h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

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2020.02.17

Current status and problems of elderly drivers in our outpatient clinic

当院では平成29年3月12日の道路交通法改正を踏まえて平成29年4月より,もの忘れ外来とは別に「運転免許外来」を新設し,時間をかけた丁寧な診療と告知,指導,運転免許返納後の生活確保・支援ができるよう,多職種で受診者に対応している.平成31年4月までの運転免許外来受診者は31人で,平均年齢80.07±3.91歳.第一分類該当者19人,交通違反での紹介3人で,その他は自発的な受診であった.10例は既に事故を起こし,6例は既に抗認知症薬を内服していた. 受診者のほとんどが,通院,買い物,農作業など運転中止後の生活が困るとの理由から,運転継続を希望した.神経心理検査では,MMSE-J 22.32/30±3.87, Kohs IQ 66.42±11.87, DASC-21 29.53±7.07, CDR 0.58±0.19と比較的認知機能低下が軽度な者が多かった.頭部MRI では20例に陳旧性脳梗塞や脳挫傷,12例に脳萎縮を認め,123I-IMP 脳血流SPECT では14例にアルツハイマー病を示唆する脳血流低下を認めた.診断後,全例に運転免許返納を推奨したが,自発的に運転中止に至った例は9例のみであった.かかりつけ医による診断書作成が普及し自主返納事例も増加したためか,当院の受診者数ならびに運転免許取り消し処分となる事例は外来開設当初の予想より少なかった.認知機能低下は認めるものの明らかな認知症に至っていないMCI 症例については,診断書提出後も運転継続している事例が多かった.運転継続希望者に丁寧に現制度の意義を説明し,移動手段の確保や生活支援について地域で相談できる体制作りが必要である.

2019.12.23

Intervention by a palliative care team for patients undergoing allogeneic hematopoietic stem cell transplantation

血液がんの治療の一つである同種造血幹細胞移植治療(以下,移植)は,患者にとって唯一の治癒を目指した治療であるが,想像以上の副作用に苦しむ可能性の高い治療でもある.成功率20~30% 程度と説明された不安,前処置の副作用,生着前・後の感染症状,GVHD 症状,退院に向けての社会的負担などの苦痛が測り知れなく出現する.主治医は患者の生命維持に精一杯であり,看護師は大量の点滴や身体ケアに精一杯であり,移植患者の苦痛への対応が困難な状況に陥りやすい.そこで,2018年10月から緩和ケアチームが移植患者全例に介入することとした.移植治療のインフォームドコンセント時に緩和ケアチームの専従看護師が立ち会い,主治医から移植治療中の苦痛に対して緩和ケアチームが介入していくことを説明し開始した.これまでに,4症例の移植患者に介入できており,主に心理的対応と栄養士の早期対応が実現できた.しかし,主治医との連携は,良好なものから連携不良とさまざまであり,今後も検討していく必要性があると考えられた.移植患者の苦痛への早期対応が,患者,家族そして主治医と看護師を含めた医療者との三位一体の緩和ケアが可能となり,成果が期待される.

2019.12.23

Usefulness of ventriculoperitoneal shunt for symptoms of increased intracranial pressure due to leptomeningeal carcinomatosis

髄膜癌腫症は,がんの集学的治療の進歩による生存期間の延長に伴い,診断される機会も増加している.髄膜癌腫症は患者のQuality of life(QOL) を著しく低下させ,生命予後に直結することが多い.神経症状の軽減によるQOL の改善を考えると,髄膜癌腫症に対する外科治療の介入を検討し直す必要があると思われる. 我々は,髄膜癌腫症に対し外科治療を施行した3症例経験した.外科治療の適応に関し,過去の症例も交え,文献的考察を加え報告する. 【症例1】56歳男性.肺癌を原発とする多発脳転移を伴う髄膜癌腫症と診断された.全脳照射後に全身化学療法を行うも,意識障害をきたし,全身化学療法の継続が困難となった.髄液排除によりPerformance Status(PS)が改善したため,脳室腹腔短絡術を施行した.術後,意識障害は改善し,治療を再開した.PS は改善し,比較的良好な日常生活を送れQOL は改善したと考えられたが,Nivolumab の副作用により,全身状態は悪化し,術後3か月で死亡した. 【症例2】55歳女性.肺腺癌と診断され,頭痛が出現し,髄膜癌腫症と診断された.EGFR-TKIを含む全身化学療法を行い,症状は改善傾向であった.その後,頭痛,嘔気が増悪しPS は低下した.脳室ドレナージ術により,PS は改善し,嘔気・疼痛のコントロールが可能となったため,脳室腹腔短絡術を施行した.術後,緩和医療に移行し,残された時間を有意義に過ごすことができ,QOL は改善したと考えられたが,全身状態の悪化により術後4か月で死亡した. 【症例3】66歳女性.頭痛が出現し,肺癌に伴う,髄膜癌腫症と診断された.疼痛コントロールが困難であり,PS も低下していたため,脳室ドレナージ術を施行したところ,疼痛コントロールが可能となった.PS の改善に伴い,Erlotinib による治療を開始することができた.しかし,間質性肺炎による全身状態の悪化により,脳室腹腔短絡術は施行できず,脳室ドレナージ術から44日で死亡した.

