h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

topimage01

2021.09.17

A case of bilateral chylothorax after surgery for papillary thyroid cancer

甲状腺癌術後の乳糜漏は比較的稀な合併症であるが,乳糜胸となる症例はさらに稀である.今回,甲状腺癌術後に両側乳糜胸となり保存的治療で改善した症例を経験したので報告する.症例は73歳女性.甲状腺乳頭癌Stage Ⅳ B の診断となり,甲状腺全摘,頸部リンパ節郭清が施行された.一過性の術後副甲状腺機能低下以外は問題なく経過し,翌日から通常食を開始した.術後3日目に頚部ドレーン排液の減少を確認し抜去した.術後4日目に呼吸苦が出現した.造影CT で両側に胸水貯留を認め,右胸腔ドレナージを施行した.排液は黄白色であり,乳糜胸を疑い絶食管理を開始した.術後9日目に食事再開したがその後も増悪所見なく術後12日目に胸腔ドレーン抜去し,術後16日目に退院となった.甲状腺癌の外側頸部リンパ節郭清術後に呼吸困難を来した場合は乳糜胸も鑑別として考えるべきである.

2021.09.06

A case of pneumonia with asymptomatic reversible splenial lesion

熱性疾患罹患中に,異常言動・行動,意識障害,痙攣などの神経症状を呈し,可逆性脳梁膨大部病変を認める病態は,可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症脳炎・脳症(clinically mild encephalitis / encephalopathy with a reversible splenial lesion;MERS)として知られている.我々は,肺炎罹患中に,神経症候を認めない可逆性脳梁膨大部病変を呈した症例を経験したので報告する.患者は37歳,男性.肺炎発症前に,交通事故による脳震盪のエピソードがあった.その後,発熱と湿性咳嗽を生じた.脳震盪のフォローアップ目的で頭部MRI を施行し,脳梁膨大部病変を認めた.神経学的所見は異常を認めなかった.胸部Ⅹ線および胸部CT では,左肺下葉に肺炎像を認めた.肺炎に対して,抗菌薬投与を行い,改善を認めた.第35病日の頭部MRI では脳梁膨大部病変が消失しており,可逆性の脳梁膨大部病変と診断した.神経症候を認めない熱性疾患例の中に,本症例のような可逆性脳梁膨大部病変を呈する例が潜んでいる可能性があると考える.

2021.09.06

Therapeutic effect of lenvatinib and predictive factor of objective response in patients with unresectable large hepatocellular carcinoma

肝動脈化学塞栓療法(TACE)の適応とされてきた肝細胞癌の一部(最大腫瘍径(cm)と腫瘍個数の和が7を超える[up-to-seven out])はTACE 不応であることが明らかにされている.そこで最大腫瘍径 > 6cm の切除不能大型肝細胞癌に対するレンバチニブ(チロシンキナーゼ阻害薬)の治療成績を検討し,治療奏効予測因子を解析した.対象は2018年4月から2020年10月までの間にレンバチニブを導入した122例の肝細胞癌症例のうち,治療効果判定が可能で最大腫瘍径 >6cm であった45例である.mRECIST による最良治療効果はCR/PR/SD/PD が0/23/13/9例で,奏効率は51.1%,腫瘍制御率は80%であった.奏効群(23例)は治療開始早期(1か月以内)のΔCRP(治療開始後最大CRP 値−治療前CRP 値)が非奏効群(22例)にくらべて有意に大きく( P < 0.001),独立した治療効果予測因子であった(オッズ比:1.39,95% CI:1.08-1.78,P = 0.01).一方,全生存期間中央値は12.3か月,無増悪生存期間中央値は4.9か月であり,生存期間予測因子は総ビリルビン値(ハザード比:2.74,95% CI:1.35-5.55,P = 0.005),腫瘍制御率(ハザード比:0.33,95% CI:0.12-0.94,P = 0.038),後治療有り(ハザード比:0.33,95% CI:0.13-0.70,P = 0.013)が有意な因子として抽出された.G3以上の有害事象では,ALT・AST 上昇が8例(17.8%)と最も高頻度であった.以上より,腫瘍径 > 6cm の切除不能大型肝細胞癌に対するレンバチニブの治療成績は良好で,レンバチニブ治療開始早期のΔCRP は治療奏効の予測因子であるとともに,レンバチニブ中断後も可能な限り後治療を行うことが生存期間を延ばすうえで重要であると考えられた.

