2015.01.08
Three-dimensional structural analysis of newly generated cells for migration in the olfactory system of the adult mice brain
哺乳類の嗅覚系ニューロンの一部は生後も新生することが知られている.側脳室前角の脳室下帯で新生した細胞は吻側遊走経路を嗅球に向かって遊走し,嗅球各層のニューロンに分化する.ニューロン新生は再生医学の観点から研究が進んでいるが,神経回路への組み込みなどの分化に関しては未だ不明な点が多い.これは,新生細胞を継時的に追跡した時空間的同定に基づく統合的構造解析の欠如に起因する.そこで本研究は,生後新生するとされる嗅球傍糸球体細胞,顆粒細胞の起源を生体細胞標識法により特定し,標識細胞が遊走し,嗅球に達する過程を正確に同定した後に免疫組織学,電子顕微鏡連続切片三次元再構築,デジタル計測で解析し,新生細胞の遊走と分化の詳細を明らかにすることを目的とした.成体マウス脳室下帯へCell Tracker Orange(CTO)を脳定位的に注入し,1~7日後に灌流固定し矢状断切片を作製,CTO 標識された新生細胞が遊走経路に沿って嗅球に到達しているのを確認した.その後,抗CTO 抗体を用いた多重免疫染色により経路内の新生細胞の立体構造を同定し,遊走と分化を検討し,また微細構造を透過型電子顕微鏡で解析した.遊走経路のCTO 標識細胞はPSA-NCAM 陽性で,遊走する新生ニューロンであることを同定した.Neurolucida によるデジタル形態解析により経路の部位により突起の形態と伸展極性に多様性があることを明らかにした.また嗅球ニューロンのマーカーであるtyrosine hydroxylase(TH)の遺伝子発現が遊走早期に見られる新たな知見をTH-GFP マウスで得た.本研究の生体標識法は遊走と分化の過程を同一標本で確認できる利点があり,遊走しながら形態が変化している.一方,化学的性質を決める遺伝子は,形態変化より前に発現していることがわかり,遺伝子発現と形態の多様性変化について今後の解析課題と言える.doi:10.11482/KMJ-J41(1)57 (平成27年6月5日受理)
2015.01.07
A case of Wernicke’s encephalopathy after gastrectomy *
ビタミンB1欠乏は急性心不全,末梢神経障害,ウェルニッケ脳症など重篤な病態をきたしうるため,プライマリケア医が認識しておくべき重要な病態と考える.今回,我々は胃切除後にWernicke 脳症を発症した症例を経験したため文献的考察を加え報告する.患者はアルコール多飲歴,偏食はないが,7年前に胃全摘術(Roux-Y 再建)を受けている.入院時,回転性めまい,複視,歩行障害,下肢の感覚低下を認め,腰椎疾患やフィッシャー症候群などを疑い検査を行ったが特徴的な所見が得られなかった.第40病日に意識レベルの低下と小脳症状,眼球運動障害の増悪を認めた.頭部MRI で中脳水道や小脳虫部に左右対称性の高信号域を認め,Wernicke 脳症として治療を開始した.治療開始前の血清ビタミンB1濃度は低値であった.治療開始後,意識レベル,眼球運動障害は改善したが,呼吸筋の筋力低下が出現し,肺炎にて第60病日に永眠された.胃切除後の患者に点滴を行う際にはビタミンB1を補充したものを投与するべきである.doi:10.11482/KMJ-J41(1)17 (平成27年4月10日受理)
2015.01.06
Activity of Working Groups for MRSA and the Effectiveness *
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin resistant Staphylococcus aureus :MRSA)感染患者減少に向けた取り組みは非常に重要である.当院は2005年11月からMRSA 対策ワーキンググループ(WG)を立ち上げ,MRSA 検出率の多い病棟を中心にWG 活動を実施した.2003年から2012年までの10年間で病院全体のMRSA 検出状況の推移とMRSA 対策ワーキング活動を行った病棟において介入効果を後方視的に調査し,活動の有効性を検証した.MRSA 対策WG ではアクティブサーベイランスによるMRSA が分離された患者の把握を基本とし,各病棟の問題点と各々の病棟や部署にあわせた対策を現場のスタッフと一緒に考えた.2003年から2012年までの10年間で培養検体提出数は増加しているが,1,000検体あたりのMRSA 分離数は2003年193.7件から2012年74.0件と減少した.また年間の10,000患者・日あたりのMRSA による菌血症発生率はピークの2007年の2.7人/10,000患者・日から2012年で1.4人/10,000患者・日と半減した.さらに黄色ブドウ球菌に占めるMRSA の割合も2003年の60.3%から2012年の46.8%と減少した.MRSA 対策は複合的な様々な対策の組み合わせが必要で,各部署にあわせて現場の人達を巻きこんだ対応が有効と考えられた. doi:10.11482/KMJ-J41(1)7 (平成27年1月15日受理)
2015.01.05
A case of Bilateral Recostruction with a Fan-shaped Flap after Resection of a Squamous Cell Carcinoma of the Lower Lip―About a device in the Fan-shaped flap preparation― *
口唇癌の95%以上が下口唇に認められ,組織学的に90%以上が有棘細胞癌であるといわれている.外科的治療が下口唇癌に対ししばしば選択されるが,整容的な問題だけでなく食事・会話等の機能的問題も生じうる. 下口唇組織は幅1/3までは単純縫縮が可能であるが欠損幅が1/3を超えると何らかの再建術が必要となる.開口機能,閉口機能,構音機能,感情表現,知覚を最大限再現することが術後機能回復の上で重要となる. 皮膚・筋肉・粘膜の三層構造を持つ頬部や口唇の組織を全層で用いる局所皮弁は,機能的にも整容的にも良い結果を得やすい. 今回われわれは下口唇に生じた有棘細胞癌に対し下口唇切除後,両側Fan-shaped flap 法に工夫を加えて再建した.術後食事,会話に問題なく整容的にも満足する結果が得られた.doi:10.11482/KMJ-J41(1)1 (平成27年1月13日受理)
2015.01.04
Gastric MALT lymphoma treated with the intensity modulated radiation therapy: A case report.
