2014.01.06
A case of fibrous dysplasia of the temporal bone *
線維性骨異形成症は,骨の吸収,未熟な骨梁の新生を主病変とし,骨の形成異常を原因とする非腫瘍性骨疾患であり,四肢の長管骨,肋骨,頭蓋顔面骨に好発し,頭蓋顔面骨では上顎骨,下顎骨の報告はしばしば散見されるが,側頭骨発生の頻度は少ない.今回,我々は側頭骨に生じた線維性骨異形成症の1例を経験したので文献的考察を加え報告する.症例は53歳男性.20XX 年4月初旬,左耳痛・耳漏を主訴に近医を受診し,急性中耳炎と診断され治療を行われるも改善乏しく,5月中旬紹介となった.初診時,外耳道,鼓膜所見に異常は認めず,純音聴力検査では軽度の気導-骨導差を認め左混合難聴であった .CT 所見で左外耳道,鼓室内には軟部陰影は認めなかったが,左乳突蜂巣内に側頭骨の菲薄化,破壊像を認め,周囲にスリガラス陰影を呈する比較的低吸収域の軟部陰影を認めた.またMRI 所見では,左乳突蜂巣内に,T1強調像で小脳実質と等信号であり,周囲に造影効果を認め,T2強調像で周囲が高信号な辺縁整で境界明瞭な腫瘤性病変を認めた.これらから,組織学的検査目的で手術を行った.左耳後切開し,外耳道を剥離し,鼓室・上鼓室を明視下に置き,中耳腔全体を観察した.鼓膜は正常であったが,ツチ-キヌタ骨関節に軽度な肉芽組織を認めたが,アブミ骨の可動性は良好であった.乳突洞削開術を行うと,骨は脆弱でもろく,乳突蜂巣に肉芽病変が充満し,乳様突起先端部に直径1cm 以下の嚢胞病変を認めた.術中側頭骨及び,嚢胞を病理検査に提出した.中頭蓋底およびS 状静脈洞の骨膜が広範囲に破壊されており,この部位に,筋膜および骨を置き,手術終了した.病理組織検査では,形状が不整で骨芽細胞や破骨細胞をほとんど認めない未熟な骨を認め,周囲に間質の疎な線維性結合組織の増殖があった事から線維性骨異形成症と診断した.現在術後12か月になるが,再発なく経過良好である.doi:10.11482/KMJ-J40(1)49 (平成26年1月9日受理)
2014.01.05
A case of myeloma-related disorder detected by hypoproteinemia *
広義の骨髄腫関連疾患には,古典的なmyeloma を始めとして,plasmacytic leukemia,plasmacytoma さらにmacroglobulinemia,lymphoplasmacytic lymphoma などが含まれる.一般的には特徴的検査所見の一つに,血清総蛋白の高値がある.ところが,今回我々は血清総蛋白がむしろ低値であった骨髄腫関連疾患を経験した.症例は85歳女性.貧血軽度,黄疸( - ),肝脾腫( - ),リンパ節腫大( - ),骨病変は軽微であった.検査所見:末梢血 WBC4370/μl,RBC242万/μ l,Hgb8.1g/dl,Hct25.6%,PLT6.2万/μl,Neut70.7%,Lym23.6%,Mono5.0%,Eos0.2%,Bas0.5%.生化学:TP5.3g/dl,Alb2.0g/dl,Glob3.3g/dl そのうちIgG532mg/dl,IgA79mg/dl,IgM2,035mg/dl で,免疫電気泳動にて明らかなM-bow を認め,IgM-κ 型と判明した.骨髄:採取した標本では低形成で,Mgk10/μl,赤芽球15.6%,顆粒球系60.3%,リンパ球系23.8%,そのうち形質細胞1.9% であった.形態学的には,マクログロブリン血症の際にみられるリンパ・形質細胞様の所見であった.細胞表面マーカーの検索では,リンパ球全体ではCD7 33.5%,CD1380.7%,CD19 7.0%,CD20 32.8%,形質細胞ではCD7 21.8%,CD138 57.7%,CD19 21.1%,CD20 39.7% であった.病理検査では,N/C 比が高く異型性のある核を持つ細胞のシート状の集簇が認められた.腫瘍細胞の透過型電顕所見では,核は偏在し,大型のゴルジ野を有し,粗面小胞体はよく発達し,蛋白合成の盛んなことが推測された.細胞によっては,分化度が低く核クロマチンは繊細で明らかに芽球様の細胞も認められた.染色体分析:46,XX.末梢血生化学所見では総蛋白量の明らかな減少が認められたが,その病因は腫瘍細胞によるIgM の過剰産生にあり,その腫瘍性性質のため正常免疫グロブリン特にIgG およびIgA の著しい産生抑制を生じたものと考えられる.細胞学的にはマクログロブリン血症と多発性骨髄腫とにまたがる境界領域に位置付けられるB リンパ球系悪性疾患と推定される. doi:10.11482/KMJ-J40(1)43 (平成26年1月7日受理)
2014.01.04
A case of aciclovir encephalopathy during hemodialysis *
