2010.01.05
Investigation of programmed cell death in the developing inner ear of mouse embryos *
プログラム細胞死の研究は以前から行われているが,その制御メカニズムは未だ不明な点が多い.これに対し我々はapoptosis 検出法であるTUNEL 染色で,胎生12日マウス内耳においてTUNEL 陽性死細胞にはapoptosis だけでなく,autophagic cell death も存在することを報告した.また我々は内耳毒性を有するCDDP を妊娠マウスに投与し,胎仔内耳の総死細胞数は不変であるのに対して,死細胞におけるapoptosis 比率減少とautophagic cell death 比率増加を発見し,これらが胎生期内耳の防御機構と考えた.本研究ではこの機構解明を目的に,CDDP 投与胎生12日マウスの内耳を用いて,関連遺伝子のReal time-PCR 法,Western Blot 法,免疫染色法による検討を行った. Real time-PCR では,CDDP 投与でautophagy 関連遺伝子beclin1と,apoptosis 関連遺伝子cspase3の発現が増加した.免疫染色ではapoptosis 細胞のみcleaved caspase3蛋白発現を認め,Western Blot ではCDDP 投与でbeclin1とcspase3 の蛋白発現が増加し,cleaved caspase3は逆に減少した. このbeclin1遺伝子発現増加は,以前に我々が報告したCDDP でのautophagic cell death 比率増加に矛盾しないものであった.これに対し,apoptosis 関連遺伝子のcaspase3発現増加は,apoptosis 比率減少と矛盾するが,免疫染色,Western blot の結果からは蛋白レベルでの抑制が示唆される.特にcaspase3蛋白増加に対し,切断後の活性型蛋白であるcleaved caspase3が逆に減少していることから,caspase3切断による活性化プロセスでの抑制が示唆された.(平成21年10月8日受理)
2010.01.04
Changes in bone geometry and microarchitecture caused by intermittent administration of PTH: comparison with those by exercise load *
副甲状腺ホルモン(PTH)の間歇投与が,海綿骨量を増加させることは多数報告されている.しかし,PTH 間欠投与の骨微細構造に対する影響を運動などの生理的刺激による変化と比較した報告はほとんどみられない.今回我々は,非荷重に伴う大腿骨海綿骨微細構造劣化後の回復に対するPTH 投与および運動負荷の効果について,マイクロCT を用いて比較検討した. 生後8週齢のWistar 系雄性ラット32匹を対照群(CON),懸垂安静回復群(S+C),懸垂PTH投与群(S+P),および懸垂ジャンプ運動群(S+J)の4群に分けた.S+P 群には,2週間の尾部懸垂後,ヒトPTH(1-34)を1日75μg/kg,週5回,5週間にわたり間歇投与した.S+J 群には,高さ40cm,1日10回,週5日の頻度で5週間ジャンプ運動を行わせた.実験終了後,両大腿骨を摘出し,右大腿骨遠位骨幹端海綿骨領域を,マイクロCT により撮像した.得られた断層データから,三次元画像解析装置を用いて骨梁構造指標を求めた.さらに,骨幹部の幾何学的特性を評価するため,マイクロCT を用いて左大腿骨中央部を撮像し,次いで,3点支持の破断試験を行って骨強度を測定した. S+P 群とS+J 群はいずれも,S+C 群に比べ,大腿骨骨幹端海綿骨の骨量,骨表面積,骨量体積率,フラクタル次元,連結性密度,骨梁幅,骨梁数および構造異方性が有意な高値を,骨梁間隙,骨梁パターン因子(TBPf)および構造モデル指標(SMI)が有意な低値を示した.一方,骨幹部の皮質骨面積,厚さおよび骨強度は,S+J 群がS+C 群に比べ有意な高値を示したのに対し,S+P 群は皮質骨厚を除いてS+C 群と有意な差を認めなかった.以上の結果より,PTH の間歇的投与は,海綿骨の微細構造に対してはジャンプ運動に類似した変化をもたらすが,皮質骨の幾何学的特性と骨強度にはPTH の効果が少ないことが示唆された.(平成21年10月8日受理)
2010.01.01
My former teacher * (no abstract)
2009.04.05
Increases in hemaglutinin (HA) sugar chains may contribute to the survival of influenza viruses among humans? *
