h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

topimage01

2012.04.02

Investigation of hospital emergency admissions of walk-in patients at a department of general medicine *

 大学病院でもgate-keeper の役割をもつ総合診療科での緊急入院症例について検討した.2010年4月-2011年3月に川崎医科大学附属病院総合診療科を受診(初診)した2,435例(男性1,130例,女性1,305例,15-92歳,中央値37歳)を対象とした.その中で緊急入院を要した40例(全体の1.64%,男性20例,女性20例,16-88歳,中央値64歳)の入院専門科,原因疾患,診断法について検討した.また,年齢によりyoung group(15-39歳),middle group(40-64歳),eldergroup(65歳以上)に分けてその特徴を検討した.原因疾患は急性炎症性疾患が25例(62.5%)と最も多く,悪性疾患5例,心不全3例,その他7例であった.決め手となった検査は超音波検査が19例(47.5%)と最も多く,胸部X 線7例,検体検査5例であった.入院診療専門科は消化器系が20例(50%)と最も多く,循環器系5例,腎・泌尿器系3例,脳神経系3例,その他9例であった.年齢グループ毎の緊急入院頻度はyoung で0.84%(11/1,302),middle で1.32%(9/682),elderで4.43%(20/451)であり,elder で有意に高かった.Young では11例中8例が急性炎症性疾患,そのうち5例が消化器系疾患(急性虫垂炎や細菌性腸炎など)であった.一方,elder では20例中11例が急性炎症性疾患であったが,胆道系疾患が4例,肺炎が2例などyoung とは疾患が異なっていた.また,悪性疾患が4例,心不全が3例あり特徴的であった.以上より,walk-in 患者の中にも特に高齢者では緊急入院が必要な重篤な疾患もあり,注意が必要と考えられた.また,医療面接・身体診察に簡便な検体検査や侵襲性の低い胸部X 線や超音波検査を加えることで大部分は初期対応が可能と考えられた.(平成24年8月25日受理)

2012.04.01

The efficacy of leukotriene receptor antagonist on fraction of exhaled nitric oxide (FeNO) levels in asthmatics with sinusitis *

 近年,気管支喘息と副鼻腔炎のクロストークが注目されている.上気道炎と下気道炎に関して,気管支喘息とアレルギー性鼻炎または副鼻腔炎の合併は約30% と推定され,両疾患の合併は喘息治療の戦略において考慮すべき重要な因子である.今回,気管支喘息患者での副鼻腔炎の合併の有無と,ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)による好酸球性炎症マーカーの呼気一酸化窒素(FeNO)の変化を後方視的に検討した.吸入ステロイド(ICS)治療を6か月以上受け,かつLTRA 治療導入の前後それぞれ3か月のFeNO,喘息コントロールテスト(ACT),呼吸機能検査のデータがある47例の気管支喘息患者の各検査値の変動を鼻アレルギーおよび副鼻腔炎の合併の有無により4群で比較検討した.気管支喘息の自覚症状としてのACT スコアでは4群間に差は認めなかった.呼吸機能に関しては,FEV% 予測値に差はなかったが,PEF% 予測値は副鼻腔炎合併群で非合併群や鼻アレルギー群と比べて有意に低かった(p=0.003,0.007).FeNO は副鼻腔炎合併群で高い傾向はあったが,ばらつきが大きく群間に有意差を認めなかった(p=0.13).LTRA の導入によって,ACT スコア,FEV1% 予測値,PEF% 予測値に明らかな変動は認めなかったが,副鼻腔炎合併群において有意にFeNO が低下した(p=0.04).LTRA は,ICS 単独で抑制できない気道の好酸球性炎症を上気道および下気道の両面から抑制できる可能性が示唆された.(平成24年6月27日受理)

2012.03.09

Possible diagnosis of celiac artery compression syndrome in a patient who had abdominal pain during and after eating *

 症例は10歳代女性.数年前から食事を食べている最中や食後に上腹部の差し込むような痛みを自覚するようになったが,自然に消失するため放置していた.しかし,症状は度々出現し,2~3か月前からは痛みの程度も強くなったため,X 年1月川崎医科大学附属病院,総合外来(総合診療科)を受診した.痛みは食直後や食べている最中に出現し始め,摂食直後が最も強く,その後30分から1時間位かけて徐々に改善した.血液や尿検査には明らかな異常は見られず,上部消化管内視鏡検査でも症状の原因は明らかではなかった.腹部超音波検査(US)でルーチン検査後,腹腔動脈の血流を測定したところ,流速は高値でありUS でのCeliac Artery CompressionSyndrome(CACS)の診断基準を満たした.造影CT 検査では腹腔動脈の明らかな狭小化は認めなかったが,広義のCACS に相当すると考えられた.食事に関連する上腹部痛を主訴に来院する患者の中に,CACS が含まれる可能性があり,今後は疾患自体の啓発活動と共に診療システムの確立が必要とされる.(平成24年6月5日受理)