患者は75歳女性で,慢性腎不全に対して近医で透析を受けていた.右足底の帯状疱疹に対し近医皮膚科よりアシクロビル2,400mg/日が投与された.その後しゃべりにくさとふらつき,異常な言動が出現した.近医よりアシクロビル内服中止を指示され,内服を中止したが症状の改善がないため当院へ救急搬送され精査目的で入院した.入院時意識レベルはJCS20~30.構音障害を認め,顔面,口唇,舌,四肢にジスキネジア様の不随意運動を認めた.クレアチニンクリアランスは5.46 ml/min/1.73m2と著明に低下していた.髄液細胞数は正常であった.頭部MRI で左前頭葉の急性期脳梗塞と左頭頂葉の萎縮を認めたが症状と合致しないこと,髄液細胞数が正常であること,アシクロビル投与後に症状が出現していることから,アシクロビル脳症を疑った.透析を継続し,症状は改善を認めた.アシクロビルの血中濃度は,入院日が高値で,当院での第1回目の透析後に速やかに低下していた.アシクロビル脳症は,抗ヘルペスウイルス薬のアシクロビル,塩酸バラシクロビルの投与により誘発される精神神経症状であり,意識障害,振戦,ミオクローヌス,錯乱,混迷,傾眠,幻覚,昏睡など多彩な症状が出現する.本症例のアシクロビル投与量は,添付文書に記載されているクレアチニンクリアランスを考慮した投与量よりも過剰であったことが,脳症発症の一因と思われた.ヘルペスウイルス感染症に対してアシクロビルを投与後に精神神経症状が出現した場合,ウイルス性脳炎とアシクロビル脳症とを早急に鑑別することが重要で,早期に髄液検査や頭部CT,MRI 等を施行すべきと考える.また,透析患者にアシクロビルを投与する場合は投与量に十分な注意を払い,脳症が出現する可能性も念頭に置き,慎重な経過観察が重要と考える.doi:10.11482/KMJ-J40(1)37 (平成25年11月25日受理)
2014.01.03
The usefulness of endobronchial ultrasonography–guided transbronchial needle aspiration (EBUS-TBNA) for diagnosis of thoracic lymph node lesion *
近年,超音波気管支内視鏡ガイド下経気管支針生検(Endobronchial Ultrasonography–guided Transbronchial Needle Aspiration,以下EBUS-TBNA)は縦隔および肺門リンパ節病変に対するアプローチ法として開発され,病理学的および微生物学的な確定診断に用いられる.EBUSTBNAを実施できるか否かの判断や,施行後の診断率には標的リンパ節の大きさや周囲もしくは内部血管などが影響するが,それらに関する報告は少ない.2010年10月~2013年8月に,当科でEBUS を施行した69例のTBNA 施行率,診断率,不成功の理由を後方視的に検討した.TBNA を施行できたのは60例であり(87%),そのうち54例(93%)で診断が確定できた. 肺癌が42例(67%)と最多で,以下サルコイドーシス7例,他臓器癌のリンパ節転移3例,抗酸菌感染症1例,悪性リンパ腫1例であった.EBUS 施行例のリンパ節の直径は21.3 ± 6.0mm で,非確診例の標的リンパ節は有意に小さかった(17.5 ± 3.7 vs 22.9 ± 5.1mm,p<0.0001).部位別では下部気管傍リンパ節と気管支分岐部リンパ節で実施した症例が多かったが,部位による診断率の差は認めなかった.最終診断率では,肺癌が91%(46例中42例),サルコイドーシスが70%(10例中7例)であった.TBNA の不成功の理由は,「標的リンパ節が小さい」,「血管損傷の可能性が高い」,「患者の鎮静不可」であった.重篤な有害事象は1例も認めなかった.縦隔および肺門リンパ節病変の診断において,EBUS-TBNA は有用であると考えられた. doi:10.11482/KMJ-J40(1)27 (平成25年12月16日受理)
2014.01.02
The molecular mechanism by which the combination treatment with DPP-4 inhibitor and thiazolidine derivative yields the additive effect on the preservation of pancreatic β-cell mass and function in obese diabetic model db/db mice *
