h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

topimage01

2021.02.01

A case of spontaneous isolated common hepatic artery dissection accompanied by acute epigastric pain

症例は69歳,男性.近医でパーキンソン病,肺気腫およびアルコール性肝障害などと診断され加療中であった.突然,心窩部痛を認め,改善しないため当院に救急搬送となった.心窩部に圧痛を認めたが腹膜刺激兆候はなく,腹部造影CT で総肝動脈解離と診断し同日入院となった. 心窩部痛は持続していたが腸管虚血所見を認めなかったことから,アセトアミノフェン点滴による疼痛コントロール,絶食による腸管安静や補液を行い翌日には症状が改善した.その後も症状の再燃なく,第8病日の腹部造影CT では総肝動脈解離の偽腔における血栓像は縮小し,末梢血管の血流は保たれていたため同日に退院となった.孤立性腹部内臓動脈解離は稀な疾患であり,特に孤立性総肝動脈解離の報告例は少ない.孤立性総肝動脈解離を含む腹部内臓動脈解離は中高年の男性に多く,強い腹痛に対し腹膜刺激兆候を認めないことが特徴である.本症例のように腹部所見が乏しく突然発症の腹痛を認める患者では,孤立性総肝動脈解離を含む腹部内臓動脈解離も急性腹症の鑑別疾患の一つとして考慮する必要がある.

2021.02.01

Two cases of laparoscopic fenestration surgery for giant liver cyst and their pathological review

当科にて腹腔鏡下開窓術を施行した巨大肝嚢胞の2例について病理学的検討を加えて報告する. 症例1は80歳代女性で右上腹部の違和感があり画像検査にて約20cm 大の巨大肝嚢胞と診断され腹腔鏡下開窓術を施行した.嚢胞壁の病理所見はBile duct cyst の診断であった. 症例2は60歳代女性で10年前から緩徐に増大する最大径13.7cm の肝嚢胞に対し腹腔鏡下開窓術を施行した.病理診断で線毛性前腸性肝嚢胞という稀な病態であった. 肝嚢胞は基本的に良性疾患であるが,有症状の場合は治療適応となる.巨大肝嚢胞の治療は経皮的硬化療法あるいは開窓術や肝部分切除などが行われる.今回我々は2例ともに腹腔鏡下開窓術を行ったが,低侵襲で整容性にも優れ,十分な症状改善が得られたことから有益な治療手段と考える.なお,症例2のような線毛性前腸性肝嚢胞の場合,扁平上皮癌合併症例の報告があり,比較的若年発症で悪性度も高い傾向のため慎重な治療選択が望まれる.

2021.02.01

A case of successful endoscopic removal in a patient who took aconite for the purpose of suicide.

トリカブトは山野に自生しており,山菜・薬草と間違われ誤食事故を引き起こしている.また自殺目的に用いられることもある.トリカブト中毒ではアコニチンなどのアルカロイドにより経口摂取間もなく重症不整脈をきたし,多量摂取例では致死的となりうる.トリカブトを摂取した患者に対し内視鏡的除去を行い良好な予後を得たので報告する.症例は20代女性,自殺目的に観賞用トリカブトの根を切って飲み,当院へ救急搬送された.来院時自覚症状を認めなかった.胃洗浄を行ったがトリカブトは確認できなかった.摂取後早期であり,トリカブトの根を切って咀嚼せず飲み込んだという病歴から,トリカブト除去目的に上部消化管内視鏡を施行したところ胃内にトリカブトの根を認め内視鏡的に除去しえた.入院後症状の出現なく,心電図変化も認めなかった.経過良好であり翌日退院となった.来院時の胃液ではヒパコニチン 5.1 ng/ml,メサコニチン 21.0 ng/ml,アコニチン 1.1 ng/ml,ベンゾイルメサコニン 3.4 ng/ml が検出されたが,血清,尿からは検出されなかった.一般的にトリカブト中毒が疑われた場合,吸収阻害を目的に胃洗浄さらに活性炭の投与を行うとされている.本症例では,病歴から固形のトリカブトが胃内に残っていると推測し,早期に内視鏡的除去を行った結果,中毒症状を呈することなく経過した.固形物を咀嚼せずに飲み込んだこと,摂取から時間が経っていないこと,物質が吸収された場合致死的であることを満たす場合には,有効な治療法となる可能性がある.

2020.12.28

Appendiceal mucinous neoplasm: a review of eleven surgical cases in our institution

虫垂原発粘液産生腫瘍はWHO 分類に基づき低異型度虫垂粘液性腫瘍(Low-grade appendiceal mucinous neoplasm,以下LAMN)と粘液癌に分類される.当科にて2010年4月〜2018年11月までに外科的切除された11症例を集積検討した. 11症例の内訳は年齢が27~88歳(中央値61歳)で男女比は男7人,女4人であった.主訴は腹痛が6人で無症状が5人であった.病理診断での腫瘍最大径は3〜12 cm(平均5.9 cm)であった.術前よりLAMN と疑われた症例は7例で,虫垂腺癌の術前診断に至った症例は1例であった.虫垂腫瘍との術前診断に至らなかった3症例のうち,虫垂炎の術前診断で虫垂切除術施行後に病理診断で判明したものが2例,十二指腸潰瘍穿孔で緊急手術を行った際に合併切除した虫垂組織より偶然発見されたものが1例であった.術式は虫垂切除のみが3例,回盲部切除が5例,右半結腸切除が3例であった.予定手術は6例で緊急手術が5例であった.最終病理診断(大腸癌取り扱い規約第9版に準拠)はLAMN が7例で虫垂腺癌が2例,粘液嚢胞が2例であった.術後入院期間は2〜47日(中央値12日)で,虫垂腫瘍切除に関連する術後合併症はなかった.LAMN は比較的稀な疾患であるが,腫瘍破裂により粘液が漏出することで腹膜偽粘液腫をきたす可能性がある.そのため,再発を引き起こさないためには①画像検査などでの術前診断(術中診断を含む),②術中に粘液漏出させない術式選択,③術後病理診断で判明した場合の追加治療の適否,についてその都度慎重に判断する必要がある. LAMN は低悪性度腫瘍にも関わらず再発の危険性があるため,画像検査で疑った場合は再発防止を念頭においた術前評価と治療方針の策定が必要であり,切除後の厳重フォローも重要である.

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