h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

topimage01

2009.04.05

Increases in hemaglutinin (HA) sugar chains may contribute to the survival of influenza viruses among humans? *

 ヒトのA 型インフルエンザH3N2亜型(いわゆる香港型)ウイルスは,1968年に人間界に出現以来,今日まで流行を繰り返してきた.その間,ヘムアグルチニン(HA)の抗原性が徐々に変化すると共に,HA 頭部の糖鎖数も徐々に増加し,出現当時は2本であったのが今世紀初めには7本になっている.HA 頭部にはウイルスの主要抗原部があるため,糖鎖数が増加することによって抗原部が覆い隠されて,免疫系の攻撃から逃れやすくなるのではないかと推測されてきた.本研究では,この可能性を検証するため,2001年に分離されたインフルエンザA/Okayama/6/01(H3N2) ウイルスのHA を起点として,遺伝子工学的に糖鎖結合モチーフを順次(時代を遡って)除いたHA を作製し,リバースジェネティクスによりこれらのHA を組み込んだウイルスを作製して,実験を行った.オリジナルのHA を持つウイルス(H3-0)および糖鎖結合部を1~3個減じたHA を持つウイルス(H3-1, H3-2, H3-3)を同じ感染価に揃えてそれぞれマウスに経鼻接種し,1カ月間観察後に採血して,血清中の中和抗体価を調べた.それぞれのウイルス接種により産生された抗体は,接種に用いたウイルスに対して高い中和抗体価(中央値1:4621~1:6132)を示した.糖鎖数の異なるウイルスに対する中和活性,即ち交叉反応性を調べると,H3-1とH3-2の間では互いに交叉して抗原性の違いが見られなかったが,H3-0とH3-1間およびH3-2とH3-3間では抗原性の違いがはっきりと認められた.これらの結果からインフルエンザウイルスのHA 頭部の糖鎖付加は宿主の免疫機能からの逃避に役立つことが示されたが,同時にまた,付加のみならず糖鎖の減少もまた抗体の中和活性を減ずること,糖鎖の付加部位によってその効果は大きく異なることも明らかになった.本研究によって得られた知見を基に,ニューヨーク市における過去のインフルエンザ流行パターンについても解析を行った.(平成21年10月5日受理)

2009.04.04

A barrier function made up of the receptor preference of the virus and the paucity of receptors in human airways against avian influenza virus infection *

 鳥類の間では膨大な種類のインフルエンザウイルスが行き交っており,新型ウイルス発生の重要な源になっているが,トリのインフルエンザウイルスは容易にヒトに感染しないのは,レセプター特異性の違いが大きなバリアとなっているためと考えられている.則ち,レセプターとしてトリのインフルエンザウイルスはα2,3結合型シアロ糖鎖(SAα2,3)を,一方,ヒトのウイルスはα2,3結合型シアロ糖鎖(SAα2,6)を認識するが,ヒト上気道細胞にはSAα2,3(言わばトリ型レセプター)がほとんど存在しないため,トリのウイルスはヒト細胞に吸着侵入できないと言う考え方である.しかし強毒型トリインフルエンザの感染で多数の死者が出ていることに加え,最近,SAα2,3の存在がヒト呼吸器上皮でも報告されており,この考え方の再検討が必要になってきた.本研究ではヒト呼吸器上皮由来のA549細胞と弱毒型トリインフルエンザウイルスを用いて,レセプターとウイルスの吸着侵入の関連を解析し,ヒトA549細胞上には大量のSAα2,6に加えて少量のSAα2,3も存在すること,用いた3種のトリインフルエンザウイルスは細胞上に少量存在するレセプターを利用して細胞に侵入し,ウイルス抗原の合成を開始する能力を持っていること,しかしその効率(能力)はウイルス間で大きな差があること,を明らかにした.従って“ウイルスのレセプター特異性の違いと細胞におけるレセプターの偏在”が形成するバリアは厳密なものではなく,ウイルスの種類によっては容易にバリアを乗り越える可能性が示された.(平成21年9月2日受理)

2009.04.03

Introduction of the MRL-MpJ wound-healing phenotyoe improves skeltal muscle pathology in Duchenne muscular dystrophy model mice *

 MRL-MpJ マウスは耳穴が閉鎖するというユニークな表現型から発見された自然発症変異マウスで創傷治癒促進及び組織再生モデルとして盛んに研究されているが,その責任遺伝子は未だ不明である.本研究ではこの創傷治癒形質MRL-MpJ を交配によってジストロフィン欠損デュシェンヌ型筋ジストロフィーモデル(mdx)マウスに導入し,骨格筋の筋ジストロフィー病変について解析した.6週齢の導入マウス四肢筋(大腿四頭筋)では,mdx マウスで認められた単一筋線維断面積減少は有意に改善し,また再生(中心核)線維数も有意に増加していた.14週齢の導入マウス呼吸筋(横隔膜)でも同様に単一筋線維断面積減少の改善と中心核線維数の増加を認めた.更に導入マウス横隔膜では線維化の指標であるヒドロキシプロリン含有量が有意に減少していることが明らかとなった.これらの結果からMRL-MpJ 創傷治癒形質の導入は,ジストロフィン欠損筋の線維化を抑制し筋再生を促進するため,現在有効な治療法がないデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者に対する新しい治療法となる可能性が示唆された.(平成21年9月4日受理)

2009.04.02

A histomrtrical study of mouse olfactory mucosa with particular reference to postnatal changes in the lamina propria *

 嗅粘膜は感覚細胞である嗅細胞を含む嗅上皮と,嗅腺分泌部および嗅神経線維束や毛細血管を含む粘膜固有層で構成される.嗅粘膜の逐齢変化を検討するため,出生直後から1年齢のマウスの鼻中隔の嗅粘膜を計量組織学的に観察した.鼻中隔の嗅粘膜は生後0日から急速にその厚さを増し,生後10日から1年齢で約170μm の厚さを保つ.出生直後,嗅粘膜固有層は嗅上皮にくらべて薄いが,固有層厚は生後0日と60日で出生直後の約2.5倍に増加する.特に,嗅粘膜固有層の中隔側に分布する嗅神経線維束の生後変化が著しい.すなわち,粘膜固有層に占める嗅神経線維束断面積比が生後早期に増加し,かつ個々の嗅神経線維束の径が著しく変化する.嗅神経線維束を構成する嗅神経被覆膠細胞(olfactory ensheathing glia: OEG)およびOEG に含まれる嗅細胞軸索が鼻中隔嗅粘膜固有層の逐齢変化に関連する可能性が示唆された.(平成21年9月3日受理)

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