2019.07.16
Characterization of Mild Cognitive Impairment patients continuing long-term visits to a memory clinic
軽度認知機能障害(MCI)は認知症の前段階として注目されてきた.今回,認知機能低下のため当院もの忘れ外来を長期通院継続しているMCI 患者の特徴を把握し,MCI 患者の認知症への進展を予測する要因について検討した.対象は2003年4月~2017年4月に当科もの忘れ外来を受診した患者1,646人のうち,初診時Mini-Mental State Examination(MMSE)20/30以上ある40歳以上のMCI 患者125人.患者背景,神経心理検査,画像所見,薬物治療の有無を検討し,さらに,これらを認知機能維持群(MMSE の変化<5)と悪化群(MMSE の変化≧5)の2群に分けてその特徴を比較した.初診時平均年齢72.8±10.5歳,教育歴は平均11.1±2.1年,基礎疾患は高血圧症48.8%,糖尿病 23.2%,脂質異常症 47.2% と生活習慣病を併存している例が多かった.初診時の主訴が記憶障害であった例が92.8%と高かった.神経心理検査ではMMSE 24.2±2.8,長谷川式簡易知能評価スケール改訂版(HDS-R)22.5±3.8,Test Your Memory 日本語版一部改変(TYM-J川崎医大ヴァージョン;TYM-J)37.4±6.4であった.画像検査では,アルツハイマー病(AD)に特徴的な側頭頭頂連合野や後部帯状回の集積低下を認めた患者は41.6% に留まった.2017年4月の時点での臨床診断は,AD 69%,MCI 12% であった.認知機能維持群と悪化群での比較では,悪化群は初診後1年でMMSE, HDS-R ともに有意に低下した.MMSE,TYM-J 下位項目での比較では,1年後にMMSE で注意と計算,遅延再生で,TYM-J では知識と想起で減点が多かった.以上から,初診時にMCI と診断しても,受診1年間の認知機能の変化で,ある程度,認知症への進展を予想できるかもしれない.
2019.05.30
A case of tuberculous peritonitis leading to diagnosis by laparoscopic examination
症例は63歳女性.元医療従事者であった.1ヵ月続く腹痛と38度の発熱で近医を受診し,腹水貯留を認め,腹水検査でヒアルロン酸とCA125が高値であったことから癌性腹膜炎を疑われ当院内科に紹介された.画像検査より癌性腹膜炎を疑われたが,原発は同定できなかった.細胞診はclassII であったが,卵巣癌,腹膜癌,悪性中脾腫を疑われたことから,腹腔鏡検査目的に当科紹介となった.腹腔鏡検査で黄白色粒状の病変を認め,病理組織検査にて類上皮細胞性肉芽腫を認め,結核等の感染症が疑われた.病歴聴取にて3年前の職務中に結核排菌患者に濃厚接触歴あり,腹腔鏡再検査にて,塗抹,培養,PCR 陰性であったが,腹水中ADA 高値より結核と診断し結核専門病院に転院した.抗結核薬開始され速やかに症状は軽快した.結核性腹膜炎は非常に稀な疾患であるが,腹腔鏡検査で診断に至った症例を経験した.原因不明腹水を認めた場合,癌性腹膜炎のみならず感染性腹膜炎の可能性も念頭に置き早期から同時に精査する必要がある.
2019.03.25
Transplantation-associated thrombotic microangiopathy and complicating diffuse alveolar hemorrhage successfully treated with romiplostim
造血幹細胞移植後に発症する血栓性微小血管障害症(thrombotic microangiopathy:TMA)は,治療法が確立されておらず,多臓器不全や重症出血をきたす予後不良な疾患である.今回,造血幹細胞移植後TMA と肺胞出血を発症し,ロミプロスチム投与が奏効した症例を経験したので報告する.症例は20歳代の男性.20XX 年6月節外性NK/T 細胞リンパ腫, 鼻型と診断し,化学療法後に母子間末梢血幹細胞移植を施行した.再発することなく経過し,移植1年後に,免疫抑制剤を中止した.治療による腎機能障害を呈していたが,高血圧に伴い腎機能障害が増悪した.高血圧緊急症と判断し,直ちに降圧剤を開始したが,腎機能障害はさらに進行し,血小板数は徐々に低下し,その後0.8万/μL まで急激に低下したため,精査治療目的に入院となった.貧血の進行,LD 高値,ハプトグロビン低値,破砕赤血球の出現を認め,ADAMTS13活性の低下やインヒビターは認めなかったため,TMA と診断した.血漿交換療法や新鮮凍結血漿(FFP)の定期輸注,rTM (recombinantthrombomodulin) 投与で治療したが,5週間経過しても血小板数や病態の改善を認めなかった。その後、入院38日目に肺胞出血を発症した.長期間のTMA 存在下での血小板輸血はリスクが高いと考え,ロミプロスチムの投与を開始した.その結果,血小板数増加により,肺胞出血は改善し,新たな臓器不全症状がでることなく治療し得た.移植後TMA における確立された治療法はないが,血小板減少に伴う出血症状に対してロミプロスチムが有害事象なく奏効する可能性が示唆された.ロミプロスチムの適応外使用については川崎医科大学附属病院医療倫理委員会にて承認されている.