h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

topimage01

2021.03.26

Categorization of consciousness disturbance in the recovery phase after intracerebral hemorrhage-practicality of newly-invented simplified consciousness recovery scale

脳卒中などの慢性期の意識障害スケールとして利用されているComa Recovery Scale-Revised(CRS-R)を踏襲して,簡便に障害の程度のランク付けが可能なスケールを日本語で作成し,川崎意識障害回復スケールと名付けた.これは,昏睡,植物状態,最小意識状態(2段階),最小意識状態から脱した状態,正常意識状態,からなる6ランクのスケールであり,CRS-R には表記されていない具体例を追加し,更に表情もスケールに追加した.これを実際の臨床で用いる際に,ランク付けが観察者間で大きな相違がないかを検証した.75歳以上の特発性脳内出血症例の中で,血腫減圧術を施行し,かつ退院時にmodified Rankin Scale で重度の障害(ランク5)と判定された8症例を対象に,退院時意識レベルを後方視的にランク付けした.観察者は医師3名,看護師3名,リハビリ療法士3名で,川崎意識障害回復スケールの説明を受けた後で,独立してランク付けを行った.結果は9症例中2症例で全員が同じランク,5症例で1名の観察者のみが1ランク異なったランクを付けており,2名以上が異なるランクを付けたのは2症例で,ケンドールの一致係数Wは0.871(p < 0.001)と,観察者が異なっても安定したランク付けになると考えられた.状態の改善期において観察者が同時には改善徴候に気付けないこともあり,ランク付けの相違は完全には防ぐことはできないが,少なくするためには,後方視的研究においてはカルテの見逃しを避けるために複数の観察者で行うこと,またスケールの理解不足も原因となるが,これを防ぐためには医療チームで定期的な振り返りを行い,スケールに対する共通の認識を持つ必要があると考えた.このスケールは症例間での意識レベルの比較が可能であり,高齢者への脳神経外科的な治療介入の効果を検討する際に有用と考えられた.

2021.02.01

A case of spontaneous isolated common hepatic artery dissection accompanied by acute epigastric pain

症例は69歳,男性.近医でパーキンソン病,肺気腫およびアルコール性肝障害などと診断され加療中であった.突然,心窩部痛を認め,改善しないため当院に救急搬送となった.心窩部に圧痛を認めたが腹膜刺激兆候はなく,腹部造影CT で総肝動脈解離と診断し同日入院となった. 心窩部痛は持続していたが腸管虚血所見を認めなかったことから,アセトアミノフェン点滴による疼痛コントロール,絶食による腸管安静や補液を行い翌日には症状が改善した.その後も症状の再燃なく,第8病日の腹部造影CT では総肝動脈解離の偽腔における血栓像は縮小し,末梢血管の血流は保たれていたため同日に退院となった.孤立性腹部内臓動脈解離は稀な疾患であり,特に孤立性総肝動脈解離の報告例は少ない.孤立性総肝動脈解離を含む腹部内臓動脈解離は中高年の男性に多く,強い腹痛に対し腹膜刺激兆候を認めないことが特徴である.本症例のように腹部所見が乏しく突然発症の腹痛を認める患者では,孤立性総肝動脈解離を含む腹部内臓動脈解離も急性腹症の鑑別疾患の一つとして考慮する必要がある.

2021.02.01

Two cases of laparoscopic fenestration surgery for giant liver cyst and their pathological review

当科にて腹腔鏡下開窓術を施行した巨大肝嚢胞の2例について病理学的検討を加えて報告する. 症例1は80歳代女性で右上腹部の違和感があり画像検査にて約20cm 大の巨大肝嚢胞と診断され腹腔鏡下開窓術を施行した.嚢胞壁の病理所見はBile duct cyst の診断であった. 症例2は60歳代女性で10年前から緩徐に増大する最大径13.7cm の肝嚢胞に対し腹腔鏡下開窓術を施行した.病理診断で線毛性前腸性肝嚢胞という稀な病態であった. 肝嚢胞は基本的に良性疾患であるが,有症状の場合は治療適応となる.巨大肝嚢胞の治療は経皮的硬化療法あるいは開窓術や肝部分切除などが行われる.今回我々は2例ともに腹腔鏡下開窓術を行ったが,低侵襲で整容性にも優れ,十分な症状改善が得られたことから有益な治療手段と考える.なお,症例2のような線毛性前腸性肝嚢胞の場合,扁平上皮癌合併症例の報告があり,比較的若年発症で悪性度も高い傾向のため慎重な治療選択が望まれる.

2021.02.01

A case of successful endoscopic removal in a patient who took aconite for the purpose of suicide.

トリカブトは山野に自生しており,山菜・薬草と間違われ誤食事故を引き起こしている.また自殺目的に用いられることもある.トリカブト中毒ではアコニチンなどのアルカロイドにより経口摂取間もなく重症不整脈をきたし,多量摂取例では致死的となりうる.トリカブトを摂取した患者に対し内視鏡的除去を行い良好な予後を得たので報告する.症例は20代女性,自殺目的に観賞用トリカブトの根を切って飲み,当院へ救急搬送された.来院時自覚症状を認めなかった.胃洗浄を行ったがトリカブトは確認できなかった.摂取後早期であり,トリカブトの根を切って咀嚼せず飲み込んだという病歴から,トリカブト除去目的に上部消化管内視鏡を施行したところ胃内にトリカブトの根を認め内視鏡的に除去しえた.入院後症状の出現なく,心電図変化も認めなかった.経過良好であり翌日退院となった.来院時の胃液ではヒパコニチン 5.1 ng/ml,メサコニチン 21.0 ng/ml,アコニチン 1.1 ng/ml,ベンゾイルメサコニン 3.4 ng/ml が検出されたが,血清,尿からは検出されなかった.一般的にトリカブト中毒が疑われた場合,吸収阻害を目的に胃洗浄さらに活性炭の投与を行うとされている.本症例では,病歴から固形のトリカブトが胃内に残っていると推測し,早期に内視鏡的除去を行った結果,中毒症状を呈することなく経過した.固形物を咀嚼せずに飲み込んだこと,摂取から時間が経っていないこと,物質が吸収された場合致死的であることを満たす場合には,有効な治療法となる可能性がある.

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