2012.03.08

Bibliographical studies on human cases of Hard Tick (Acarina: Ixodidae) bites in Japan (8) Whole aspect of Tick bite cases: 1941 to 2005 *

 1941.2005年に本邦で発生したマダニ類の人体寄生症例の報文を通覧して疫学的に検討した.症例数は1,223例(男性517,女性583,性別不明123)である.患者の都道府県別発生数では,長野が360例(30.2%)で最も多かった.患者は年間を通して各月に発生しており,発生率は6月の29.6%をピークに,94.2%の患者が4.9月に集中していた.患者の年齢は,1.92歳で,60歳代の女性が10.3%で最も多かった.虫体の寄生部位は,眼瞼が9.4%で最も多く,次いで腹部が8.2%,頸部が7.9%の順で,体幹部の寄生が45.7%(492例)を占めていた.患者がマダニの寄生を受けた場所は,大多数が山岳地帯であった.本稿では,9歳以下の小児マダニ刺症189例(男児90,女児98,性別不明1)およびマダニ10個体以上の人体咬着例18例(男性8,女性10)についても言及した.(平成24年2月25日受理)

2012.03.07

Wechsler intelligence scale findings in obsessive-compulsive disorder patients with pervasive developmental disorder *

 近年,精神科臨床において,治療に難渋する例に広汎性発達障害(PDD)の併存が気づかれることが注目されている.治療抵抗性の強迫性障害(OCD)患者ではPDD を併存していることが多いことが報告されている.OCD 患者の治療の初期にPDD の併存に気づくことができると,より効果的な治療に導くことができると考えられる.しかし,特に成人のPDD を伴うOCD 患者の特徴についての研究はわずかしかない. 本研究ではOCD 患者64名(18歳~61歳,男性25名,女性39名)をPDD 群と非PDD 群に分け,成人用ウェクスラー式知能検査第3版(WAIS-Ⅲ)の所見を調べた.64名中19名(男性10名,女性9名)をPDD と診断した.19名の内訳は,自閉性障害が2名,アスペルガー障害が10名,特定不能のPDD が7名であった.本研究以前にPDD だと既に診断されていた者はなかった. 結果は,PDD 群と非PDD 群で年齢や強迫症状の重症度,FIQ(全検査知能指数),VIQ(言語性知能指数),PIQ(動作性知能指数)に差はなかったが,VIQ-PIQ はPDD 群で有意に高かった.WAIS-Ⅲ下位検査のロジスティック回帰分析では,「類似」の高さと,「符号」の低さがPDD を伴うことと有意に関連していた. 以上から,OCD 患者を診療する際は,WAIS 検査の「類似」の高さと「符号」の低さに注目することで,PDD の存在に気づきやすくなると考えられた.(平成24年6月15日受理)

2012.03.04

Bile duct injury during laparoscopic cholecystectomy, 1997 – 2002  A multicenter study of 201 bile duct injuries in 31,000 operations in Japan *

 2004年に術中胆道損傷の治療と成績に関するアンケート調査を行った.調査対象施設は日本胆道外科研究会の施設会員である233施設で,1997年4月から2002年3月末までの胆嚢摘出術症例を対象とした.233施設にアンケート用紙を送付し,回答が得られたのは146施設で,回答率は62.7%であった.開腹による胆嚢摘出術(OC) は11436例,腹腔鏡下胆嚢摘出術(LC) は31000例総数42436例で,そのうち胆道損傷は256例の報告があり,発生率は0.6%であった.術式別に比較するとOC では0.35%,LC では0.65%で,LC の方が有意に発生率が高かった.LC での胆道損傷の256例中,回答のあった201例について検討を加えた.男女比は96/105で,平均年齢は56.6歳(21~88歳)であった.術前診断は胆嚢結石症,慢性胆嚢炎,総胆管結石症,胆嚢ポリープ,急性胆嚢炎などであった.胆道損傷の解剖学的部位は総胆管44.8% , 総肝管21.9% , 胆嚢管9.0%,右肝管6.0%で,あった.損傷の形態は部分的損傷56.7%,完全離断33.8%で,損傷の様式は鋭的損傷58.7%,鈍的損傷21.4%,熱損傷6.5%であった.損傷の原因は高度癒着51.7%,解剖学的変異8.5%,その他(不注意,未習熟,誤認など)31.3%であった.初回治療の方法は開腹手術71.1%,腹腔鏡下手術18.4%,その他9.5%であった.開腹手術による治療の内訳は損傷部縫合閉鎖40.4%,胆管端々吻合16.9%,胆管空腸吻合27.5%,胆管十二指腸吻合4.5%などであった.腹腔鏡手術による治療ではほとんど損傷部縫合閉鎖が行われていた.その他の治療では,ENBD,ERBD,PTCD などが行われていた.初回治療の時期は術中66.7%,術後32.8%であった.胆道損傷に起因する死亡を2例に認めた.死因は胆汁性腹膜炎および肝不全,急性重症膵炎であった.(平成24年4月13日受理)

