胞を共培養することによって抗原特異的T 細胞の誘導を検討した.XAGE-1b 特異的CD4 とCD8 T 細胞の検出はIFN γ ELISA 法またはIFN γ分泌アッセイ法で解析した. XAGE-1b(GAGED2a)抗体は全肺癌で32/407例(7.9%),SCLC の0/45(0.0%),NSCLC の32/362例(8.8%)に認め,NSCLC の中でも,肺腺癌28/220(12.7%)に多く認めた.さらに臨床病期3B/4の肺腺癌に於いては22/118例(18.6%)と高率に特異抗体を検出した.一方,抗体陽性患者のCD4,CD8 T 細胞については,XAGE-1b(GAGED2a)に対する特異的な反応を検出した. これまでに,がん免疫療法の標的抗原として種々のCT 抗原が同定されてきた.いくつかのCT抗原は肺癌にも高頻度に発現する.しかし,液性免疫反応を誘導するものはほとんどない.今回,NSCLC 患者において,XAGE-1b(GAGED2a)に対する特異的な液性免疫応答を高率に検出した.さらに,抗体陽性患者に,細胞性免疫も検出した.これらの知見は,XAGE-1b(GAGED2a)を用いた肺癌ワクチン療法が有望であることを示唆している.(平成23年10月24日受理)

2011.04.05

anti-hypertensive Azelnidipine-induced improvement of insulin sensitivity in 3T3-L1 adipocutes*

 長時間作用型ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬アゼルニジピン(AZE)は,ヒトや実験動物において,降圧効果に加えて,アディポサイトカイン分泌改善,インスリン抵抗性改善などの効果を示すと報告されているが,その機序は未だ不明である.本研究では,培養3T3-L1脂肪細胞を用いて,脂肪細胞のインスリン感受性やアディポネクチン分泌に対するAZE の効果を解析し,その分子メカニズムについて検討を加えた. 3T3-L1脂肪細胞をAZE(50 nM)で24時間刺激すると,インスリン反応性ブドウ糖輸送能および脂肪細胞からのアディポネクチン分泌の有意な増加を認めたが,脂肪細胞分化や脂肪細胞分化関連遺伝子発現には影響はみられず,PPARγ活性化を介さない経路によるものであることが示唆された.また,これらの効果は,対照薬として用いたニフェジピン(NIF)(100 nM)による処理では認められなかったことより,ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬のclass effect ではなく,AZE に固有の性質であると考えられた.3T3-L1脂肪細胞のAZE 処理によるアディポサイトカイン遺伝子発現を解析したところ,アディポネクチン遺伝子発現の有意な増加を確認したが,レプチン,レジスチン,MCP-1,TNF-αの発現に有意な影響は認めなかった.一方、酸化ストレス関連の遺伝子発現解析において,NADPH oxidase subunit であるp22phox,p67phox 遺伝子の発現は有意に低下し,抗酸化酵素であるSOD1やCatalase の遺伝子発現が有意に増加していた.以上の結果より、AZE の脂肪細胞におけるインスリン感受性増強,アディポネクチン分泌増加作用には,抗酸化作用を介したアディポネクチン遺伝子発現亢進が関連している可能性が示唆された.(平成23年10月24日受理)

2011.04.04

Molecular mechanism by which vildagliptin, a DPP-IV inhibitor, preserves pancreatic β cells: A comparative analysis between diabetic and non-diabetic mice*

 DPP-IV 阻害薬による耐糖能改善,膵β細胞機能障害進展阻止作用が明らかになっているが,その分子機構については不明な点が多い.本研究は,DPP-IV 阻害薬による膵β細胞保護効果の分子機構を明らかにするために,糖尿病モデルKKAy-TaJcl(KKAy)マウスと非糖尿病モデルC57BL/6J(B6)マウスを用いて,生化学的や組織学的検討に加え,膵β細胞特異的な遺伝子発現の網羅的解析を行った.8週齢雄性の両モデルマウスを,それぞれVildagliptin 投与群と非投与群の2群に分けて4週間介入した.遺伝子発現はLCM 法により取り出した膵ラ氏島コア領域サンプルを用いて,Real timeRT-PCR 法により解析した.KKAy,B6ともに,介入期間中の摂餌量,体重および介入終了後の空腹時血糖値,血中インスリン値,血中グルカゴン値,活性型GLP-1値は,Vildagliptin 投与の有無で差を認めなかった.KKAy の血中中性脂肪値,膵ラ氏島中性脂肪含量およびインスリン感受性はVildagliptin 投与群で有意な改善を認めた.経口糖負荷試験でみた耐糖能はvildagliptin を投与したKKAy で有意に改善し,インスリン分泌増加を伴っていた.糖負荷後の活性型GLP-1血中レベルは,両マウスともVildagliptin 投与で有意に高値を示した.膵ラ氏島のインスリン含量および高濃度グルコース応答性インスリン分泌反応,膵β細胞重量はVildagliptin 投与によって有意に増加した.遺伝子発現解析の結果,KKAy,B6ともに,Vildagliptin 投与群で分化増殖関連遺伝子発現の有意な増加を認めた.一方,抗酸化ストレス関連遺伝子発現の増加,小胞体ストレスおよびアポトーシス誘導遺伝子発現の低下,抗アポトーシス関連遺伝子発現の増加をVildgliptin 投与KKAy マウスでのみ認めた.膵ラ氏島を用いた免疫染色の結果は,遺伝子解析結果と良く一致していた.DPP-IV 阻害薬のβ細胞保護効果の分子機構として,活性型GLP-1増加によるGLP-1シグナル増強が,直接的な細胞の分化・増殖促進効果と,糖脂質代謝改善による間接的なβ細胞の酸化ストレス,小胞体ストレスの軽減,アポトーシス抑制効果をもたらす可能性が示唆された.(平成23年10月22日受理)