2型糖尿病の病態とりわけ膵β細胞機能低下は経年的に進行するため,いかに細胞機能保護を計るかは長期血糖管理の上で重要な課題である.経口糖尿病治療薬の中でもDPP-4阻害薬とpioglitazone(PIO)は膵β細胞保護効果作用を有する.本研究では両薬の併用による相加的な膵β細胞保護効果作用とその分子機構について検討した. 肥満糖尿病モデルdb/db マウス雄性6週齢をALO,PIO,併用,コントロールの4群に分け4週間の介入を行った.さらに,介入後に膵島の形態学的,機能的解析に加え,laser capture microdissection 法およびreal-time RT-PCR を用いた膵島コア領域遺伝子発現解析を行った.その結果,血糖値は全介入群で有意に低下し,併用群でより顕著であった.インスリン抵抗性はPIO 群と併用群で改善した.膵β細胞量はコントロール群に比しALO 群またはPIO 群で増加傾向,併用群で有意な増加を認め,膵島インスリン含量とグルコース刺激性インスリン分泌の改善を伴った.膵β細胞増殖能はALO 群,PIO 群で増加傾向,併用群で有意な増加を示し,アポトーシスはALO 群,PIO 群で減少傾向,併用群で有意な減少をみた.遺伝子解析では,Insulin 遺伝子発現量はALO 群と併用群で増加し,PIO 群ではインスリン抵抗性改善を反映し減少傾向を示した.GLUT2 遺伝子発現は全実薬群で増加傾向を認め,併用群でその傾向は強かった.PDX-1 ,MafA ,Cyclin D およびBcl-2 遺伝子はALO 群,PIO 群で増加傾向を示し,併用群で顕著であった.膵β 細胞量および機能維持に必須であるIRS-2 遺伝子の発現量はALO 群で増加傾向を示し,併用群で顕著に増幅された.また,GLP-1R 遺伝子発現はALO 群,PIO 群で増加傾向を示し,併用群で顕著であった.肥満2型糖尿病モデルdb/db マウスに対するALO とPIO の併用投与は,少なくとも一部はGLP-1シグナルを介したIRS-2 発現調節により相加的な膵β 細胞保護効果を発揮する可能性が示された.doi:10.11482/KMJ-J40(1)13 (平成25年10月8日受理)
2014.01.01
Clinical features of adjustment disorder with pervasive developmental disorders *
思春期, 青年期の適応障害患者において広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorders,PDD) を基盤にもつ患者の割合を検討し,その場合,どのような臨床的特徴があるかを調査し,PDD の有無に関連する要因について検討した.DSM- Ⅳ -TR (Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders,Fourth Edition, Text Revision) によって適応障害と診断された12歳以上30歳以下の患者58名を対象とし,以下の自記式質問紙を用いて臨床的特徴を評価した.精神症状の評価は,日本語版パラノイアチェックリスト(JPC:Japanese version of Paranoia Checklist),思春期の精神病様体験(PLEs:Psychotic Like Experiences),精神症状評価尺度(SCL-90-R :Symptom Checklist-90-Revised) を用いた.PDD の評価については,詳細な養育歴の聴取と,患者に対して自閉症スペクトラム指数日本版(AQ-J:Autism Spectrum Quotient – Japanese Version) を用いて,養育者に対しては,自閉症スクリーニング質問紙(ASQ:Autism Screening Questionnaire) を用いて総合的に判断し評価した. その結果,1) 58名のうち,PDD と診断されたのは,32名(55.1%) であった.2)AQ-J については,PDD の有無に関してコミュニケーションが有意な関連性を示した.3) JPC については,PDD 群が,非PDD 群と比較して総得点,確信度において有意に高い結果となった.PDD の有無に関して,確信度が有意に関連していた.4) SCL-90-R についてはPDD 群では,恐怖症性不安,妄想,精神病症状,強迫症状,対人過敏,抑うつ,不安,その他の8項目において非PDD 群に比較して有意に高かった.PDD の有無に関して強迫症状が有意に関連していた.5) 各質問紙の総得点とPDDとの関連を見ると,JPC の総得点のみがPDD と有意な関連性を示した. 思春期,青年期の適応障害患者では,PDD を基盤にもつと,被害妄想や,強迫症状など様々な精神症状を自覚する可能性があり,JPC など質問紙も併用して,PDD の存在を念頭において診療を行う必要があることが示唆された.doi:10.11482/KMJ-J40(1)1 (平成25年9月20日受理)




