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Online edition:ISSN 2758-089X

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1996.04.06

A Case of Mental Retardation Treated by Naikan Therapy *

軽度精神遅滞者に対して内観療法を行った経験を報告する.症例は23歳の女性で知能指数は62であった.視覚障害,聴覚障害などの解離性障害と心因性失神がみられ入院となったが,衝動的に離院するなど治療を要する行動障害もみられた.支持的精神療法が無効であったため集中内観を導入した.集中内観によって情動が安定し,解離性障害,心因性失神および行動障害は消失し退院となった.退院後,ふたたび集中内観を行い就職するに至った.治癒機転としては,集中内観によって両親をはじめ周囲の人から愛情を受けて現在に至ったという事実に気づいたこと,内省の方法を具体的に身につけたこと,治療者を信頼できるようになったこと,集中内観をやり遂げたという達成感を感じたことなどが考えられた.この事例から,精神遅滞者に対しても内観療法は有用であることがわかった.
(平成8年10月23日採用)

1996.04.05

Significance of E-cadherin Expression in Hepatocellular Carcinoma *

原発性肝細胞癌の浸潤・転移に肝癌細胞で発現されるE-cadherinが重要な働きを果たしているか否かを調べる目的で,本学の44摘出手術材料を用い,改良を加えた抗原性の賦活化法を行った後に免疫染色を行って,その発現の程度をpreserved type とreduced typeの2群に分けて臨床病理学的にその意義を考察した.原発性肝細胞癌ではE-cadherinの発現は不規則・不均一で,一部に凝集したり,全周性に見られるものや減弱,消失したものが見られた.またEdmondoson分類および形態分類別にみた分化度では,分化度が低い程その発現が弱くなるのに対し,分化度が高いと発現が強く,発現の弱いものでは脈管侵襲を伴うものが多いことがわかった.以上の事から,肝細胞癌の原発巣におけるE-cadherinの発現性の減弱はある程度までその腫瘍の生物学的悪性度の指標になりうるものと考えた.    (平成8年12月10日採用)

1996.04.04

Analysis of One Hundred Nineteen Autopsy Cases of Primary Lung Carcinomas in Kawasaki Medical School Hospital between 1986 and 1996 *

1986年から1995年末までの過去10年間に川崎医科大学附属病院病理部で取り扱った原発性肺癌の剖検例,119例について臨床病理学的に解析した.とくに年次推移,病理組織型,性差,死亡年齢,死亡原因などを中心に調べるとともに,以前報告した1976~1986年までの解析結果と比較検討した.本学では腺癌が最多の組織型であり,その増加はここ10年間で頂点に達している.一方小細胞癌は未だに増加を示すとともに男性発生率が非常に高いという特異性がみられたのでここに報告する.         (平成8年11月30日採用)

1996.04.03

Morphology of the Subacromial Bursa ―A Three Dimensional Study Based on Casts― *

肩関節は,狭義の肩関節である肩甲上腕関節と機能的関節である第2肩関節の2つで構成されている.また,肩関節は大きな可動域を持っていて重力に対する骨性支持がないため,肩関節とその周囲に及ぶ様々な痛みを引き起こすことがしばしばある.本研究の目的は,肩関節の痛みに関与していると考えられ第2肩関節に滑動性を与えている肩峰下滑液包が,解剖学的にどのような形態をしているのかを,肩峰下滑液包の鋳型を作製して三次元的に詳しく観察すると共に,肩峰下滑液包の拡がりが周囲の組織と何らかの関連性を持つかどうかを調べることである.川崎医科大学解剖学教室の屍体33体(66肩関節)のうち生前に肩関節に外傷歴がなく,X線学的に上腕骨骨頭と肩峰が接しているものを除いた31体(61肩関節)を対象とした.各々の肩関節を肩甲骨と上腕骨と鎖骨を一塊として取り出し,X線学的に肩峰骨頭間距離Acromiohumeral interval (以下AHIと略す),肩峰の幅,上腕骨大結節の硬化像の長さ,肩甲骨内縁に対する関節窩の傾斜角および肩峰の傾斜角を測定した.その後,造影剤と専用のシンナーを1:1で混合したsilicon gum(信越化学社製KE24)を,X線透視下に肩峰下滑液包に注入した.注入圧は120mm Hgと一定になるように設定した.24時間後に肩峰下滑液包の鋳型を取り出し重量,表面積,肩峰下面の前外側を基準点とした鋳型の大きさ,棘上筋の前後縁におけるsilicon gum鋳型の厚さと肩峰前外側部の鋳型の厚さを測定した.肩峰下滑液包を石野による分類法1)に従って分類すると肩峰下のみに存在するType Ⅰは13肩関節(21%),単房性で肩峰下にあり上腕骨大結節まで覆っているType Ⅱは29肩関節(48%),薄い隔壁により肩峰下と三角筋下とに区別できるTypeⅢは6肩関節(10%),肩峰下にあり上腕骨大結節と小結節を覆っているType Ⅳは13肩関節(21%)であった.測定項目の中でType別に有意差を認めたものは,右側鋳型の重量(以下右重量と略す),右側鋳型の表面積(以下右表面積と略す),左側鋳型の表面積(以下左表面積と略す)であった.また,各測定項目間の相関性は右重量と右表面積,右AHIのそれぞれ3つの間に認めた.肩峰下滑液包の鋳型はType Ⅱが最も多かった.鋳型の重量や表面積とX線学的AHIが相関を示した.鋳型とX線画像という対象の違うものの測定結果が相関を示したことは興味あることであるが,今回対象とした屍体は腱板全層断裂のないものであり今後の検討が必要と思われる.                       (平成8年10月23日採用)

1996.04.02

Analysis of Proteins Isolated by Two Dimensional Electrophoresis of Mouse Neuroblastoma Cells (N18TG2) *

マウス神経芽細胞腫であるN18TG 2を用いた実験はこれまでにストレスタンパク質やリセプタータンパク質など多くの個々のタンパク質についての研究がなされているが,発現している細胞全体のタンパク質を二次元電気泳動ゲル上にマッピングし,データベース化を目指した研究は報告されていない.そこで,マウス神経芽細胞腫(N18TG2)細胞の全夕ンパク質を二次元電気泳動法で分離しその生化学的性質を分析した.二次元電気泳動により再現性のある約2,500個のタンパク質スポットを再現性よく分離し,その二次元電気泳動像を得た.SDSポリアクリルアミドゲル上の45個のスポットについて28個のN末端分析と39個の内部配列分析を行い合計30個のスポットのアミノ酸配列を得た.これらのアミノ酸配列の相同性をタンパク質データベースのSWISSPROTを用いて検索し,タンパク質スポットを同定した.これらのうち12個のスポットはマウスですでに報告されているsuperoxide dismutase, mitochondrial matrix protein 1 , alpha enolase などに相同性を持っていて,9個はマウスでは相当する配列は報告されていないが他の動物に相同性を持った配列で, pyruvate kinase, stathmin, protein kinase C inhibitor 1 などであった.残りの9個のアミノ酸配列はまだタンパク質データベースに報告されてなく,未知のタンパク質であることがわかった.N18TG 2 と発生起源の異なる5種類の細胞の二次元電気泳動像を比較し, N18TG 2に特異的に発現量の多かった5個のタンパク質スポットを見いだした.これらのうち,1個は既知のタンパク質でubiquitin carboxyl-terminal hydrolaseであり,1個は未知の夕ンパク質であった.これらのデータと,今後さらなる解析による知見は神経芽細胞腫(N18TG2)の,細胞生物学,発生分化や病態の解明の一助となるものと思われる.(平成8年10月23日採用)

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