2021.06.11
Case study of Guillain-Barré syndrome after cibuatera intoxication
症例は20歳代女性.昼にイトヨリダイを食べ,夕方から気分不良,嘔吐が生じた.2日後起床時から冷たいものを触ると異常に冷たく感じる様になった.嘔吐が続くため当院を受診し,ドライアイスセンセーションと考えられ,食事内容からシガテラ中毒が疑われた.第6病日に入院したが,翌日から筋力低下,腱反射減弱を生じ,翌日には近位筋優位の筋力低下を認めたため,神経伝導検査を施行し,ギラン・バレー症候群(GBS)を発症したと考え,同日から免疫グロブリン大量療法を開始した.その後,顔面麻痺や嚥下障害,呼吸障害などが生じたが,第14病日(GBS の第8病日)が最も症状が悪かった日で,その後徐々に回復し,第42病日にリハビリテーション病棟に転棟し,第75病日に退院した.シガテラ中毒は,熱帯・亜熱帯地域で多く発症し,日本では沖縄からの報告が多いが,本州での報告もあり,温暖化に伴い今後本州において増えてくる可能性があると思われる.ドライアイスセンセーションの症状を呈する患者を診た場合,シガテラ中毒を疑うことが重要である.また,稀ではあるが,ギラン・バレー症候群を併発する症例もあるので,筋力や腱反射をフォローし,異常が生じた場合には,GBS を疑い早期診断・早期治療をすることが予後を左右すると思われる.
2021.06.03
A case of early gastric cancer with difficulty in achieving hemostasis after endoscopic submucosal dissection
症例は80歳代,男性.貧血の精査目的で当科受診し,上部消化管内視鏡検査で前庭部小弯に早期胃癌を認めた.内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を施行し,治癒切除であった.その後,ESD 後潰瘍からの出血を繰り返し,内視鏡的止血術を計9回,経カテーテル的動脈塞栓術を計3回行った.潰瘍からの再出血予防のためポリグリコール酸シート(以下PGA シート)とフィブリン糊を貼付した.その後は出血なく潰瘍の上皮化を確認した.PGA シートとフィブリン糊を用いた内視鏡的粘膜欠損被覆法は,ESD の後出血予防における有用性に関していくつかの報告がされており,出血リスクが高いと思われる症例に関してはPGA シートによる被覆法を検討する必要がある.
2021.04.22
A case of unresectable microsatellite stable colon cancer with hyper progressive disease due to initiation of nivolumab based on the result as tumor mutational burden high
がん遺伝子パネル検査は,次世代シークエンサーにより多数のがん関連遺伝子を網羅的に検索し,検出された遺伝子変異に対する治療による恩恵を受ける可能性のある患者を特定するためのコンパニオン診断である.今回我々はFoundationOne CDx がんゲノムプロファイルにてtumor mutational burden 高値(TMB-high)が判明し,nivolumab 導入に至ったマイクロサテライト安定大腸癌の一例を経験したので報告する. 症例は50代男性.20XX年10月に倦怠感,心窩部痛を主訴に来院し,S状結腸癌 cT3cN3cH3cM1b(多発肺,肝),cStage Ⅳ B,RAS-BRAF 遺伝子変異陰性と診断された.標準治療及び臨床試験参加を含め,一次治療から五次治療を行い,六次治療導入時にmicrosatellite instability(MSI)検査及びがん遺伝子パネル検査を行ったところ,MSI は陰性であったがTMB-high と判定されたため,nivolumab の臨床治験に参加した.しかし,nivolumab 単剤投与1コース施行後に急速な肝転移の増大と肝不全を認め,nivolumab 開始から約2か月後に永眠された.後方視解析により,本患者はnivolumab によりhyper progressive disease(HPD)が誘導されたと考えられた.本症例は,がん遺伝子パネル検査施行時期がやや遅れたことは否めないが,結果的には,この検査施行時期がやや遅れたことが,余命延長に寄与している.このように,新規薬剤への適応参加が必ずしも期待される結果に至らないことを理解して,がん遺伝子パネル検査を行う必要がある.
2021.04.22
Reduction of admission rate after standardized family psychoeducational program: An assessment based on the Family Attitude Scale
家族心理教育は,統合失調症患者を持つ家族の感情表出(Expressed Emotion: EE)を低下させることによって患者の再入院を減少させることが証明されているプログラム(EBP: Evidence Based Program)である.日本ではこのプログラムの普及を目指し,心理教育・家族教室ネットワークが研修を行い,標準版家族心理教育を普及させてきた.今回EE をFAS(Family Attitude Scale)で評価しながら標準版家族心理教育を行った結果をまとめ,考察した.プログラム前後でFAS の有意な改善は見られなかったが,患者の入院率(年あたりの入院回数)はプログラム前後で有意に減少した.プログラムへの参加を中断した家族ではFAS が有意に高く,プログラム開始時に患者が入院している割合が有意に高かった.プログラムの参加を継続した家族およびプログラム参加率の高かった家族,クロザピンを使用した患者の家族において,患者の入院率が有意に減少した.参加が継続できた家族でプログラム前のFAS が高い群では患者の入院率が有意に減少した.FAS が高くプログラムへの参加を中断せざるをえない家族を,いかに支援してプログラムにつなげるかが重要と考えられた.