2011.04.03

Clinical evaluation of bone-patellar tendon-bone grafts for anterior cruciate ligament injury*

 2002年1月から2010年11月の間に当科で膝蓋腱を用いた前十字靭帯(ACL)再建を受けた1038例中6か月以上経過観察ができた866例(経過観察率83.9%)の手術成績を検討した.手術は膝蓋腱をbone to tendon to bone graft(BTB)として用いた.術後は10週でジョギングを開始し,6か月での直線全力疾走と1年後の競技スポーツ完全復帰を目標としたリハビリテーション・プログラムを進めた.受傷時年齢は9~74歳で平均24.7歳であった.性別は女性439例(50.7%),男性427例(49.3%)であった.術後全可動域が544例(62.7%)に得られた.術後平均観察期間は449.2日で,視覚的アナログ尺度(VAS)で得られた自覚的復帰度合いが8以上は538例61.9%であった.術後のMRI でACL の連続性が観察されたのは793例(98.5%)であった.術後775例(89.5%)に再鏡視を施行し,ACL は629例(81.2%)に良好な滑膜被覆が観察され,内側半月板は657例(84.8%),外側半月板は666例(85.9%)が明らかな変性などの悪化を認めなかった.受傷から再建術施行までの期間が2週未満と2週以上で比較したが,関節可動域(ROM),VAS による自覚的復帰度合い,MRI 所見,再鏡視所見とも有意差を認めなかった.手術施行時年齢が40歳未満と40歳以上で比較した結果は5°以上の伸展制限か10°以上の屈曲制限を認めた症例数とVAS による自覚的復帰度合いが5~7の症例数が有意に40歳以上で多かったが,MRI 所見,再鏡視所見では有意差は認めなかった.受傷から再建術施行までの期間が2週未満でも術前後のリハビリテーションなどの患者教育を徹底することで術後成績を向上することができた.手術施行時年齢が40歳以上でも再建術を施行することにより,関節軟骨のけば立ちや半月板の擦り切れなどの変性進行を防ぐことができた.(平成23年8月25日受理)

2011.04.01

Diagnostic utility of the Japanese version of Test Your Memory (TYM-J1) for Alzheimer disease*

 アルツハイマー病(AD)の診断には,Mini-Mental State Examination(MMSE)や長谷川式簡易知能評価スケール改訂版(HDS-R)などの質問法による認知症検査が広く用いられてきた.2009年に英国Brown らは,自己記入式の認知機能検査であるTest Your Memory(TYM)を開発し,AD 診断における感度が93%,特異度が86%と報告した.そこで我々は,日本語版のTYM(TYM-J)を用いて,AD や軽度認知障害(MCI)診断に対する有用性について検討した. 2010年3月から2011年6月に当科外来を受診して,MMSE,HDS-R を施行し,AD,MCI,および健常と診断した連続334例を研究対象とした.全例で外来の待ち時間にTYM-J を施行した.内訳はAD 患者群159名,MCI 患者群128名,健常者コントロール(NC)群47名で,TYM-J スコアの平均値は,NC 群44.21点に対して,MCI 患者群39.80点,AD 患者群32.10点と各群間で有意な差異を認めた.NC 群と比較してAD 患者群では文章コピーの項目を除く全ての下位項目で得点が低下していた.またMCI 患者群では見当識,知識,呼称,視空間/ 構成2課題,文章想起の項目で有意に得点低下が認められた.TYM-J スコア42点をカットオフとした場合には,AD + MCI群の診断感度は81.5%,診断特異度は72.3%となり,英国のTYJ とほぼ同等の結果が得られた.一方,英国の結果とは異なり,教育年数はTYM-J スコアに影響した. 本研究から外来の待ち時間に自己記入ができるTYM-J は,従来のMMSE やHDS-R などの質問式検査と並んで,AD 診断に有用な簡易スクリーニング検査となり得ると考えられた.(平成23年8月22日受理)

2011.03.08

functional conservative treatment of condylar fracture in children with FKO-type splint: report of two cases and a review of the literature *

 小児顎関節突起骨折は保存治療によりリモデリングが起こり良好に経過することが多いが,同部の損傷は顎変形や顎関節強直症を後遺することがあり,慎重な対応が必要である.片側性小児顎関節突起骨折の2例(いずれも7歳で,Spiessl とSchroll 分類のⅤ型とⅥ型)に機能的顎矯正装置(FKO 型床副子)と機能的治療を応用した.FKO 型床副子は,通常の咬合より前歯部切端で2mm 程度咬合を挙上して作成した上下一体型の装置で,最低でも16時間以上装着して顎運動練習を行った.装着期間は4~6ヶ月とした.治療後は2例とも自覚症状はなく,顎機能異常もなく経過は良好であった.治療後のX 線検査では,Ⅵ型は良好な骨の復位的(解剖学的)リモデリングが得られたが,Ⅴ型は部分的な(機能的)骨リモデリングであった.この違いは顎関節突起骨折の様態に対する年齢に応じた個人の適応能力の差によると推測された.FKO 型床副子と機能的治療は,成長期の小児顎関節突起骨折において審美的ならびに機能的改善が得られる良い治療法である.(平成23年4月27日受理)

← newer entries older entries →