2021.09.06

Differential diagnosis of intracranial tumors using 201Tl SPECT

タリウム-201単光子放射断層撮影法(201Tl SPECT)は頭蓋内腫瘤の評価目的で,CT やMRI,18F-FDG PET/CT とともに現在も用いられるが,その鑑別診断における有用性の報告は限られている.今回我々は,2014年4月1日から2019年3月31日の間に,自施設で頭蓋内腫瘤の鑑別診断を目的として201Tl SPECT が施行され,視覚的に有意な集積を認め,かつ臨床的に最終診断に至った39例(男性25例,女性14例,平均64歳)を対象として後方視的に解析し,その有用性を再評価した. 病理検査,臨床経過(良性の場合は1年以上)または治療的診断によって,39例のうち26例は悪性腫瘍,13例は良性病変と最終診断されていた.201Tl SPECT 画像からは,早期相における腫瘍(Tumor)と正常脳(Normal)との集積比(早期T/N 比),および後期T/N 比と早期T/N 比の比であるRetention Index(R.I.)を算出し,腫瘤の良悪性や組織型によって比較した. 早期T/N 比は,髄膜腫で11.91 ± 9.45と非常に高く,悪性病変では5.77 ± 4.60と中程度で,髄膜腫以外の良性病変では2.44 ± 0.91と低い傾向を認めた.R.I. は,悪性病変では1.03 ± 0.54と高く,髄膜腫では0.63 ± 0.31と低い傾向を認めたが,髄膜腫以外の良性病変では0.93 ± 0.25と比較的高値を示した.R.I. のカットオフ値を0.7以上とした場合の悪性腫瘍の感度は69.2%,特異度は38.5%,正診率は59.0%であった. 早期T/N 比やR.I. は腫瘤の良悪性や組織型によって異なる傾向が見られており,これらを組み合わせることで診断の一助になり得た.ただし,早期T/N 比やR.I. は病変のサイズや内部の性状にも影響を及ぼされるため,鑑別に際してはこれらの点を考慮しながら判断する必要があると考えられた.

2021.08.06

Intramural hematoma of the descending colon with intraperitoneal hemorrhage: a case report

結腸壁内血腫は稀な疾患で,全消化管壁内血腫の4.4%とされている.消化管壁内血腫の原因は外傷や抗血栓療法関連が多く,特発性は全体の1.1%とされている.医学中央雑誌では,結腸壁内血腫の本邦報告例は29例で,そのうち腹腔内出血と関連した報告は3例のみである.誘因なく腹腔内出血を来した下行結腸壁内血腫の1例を報告する.症例は70歳台男性,X 月X 日に明らかな誘因なく左側腹部痛を自覚した.様子をみたが改善なく翌日近医受診し,CT で下行結腸腫瘤と腹水貯留を認め当院搬送された.当院の腹部超音波検査では,下行結腸内腔を圧排する粘膜下腫瘍形態の境界明瞭な約70mm の腫瘤を認め,腸管壁と不可分であった.腫瘤内部は無エコー~高エコーが混在しており,color Doppler imaging で血流信号は認められず,腹腔内腫瘍の腸管浸潤を疑った.また,汎発性腹膜炎と腹腔内出血を認めた.造影CT で,下行結腸腸管壁に連続した筋肉よりもわずかに低吸収の造影効果のない腫瘤と,腫瘤近傍に紡錘状の動脈瘤が認められた.腹腔内出血と結腸壁内血腫の疑いの診断で,同日緊急外科的治療が行われた.術中所見は,腹腔内に鮮紅色の血性腹水が貯留し,下行結腸の壁内血腫漿膜側が穿破し,同部から出血していた.手術標本では,血腫は粘膜下層から漿膜下層に認められ,主体は漿膜下層であった.明らかな動脈硬化性変化は認められなかった.結腸壁内血腫は粘膜下腫瘍形態を呈し,保存的加療が原則とされるが,腸閉塞,腹腔内出血,出血性ショックを伴うこともあり,その場合は外科的治療が選択される.診断は造影CT が有用である.腹部超音波所見では,粘膜下腫瘍形態で,腫瘤内に血流信号が認められないことが鑑別の一助となる可能性がある.本症例では,病歴や画像所見および組織学的所見から,病態背景に分節性動脈中膜融解が存在していた可能性がある.

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