2021.04.22
Two cases of perforated anastomotic ulcer at the site of gastrojejunostomy after subtotal stomach-preserving pancreatoduodenectomy
当院で経験した亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(sub-total stomach-preserving pancreatoduodenectomy, 以下SSPPD)後の胃空腸吻合部に生じた吻合部潰瘍穿孔の2治療例を報告する.症例1は十二指腸乳頭部癌に対しSSPPD を施行された51歳女性.下腹部痛を主訴に救急外来を受診,腹部CT にてfree air を指摘された.穿孔性腹膜炎と診断し,緊急開腹手術を施行した.症例2は膵頭体部癌に対しSSPPD を施行された後,肝転移に対し化学療法中であった69歳男性.左側腹部痛を主訴に救急搬送され腹部CTでfree airを認めるも保存的加療にて軽快した. 2例ともSSPPD 後の吻合部潰瘍穿孔であったため術後の胃酸分泌能が術前と同等に維持されていた可能性がある.症例1はプロトンポンプ阻害薬を内服中にも関わらず発症した.症例2は腰痛に対する非ステロイド消炎鎮痛剤を常用していたことも発症の一助と推察される.SSPPD 術後の合併症として吻合部潰瘍の可能性を念頭におき予防に努める必要がある.症例に応じては保存的加療でも改善が見込める場合がある.
2021.04.21
End-of-life care provided in our palliative care ward for patients with multiple pulmonary metastatic gallbladder cancer requiring high-flow oxygen
2018年7月から当院に緩和ケア病棟が開設された.当院の緩和ケア病棟では,患者の希望を患者と家族に確認し,どのような希望であってもその目標に向けて,終末期のさまざまな苦痛に苦しむ患者の生活の質を,薬物療養,酸素療法,リハビリテーションや栄養管理などで積極的に改善させる緩和ケアを計画し実践している. 今回,我々は高流量酸素投与を必要としていた多発肺転移胆嚢癌患者へ実践できた終末期ケアについて報告する.症例は,50歳代女性.多発肺転移病変のため,重い咳症状があり,安静時は10L / 分リザーバーマスクにてSPO2 91% で,労作時は86%まで低下し呼吸苦も増悪した.全身倦怠感に対してコルチコステロイド投与を開始し,呼吸苦に対してオピオイド投与を開始し呼吸苦を調整した.調整後,「短期京都旅行」や「息子の婚約者家族との会食」をしたいという本人の思いを確認し,医療ソーシャルワーカー,リハビリセラピストを含めた緩和ケア病棟スタッフで準備計画し,関係機関と連携しながら,実現することができた.
2021.03.26
Categorization of consciousness disturbance in the recovery phase after intracerebral hemorrhage-practicality of newly-invented simplified consciousness recovery scale
脳卒中などの慢性期の意識障害スケールとして利用されているComa Recovery Scale-Revised(CRS-R)を踏襲して,簡便に障害の程度のランク付けが可能なスケールを日本語で作成し,川崎意識障害回復スケールと名付けた.これは,昏睡,植物状態,最小意識状態(2段階),最小意識状態から脱した状態,正常意識状態,からなる6ランクのスケールであり,CRS-R には表記されていない具体例を追加し,更に表情もスケールに追加した.これを実際の臨床で用いる際に,ランク付けが観察者間で大きな相違がないかを検証した.75歳以上の特発性脳内出血症例の中で,血腫減圧術を施行し,かつ退院時にmodified Rankin Scale で重度の障害(ランク5)と判定された8症例を対象に,退院時意識レベルを後方視的にランク付けした.観察者は医師3名,看護師3名,リハビリ療法士3名で,川崎意識障害回復スケールの説明を受けた後で,独立してランク付けを行った.結果は9症例中2症例で全員が同じランク,5症例で1名の観察者のみが1ランク異なったランクを付けており,2名以上が異なるランクを付けたのは2症例で,ケンドールの一致係数Wは0.871(p < 0.001)と,観察者が異なっても安定したランク付けになると考えられた.状態の改善期において観察者が同時には改善徴候に気付けないこともあり,ランク付けの相違は完全には防ぐことはできないが,少なくするためには,後方視的研究においてはカルテの見逃しを避けるために複数の観察者で行うこと,またスケールの理解不足も原因となるが,これを防ぐためには医療チームで定期的な振り返りを行い,スケールに対する共通の認識を持つ必要があると考えた.このスケールは症例間での意識レベルの比較が可能であり,高齢者への脳神経外科的な治療介入の効果を検討する際に有用と考えられた.