h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

topimage01

2020.05.01

Prolonged Hypocalcemia after Administration of Denosumab for Gastric Cancer Bone Metastasis: A Case Study

悪性腫瘍の骨転移に対し,デノスマブは骨関連有害事象の予防のため広く使用されている. 低カルシウム血症は比較的頻度の高い有害事象の1つであるが,Common Terminology Criteria for Adverse Events v4.0(CTCAE)Grade4となる重篤な低カルシウム血症は稀である.今回,胃癌骨転移に対するデノスマブ投与後にCTCAE Grade 4の著明な低Ca 血症を呈し治療に難渋した症例を経験したので報告する.症例は50代男性.腰痛を主訴に来院.8年前に幽門部胃癌に対し幽門側胃切除(Roux-en-Y 再建)を施行されている.精査の結果,胃癌術後再発(多発脊椎転移)と診断された.切除不能進行再発胃癌に対する治療として,S-1+ シスプラチン(SP)療法開始.2クール目から多発脊椎転移に対し,デノスマブ皮下注および経口カルシウム製剤の投与を開始した.デノスマブ投与から3日後に上腕と背部の冷感が出現し,血清Ca 5.6 mg/dL と著明な低下を認めた.点滴によるグルコン酸カルシウム補充(最大投与量58.5 mEq/ 日)を行うも血清カルシウム値は不安定であり,安定化するまでに,高容量のグルコン酸カルシウム静注,活性化ビタミンD製剤および乳酸カルシウム製剤の最大量の内服を1か月以上必要とした.本症例の臨床経過とともに,デノスマブによる低カルシウム血症のリスクについて若干の文献的考察を加えて報告する.

2020.04.20

Visual acuity of amblyopic eye under binocular condition and stereopsis in anisometropic amblyopia

片眼弱視における視機能障害の主な原因のひとつとして,眼間抑制の不均衡,すなわち健眼から弱視眼への抑制の影響が知られている.この不均衡の程度は,日常臨床では片眼を完全に遮閉した状態で測定した一眼の視力(片眼遮閉視力)と両眼を開放した状態で測定した一眼の視力(両眼開放視力)を比較することで評価が可能と考えられている. これまで,弱視治療により弱視眼の片眼遮閉視力が1.0以上に回復した不同視弱視症例において,眼間抑制の不均衡がどの程度残存しているかは報告者によって異なる見解が示されている.そこで,本研究では,弱視治療により弱視眼の片眼遮閉視力が1.0以上に到達した不同視弱視患者17例を対象に,方向変換ミラーによる両眼開放視力およびTitmus stereo test による立体視機能について検討を行った. その結果,弱視眼の平均両眼開放視力は平均片眼遮閉視力よりも有意に不良であった(p<0.001).なお,17例中13例(76%)は両眼開放視力が片眼遮閉視力よりも低値を示し,17例中4例(24%)は両眼開放視力と片眼遮閉視力に差がなかった.さらに,両眼開放視力の低下がみられた13例のうち7例(54%)が60秒より不良な立体視を示したが,両眼開放視力が同等であった群は全例が60秒より良好な正常立体視を獲得していた. 以上より,弱視治療により片眼遮閉視力が改善した弱視患者においても,眼間抑制の不均衡が残存している症例が多いことが示唆された.

2020.04.20

A Proposal for an Early Response to Delirium in Terminal Cancer Patients with the Aim of Preventing Extreme Grief

余命2週間のがん末期の患者が,終末期のせん妄による看護師への暴力をきっかけに,「医療者に暴力をふるうような患者です.」と悪評され,不名誉を拭えないまま,両親に見守られる中,亡くなった.対応するスタッフが,終末期がん患者のせん妄に対し早期に対応できていればこのような事態を招かなかったと考えられる.今回の症例を通して,せん妄への早期対応を提案したく報告する.症例は30歳代男性で,4年前,中枢神経がんに対して化学療法が施行され奏効し寛解に到達した.しかし,社会復帰は困難な状況であったため,両親は共に仕事を辞め,付き添い本人を支えた.外来での経過観察中,1年前の3月に別のがんを発症した.後遺症による精神状態とPS不良を理由に化学療法は不可能と判断された.20XX 年2月になり,呼吸状態が悪化したため入院となった.入院後,状態悪化に伴うせん妄症状が出現し,せん妄のため看護師へ暴力行為を行ってしまった.暴力行為のため,転院せざるを得ない旨を両親に説明することとなったが,転院には間に合うことなく,転院の説明から1週間で永眠された.せん妄と,それに伴う暴力行為に対する早期予防・対策が立案できていないことが,この状況を招いた要因と考えられる.せん妄症状の発生に早い段階で気づき,暴力リスクを理解し対策していくことが,がん終末期患者とその家族の深い悲しみを回避する医療を行うために大切なことと考える.