2012.03.03

Five-year single center experience of small bowel capsule endoscopy *

 カプセル内視鏡は従来,診断困難であった小腸病変の検出に有効な非侵襲的検査法であり,2007年10月より,原因不明の消化管出血(OGIB)に対して保険診療として認可されている.当院において過去5年間に施行した小腸カプセル内視鏡検査について集計し,患者の臨床背景およびカプセル検査により検出された病変について検討した.2009年3月より,リアルタイムビューアを導入し,十二指腸に2時間以内にカプセルが到達するように,飲水負荷,メトクロプラミド筋肉注射,さらに内視鏡下の回収ネットによるカプセルの誘導を行った.原則2名の医師でカプセル画像を読影した.5年間に施行されたカプセル内視鏡検査は,341例(男性187例 女性154例で,平均年齢64歳)に対して,404件であった.基礎疾患として,虚血性心疾患,弁膜症術後,心房細動等の心疾患を有する例が多く(18.4%),腎不全例も8.7%含まれていた.検査目的は,原因不明消化管出血が64.1%と最も多く,カプセルを2回繰り返した例は,36例(10.6%)であった.抗血栓薬を内服している例は,118例(34.6%)で,低用量アスピリンが最も多く,全体の23.4%であった.検出病変の内訳では,小腸びらん・潰瘍病変が最も多く(41.9%),約半数は,アスピリンを含めたNSAIDs 起因性小腸粘膜傷害であった.Angioectasia は13.8%,小腸腫瘍は15.2%で,異常所見を認めなかった症例は,16.1%のみであった.1例にカプセルが滞留し,ダブルバルーン小腸内視鏡で回収した.ペースメーカー装着6例に対して安全に施行でき,良好な画像が得られた.検査後,内視鏡的止血術を9例に,内視鏡的ポリープ切除術を5例に,外科手術を12例(空腸癌,脂肪腫,GIST 各2例, Heyde 症候群,若年性ポリープ,重複腸管内翻,pyogenic granuloma,メッケル憩室,Inflammatory fibroid tumor 各1例)に施行した.小腸カプセル内視鏡検査は,基礎疾患を有する高齢者に対しても安全に施行でき,病変検出率が高く,小腸疾患の診療に有用と考えられた.(平成24年4月9日受理)

2012.03.02

Quality evaluation of medical research by Kawasaki Medical School using bibliometric analysis *

 最近10年間の川崎医科大学の研究業績の量はコンスタントに維持もしくは微増しているが,研究のアウトカムに匹敵する質の評価についてはこれまで明確に示されてこなかった.今回,学術研究論文の引用に基づいた研究業績の質評価を試み,日本国内の類似の規模の医学部をもつ大学の間で比較を行った.Web of Science, SCOPUS, Google Scholar などのデータベースとその解析を利用して過去5.10年間の研究業績を分析すると,SCOPUS に収載されている出版数で見たときの国内ランキングが121位であるのに対し,引用頻度の高い論文の比率を示す“卓越指数”では53位である.Web of Science で機関毎に集計した国内医科大学での比較では,過去10年間(2002年.2011年)のh-index は54であり,27校中19位となり,5年前に行った類似の分析結果(27位)に比べて順位は上がっている.本学に所属する個々の研究者についての個別分析では,研究分野による差は見られるが,全体的に質の高い研究が行われていることが分かる.このような客観的指標を用いた研究業績の質評価は医学・生命科学研究の指向や施策に今後大きく影響する可能性があり,計量書誌学的な引用度に基づく指標を用いた研究の質評価には注目して行かなければならない.(平成24年4月4日受理)

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