ヒトのA 型インフルエンザH3N2亜型(いわゆる香港型)ウイルスは,1968年に人間界に出現以来,今日まで流行を繰り返してきた.その間,ヘムアグルチニン(HA)の抗原性が徐々に変化すると共に,HA 頭部の糖鎖数も徐々に増加し,出現当時は2本であったのが今世紀初めには7本になっている.HA 頭部にはウイルスの主要抗原部があるため,糖鎖数が増加することによって抗原部が覆い隠されて,免疫系の攻撃から逃れやすくなるのではないかと推測されてきた.本研究では,この可能性を検証するため,2001年に分離されたインフルエンザA/Okayama/6/01(H3N2) ウイルスのHA を起点として,遺伝子工学的に糖鎖結合モチーフを順次(時代を遡って)除いたHA を作製し,リバースジェネティクスによりこれらのHA を組み込んだウイルスを作製して,実験を行った.オリジナルのHA を持つウイルス(H3-0)および糖鎖結合部を1~3個減じたHA を持つウイルス(H3-1, H3-2, H3-3)を同じ感染価に揃えてそれぞれマウスに経鼻接種し,1カ月間観察後に採血して,血清中の中和抗体価を調べた.それぞれのウイルス接種により産生された抗体は,接種に用いたウイルスに対して高い中和抗体価(中央値1:4621~1:6132)を示した.糖鎖数の異なるウイルスに対する中和活性,即ち交叉反応性を調べると,H3-1とH3-2の間では互いに交叉して抗原性の違いが見られなかったが,H3-0とH3-1間およびH3-2とH3-3間では抗原性の違いがはっきりと認められた.これらの結果からインフルエンザウイルスのHA 頭部の糖鎖付加は宿主の免疫機能からの逃避に役立つことが示されたが,同時にまた,付加のみならず糖鎖の減少もまた抗体の中和活性を減ずること,糖鎖の付加部位によってその効果は大きく異なることも明らかになった.本研究によって得られた知見を基に,ニューヨーク市における過去のインフルエンザ流行パターンについても解析を行った.(平成21年10月5日受理)
2009.04.04
A barrier function made up of the receptor preference of the virus and the paucity of receptors in human airways against avian influenza virus infection *
鳥類の間では膨大な種類のインフルエンザウイルスが行き交っており,新型ウイルス発生の重要な源になっているが,トリのインフルエンザウイルスは容易にヒトに感染しないのは,レセプター特異性の違いが大きなバリアとなっているためと考えられている.則ち,レセプターとしてトリのインフルエンザウイルスはα2,3結合型シアロ糖鎖(SAα2,3)を,一方,ヒトのウイルスはα2,3結合型シアロ糖鎖(SAα2,6)を認識するが,ヒト上気道細胞にはSAα2,3(言わばトリ型レセプター)がほとんど存在しないため,トリのウイルスはヒト細胞に吸着侵入できないと言う考え方である.しかし強毒型トリインフルエンザの感染で多数の死者が出ていることに加え,最近,SAα2,3の存在がヒト呼吸器上皮でも報告されており,この考え方の再検討が必要になってきた.本研究ではヒト呼吸器上皮由来のA549細胞と弱毒型トリインフルエンザウイルスを用いて,レセプターとウイルスの吸着侵入の関連を解析し,ヒトA549細胞上には大量のSAα2,6に加えて少量のSAα2,3も存在すること,用いた3種のトリインフルエンザウイルスは細胞上に少量存在するレセプターを利用して細胞に侵入し,ウイルス抗原の合成を開始する能力を持っていること,しかしその効率(能力)はウイルス間で大きな差があること,を明らかにした.従って“ウイルスのレセプター特異性の違いと細胞におけるレセプターの偏在”が形成するバリアは厳密なものではなく,ウイルスの種類によっては容易にバリアを乗り越える可能性が示された.(平成21年9月2日受理)
2009.04.03
Introduction of the MRL-MpJ wound-healing phenotyoe improves skeltal muscle pathology in Duchenne muscular dystrophy model mice *
MRL-MpJ マウスは耳穴が閉鎖するというユニークな表現型から発見された自然発症変異マウスで創傷治癒促進及び組織再生モデルとして盛んに研究されているが,その責任遺伝子は未だ不明である.本研究ではこの創傷治癒形質MRL-MpJ を交配によってジストロフィン欠損デュシェンヌ型筋ジストロフィーモデル(mdx)マウスに導入し,骨格筋の筋ジストロフィー病変について解析した.6週齢の導入マウス四肢筋(大腿四頭筋)では,mdx マウスで認められた単一筋線維断面積減少は有意に改善し,また再生(中心核)線維数も有意に増加していた.14週齢の導入マウス呼吸筋(横隔膜)でも同様に単一筋線維断面積減少の改善と中心核線維数の増加を認めた.更に導入マウス横隔膜では線維化の指標であるヒドロキシプロリン含有量が有意に減少していることが明らかとなった.これらの結果からMRL-MpJ 創傷治癒形質の導入は,ジストロフィン欠損筋の線維化を抑制し筋再生を促進するため,現在有効な治療法がないデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者に対する新しい治療法となる可能性が示唆された.(平成21年9月4日受理)