2020.03.24

Red-cell aplasia due to persistent human parvovirus B19 infection three years after umbilical cord blood transplantation-a case study

造血幹細胞移植後に生じる貧血は,骨髄の造血能低下やウイルス感染症等の様々な背景が原因となることがあり,診断が困難であることが多い.ヒトパルボウイルスB19(human parvovirus B19:PVB19)は伝染性紅斑の原因ウイルスであり,遺伝性球状赤血球症等の赤血球寿命が短縮している溶血性貧血患者では,急性赤芽球癆を呈することが知られている.PVB19は移植患者を含む免疫不全状態の患者で慢性貧血を引き起こすことがあり,腎移植患者などでの報告例は多く存在するが,臍帯血移植後におけるPVB19感染による後天性赤芽球癆の症例の報告はほとんどない.今回我々は,臍帯血移植が成功したのち3年を経て発症したPVB19が4か月以上持続感染している症例を経験したので報告する.

2020.02.17

Current status and problems of elderly drivers in our outpatient clinic

当院では平成29年3月12日の道路交通法改正を踏まえて平成29年4月より,もの忘れ外来とは別に「運転免許外来」を新設し,時間をかけた丁寧な診療と告知,指導,運転免許返納後の生活確保・支援ができるよう,多職種で受診者に対応している.平成31年4月までの運転免許外来受診者は31人で,平均年齢80.07±3.91歳.第一分類該当者19人,交通違反での紹介3人で,その他は自発的な受診であった.10例は既に事故を起こし,6例は既に抗認知症薬を内服していた. 受診者のほとんどが,通院,買い物,農作業など運転中止後の生活が困るとの理由から,運転継続を希望した.神経心理検査では,MMSE-J 22.32/30±3.87, Kohs IQ 66.42±11.87, DASC-21 29.53±7.07, CDR 0.58±0.19と比較的認知機能低下が軽度な者が多かった.頭部MRI では20例に陳旧性脳梗塞や脳挫傷,12例に脳萎縮を認め,123I-IMP 脳血流SPECT では14例にアルツハイマー病を示唆する脳血流低下を認めた.診断後,全例に運転免許返納を推奨したが,自発的に運転中止に至った例は9例のみであった.かかりつけ医による診断書作成が普及し自主返納事例も増加したためか,当院の受診者数ならびに運転免許取り消し処分となる事例は外来開設当初の予想より少なかった.認知機能低下は認めるものの明らかな認知症に至っていないMCI 症例については,診断書提出後も運転継続している事例が多かった.運転継続希望者に丁寧に現制度の意義を説明し,移動手段の確保や生活支援について地域で相談できる体制作りが必要である.

2019.12.23

Intervention by a palliative care team for patients undergoing allogeneic hematopoietic stem cell transplantation

血液がんの治療の一つである同種造血幹細胞移植治療(以下,移植)は,患者にとって唯一の治癒を目指した治療であるが,想像以上の副作用に苦しむ可能性の高い治療でもある.成功率20~30% 程度と説明された不安,前処置の副作用,生着前・後の感染症状,GVHD 症状,退院に向けての社会的負担などの苦痛が測り知れなく出現する.主治医は患者の生命維持に精一杯であり,看護師は大量の点滴や身体ケアに精一杯であり,移植患者の苦痛への対応が困難な状況に陥りやすい.そこで,2018年10月から緩和ケアチームが移植患者全例に介入することとした.移植治療のインフォームドコンセント時に緩和ケアチームの専従看護師が立ち会い,主治医から移植治療中の苦痛に対して緩和ケアチームが介入していくことを説明し開始した.これまでに,4症例の移植患者に介入できており,主に心理的対応と栄養士の早期対応が実現できた.しかし,主治医との連携は,良好なものから連携不良とさまざまであり,今後も検討していく必要性があると考えられた.移植患者の苦痛への早期対応が,患者,家族そして主治医と看護師を含めた医療者との三位一体の緩和ケアが可能となり,成果が期待される.

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