h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

topimage01

2022.10.26

Relationship between BPSD and regional cortical volume in dementia

認知症の症状,特にBPSD は罹患した本人のみならずその家族や周りの人の生活,QOL にも影響を与える.BPSD は中核症状と環境要因,身体要因,心理要因などの相互作用によって起こることが多く症状の軽重には個人差もあることからその発症予測は難しい.BPSD 発症に関わる神経基盤の理解とその発症リスク予測につながる客観的な指標の確立のための探索的検討として,BPSD の発症と脳の構造的変化との関連を検討する目的で,MRI データにおける大脳皮質の局所容積変化をBPSD 発症の有無で比較し,BPSD 発症に関連する脳領域の検討を行った.川崎医科大学附属病院脳神経内科ものわすれ外来を受診した患者20名(平均74.8歳,男性5名)を対象に年齢,性別,認知機能(MMSE-J,FAB),うつ(GDS-15-J),BPSD の程度(阿倍式BPSD スコア:ABS)を用い,BPSD の有無(ABS:0vs1以上)によって患者を2群に分け患者背景,臨床指標評価を比較した.また同時期に測定したMRI 3DT1画像データを使用し,SPM12ソフトウェアを用いて患者の灰白質,白質,脳脊髄液領域を分離し,解剖学的標準化を行って灰白質容積の群間差を検討した.結果,年齢,性別,MMSE,FAB,GDS は両群間で有意差を認めなかった.灰白質容積の群間差の検討では,BPSD あり群では右中前頭回(BA6),右下前頭回三角部(BA45)の灰白質容積が有意に低下していた.BA6とBA45におけるABS と灰白質容積にはそれぞれ負の相関があった.認知症患者のBPSD 発症が右前頭葉皮質の灰白質容積低下が関連している可能性が示唆された.先行研究によりBA6は他者の意図を推察する心の理論課題に関与し,BA45の灰白質容積の低下は統合失調症患者における妄想や陽性症状との相関が示唆されている.今後BPSD の発症予測や個別治療の可能性につながる重要な知見と考えられ,今後の研究の進展が期待される.

2022.10.26

A case of intra-abdominal abscess that developed 4 years after pancreatic cancer surgery

症例は74歳男性.膵体部癌を指摘され当院消化器外科にて201X 年に膵体尾部切除施行. 術後半年間テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム内服.3ヶ月ごとのcomputed Tomography(CT)と腫瘍マーカーで当院消化器外科にて経過観察していた.術後4年に腹痛で当院消化器外科外来を受診.CT で新たに胃大弯側から横行結腸にかけて内部壊死を疑う造影不良域を伴った腫瘤性病変を認めた.膵癌の大網播種を疑われ,abdominal ultrasonography(AUS)でも同様に腹膜播種が疑われた.消化器内科で化学療法の方針となり病理学エビデンス取得目的でendoscopic ultrasound-guided fine-needle aspiration(EUSFNA)を施行したがEUSFNA では明らかな腫瘍細胞を認めず,壊死様の蛋白様物質とともに多数の細菌を認めた.採血で炎症反応高値であったことから,膵癌の腹膜播種ではなく腹腔内膿瘍を疑い抗生剤で治療を開始.治療後の画像検査では膿瘍の縮小を認めた.今回膵癌術後4年目に発症した腹腔内膿瘍の一例を経験したため若干の文献的考察を加えて報告する.

2022.07.28

A case of protuberant lesion of the gallbladder for which FFT analysis may have been useful in determining benignity

胆嚢の隆起性病変は,良悪性の鑑別が重要である.今回First Fourier Transfer(FFT)解析が良悪性の鑑別に有用と思われた1症例を経験したので報告する. 症例は75歳女性,健診で近医受診.abdominal ultrasonography(AUS)で,胆嚢隆起性病変を指摘され当院当科紹介となった.精査の結果,胆嚢癌が疑われ,手術が施行された.病理所見では,胆嚢コレステロールポリープの診断であった.胆嚢の隆起性病変では,AUS による壁血流速度測定が良悪性の鑑別に有用であるとの報告があるため,胆嚢隆起性病変で良悪性の鑑別が困難な症例においてはAUS で壁血流速度を評価することが重要であると思われた.

2022.07.13

A dialysis patient with multiple intestinal diverticula in whom partial penetration was recognized.

小腸憩室は比較的稀な疾患で,多くが無症状で経過するが,穿孔した場合は腸間膜内に穿通し膿瘍形成をきたす.高齢者に多く,その診断および治療の遅れから重篤な経過をたどることも少なくない.その診断にはコンピュータ断層撮影(CT)が有用とされているが,穿孔部位や憩室の特定は困難とされ,術前に指摘できるものは決して多くない.透析患者では高リン血症に対し陰イオン交換樹脂剤などが一般的に使用されるが,消化管穿孔の注意が記載されている.今回我々は,透析患者の腸管穿孔の原因検索に体外式超音波(US)が有用であった1例を経験したので,文献的考察を含めて報告する.症例は70歳台男性,18年前から血液透析を行っている.10日前に発熱で近医を受診し,保存的に経過を見ていたが炎症反応の上昇を認め当院紹介受診した.身体所見は心窩部付近に軽度の圧痛を認めたが腹膜刺激兆候は明らかでなかった.単純CT で消化管外のfree air が疑われ,精査目的にUS が行われた.US では空腸に多発している憩室と,憩室周囲の膿瘍形成およびその内部のfree air と思われる点状高エコーが認められ,小腸憩室穿通と診断した.同日小腸切除術が行われ,病理組織学的検索の結果,US と同様の所見であった.また穿通した憩室にセベラマー結節が認められ,憩室穿通に関与した可能性が示唆された.US は透析患者における憩室穿通の診断に有用である.

2022.06.13

An adult female suspected case of herpangina presenting with fever, headache, and oral phlyctenula

ヘルパンギーナは,発熱と口腔粘膜の水疱性の発疹が特徴の急性のウイルス性咽頭炎で,おもに小児にみられ,夏に流行する.我々は,発熱,頭痛,軟口蓋の小水疱を呈し,ヘルパンギーナが疑われた成人女性の1例を経験したので報告する.患者は25歳,女性.7月に発熱,頭痛,嘔気を主訴に受診し,入院となった.血液検査では,CRP とプロカルシトニンの上昇を認めた.頭部CT では,出血や占拠性病変は見られなかった.胸腹部CT では,熱源となる異常所見は見られなかった.抗菌薬投与と対症療法を行い,発熱,頭痛は改善を認めた.口腔内違和感の訴えがあり,口腔内所見で軟口蓋に紅暈を伴う小水疱を数個認め,エンテロウイルス属感染症(ヘルパンギーナ)が疑われた.エンテロウイルス属のウイルス抗体検査では,原因ウイルスは特定できなかった.夏期に発熱,口内炎を呈する場合には,成人でもへルパンギーナを鑑別に挙げる必要があると考える.

← newer entries older entries →