症例は60歳代男性で,下肢浮腫を主訴に受診.ネフローゼ症候群を認め,精査の結果,胃MALT リンパ腫および膜性腎症と診断された.Helicobacter pylori 陰性であり,除菌は行なわず放射線療法の方針となり,強度変調放射線治療を用いた30.6Gy/17回の全胃照射を施行した.従来の三次元原体照射と比較し,強度変調放射線治療を用いることで,両腎の照射線量を低減できた.照射後24カ月の時点で,腫瘍は寛解を維持しており,放射線治療の副作用による腎機能の低下も認めていない.強度変調放射線治療を用いた全胃照射は,安全かつ有用な照射方法と考えられた.doi:10.11482/KMJ-J41(1)19 (平成26年12月19日受理)
2015.01.03
Investigating methods regarding diagnostic and prognostic biomarkers for malignant mesothelioma
2015.01.03
T-cell large granular lymphocyte leukemia with pure red cell aplasia
T-cell large granular lymphocyte leukemia は長期(6か月以上)にわたる末梢血中の著明な大顆粒リンパ球(large granular lymphocyte; 以下,LGL)の モノクローナルな増加によって特徴づけられる疾患で,しばしば赤芽球癆を伴うことが知られている.今回,我々はHCV 陽性肝硬変患者に赤芽球癆を合併したT-LGL の1例を経験した.末梢血および骨髄塗抹標本では細胞質内に微細なアズール顆粒を有し,核異型を示すリンパ球の増加がみられ,末梢血および骨髄のフローサイトメトリーおよび骨髄吸引クロット標本の免疫組織化学で,CD3,CD8,CD57陽性リンパ球の増加が確認された.骨髄細胞のPCR ではTCRβ の再構成を認めず,TCRγ およびTCRδ の再構成がみられた.またプレドニゾロン治療にてCD57陽性リンパ球の減少および赤芽球造血の回復が確認されたことから,赤芽球癆を合併したγδT-LGL と診断した.最近, T-LGL にはSTAT3あるいはSTAT5b のSH ドメインの遺伝子変異が高頻度にみられることが報告されているが,本症例においては,これらの遺伝子変異は確認できなかった.doi:10.11482/KMJ-J41(1)19 (平成26年10月28日受理)
2015.01.02
Clinicopathological investigation of fibroblast activation protein α in the progression of pancreatic adenocarcinoma
通常型膵癌(以下膵癌)は極めて予後不良な癌であり,病理学的には癌周囲に豊富な間質を伴う。固形癌の間質は癌の増殖,浸潤,転移や抗癌剤に対する抵抗性獲得に重要な役割を果たし,なかでも癌関連線維芽細胞(Carcinoma associated fibroblast:CAF)と呼ばれる癌間質の活性化線維芽細胞は癌進展に深く関与している.今回我々は膵癌組織のCAF に発現するFibroblastactivation protein α(以下FAP)の臨床病理学的な意義について検討した.対象は2006年4月から2010年4月の間に当院で切除した膵癌症例30例である.抗 FAP 抗体を用いて免疫組織学的検討を行った.FAP は主として癌周囲の間質に検出され,一部には膵癌細胞にも認められたが,今回の検討ではFAP 陽性の線維芽細胞をCAF とみなし,線維芽細胞のFAP 発現強度と臨床病理学的因子を比較検討した.FAP 陽性線維芽細胞は28/30例(93%)に認められた.FAP 発現強度の内訳は,1+:8例,2+:16 例,3+:4 例であった.陰性/ 弱陽性群(陰性・1+)と強陽性群(2+・3+)での生存率を比較したところ,それぞれの全生存日数の中央値は862日と352日であり強陽性群の生存率は有意に低かった(P <0.05).またFAP の発現強度と膵癌細胞の分化度は有意な関連性を示し,FAP の発現が強いほど有意に低分化であった.さらに多変量解析では FAP の強陽性は膵癌患者の予後を規定する独立因子の一つであった.以上の成績から膵癌組織の線維芽細胞におけるFAP の発現は膵癌患者の予後を規定する重要なバイオマーカーであることが明らかとなり,膵癌細胞の分化度と相関することを初めて明らかにした.doi:10.11482/KMJ-J41(1)9 (平成26年10月11日受理)