2019.12.09

Utility of bevacizumab plus paclitaxel therapy for patients with advanced or recurrent breast cancer treated at our hospital

抗血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor, VEGF)モノクローナル抗体ベバシズマブが進行・再発乳癌の治療薬として日本においても2011年から使用されている.日本乳癌学会乳癌診療ガイドライン2018年においてHER2陰性転移・再発乳癌に対する1次・2次の化学療法にベバシズマブを併用することが推奨されている.今回,当院における進行・転移再発乳癌に対するベバシズマブとパクリタキセル同時併用療法(BP 療法)の有用性の検討を行った.対象患者は2011年9月~2018年10月に当科でBP 療法を導入した79症例で,電子カルテを参照して後方視的検討を行った.年齢の中央値は58歳.ホルモン受容体(hormone receptor, HR)陽性human epidermal growth factor receptor(HER)2陰性サブタイプが45例,HR 陽性HER2陽性サブタイプが2例,HR 陰性HER2陽性サブタイプが5例,HR 陰性HER2陰性(triple negative)サブタイプが27例であった.Stage Ⅳが24例,再発が55例であり,主な転移部位(重複あり)は骨が45例,肝が34例,肺が29例,胸膜が21例であった.前化学療法レジメン数の中央値は2レジメン(範囲:0-8)であった.奏効率は63.3%,無増悪生存期間(PFS)の中央値は5.4か月であり,全生存期間(OS)の中央値は9.4か月であった.HER2陰性症例における多変量解析の結果,performance status 2以上がOS を悪化させる因子であり(ハザード比 [HR] が2.85, p=0.002),triple negative サブタイプ(HR が2.44,p=0.025)と中枢神経転移あり(HR が3.24,p=0.045)がPFS を悪化させる因子であった.重篤な有害事象としては,消化管穿孔と皮膚・軟部組織潰瘍形成,縦隔気管瘻,肺膿瘍,脳出血,上部消化管出血,血尿,鼻出血が認められた.本研究対象は2次治療以降で使用された症例が多いため,既報の臨床試験の結果と比較するとPFS は短かったが,奏効率は同等であった.一方,重篤な有害事象も10% 以上の頻度で認められ,BP 療法施行時には慎重な観察が必要である.

2019.12.09

The impact of needle number on the dose-volume parameters of high-dose-rate brachytherapy for prostate cancer

前立腺癌に対する高線量率組織内照射において,アプリケーター針の刺入本数や刺入位置は線量分布に大きく影響する.刺入方法は各施設の経験やポリシー,使用装置に依存する部分があり,最適な刺入法として確立された普遍的な方法はない.今回我々はアプリケーター針の刺入本数と線量体積因子の関連を解析し,最適な刺入本数を検討した.対象は2010年6月1日から2012年10月31日の間に同治療を受けた初発前立腺癌135例.治療計画にはOncentra® を用いた.治療前エコーによる前立腺体積,治療計画CT により算出された線量体積因子(PTV のDmin%,D90%,dose non-uniformity ratio:DNR,homogeneity index:HI,conformity index:CI,尿道最大線量,直腸最大線量),治療時期(一次解析として前期:~2011年1月,中期:2011年2月~9月,後期:2011年10月~2012年5月,さらに追加解析として直近:2012年6月〜),アプリケーター針刺入本数について,相互の関連をJMP 14,Student のt検定を用いて検討した.一次解析の結果,刺入本数は前立腺体積と相関せず,刺入本数が多い群は少ない群に比べ尿道最大線量が有意に低かった.他の線量体積因子では有意差はないものの,刺入本数が多い群でPTV のDmin% は高値,D90% は高値,DNR は低値,HI は高値,CI は高値と,本数が多いほど良好な線量分布であることを示していた.なお,治療時期が後期の症例で刺入本数が有意に増加していた.これらの結果が判明した後に治療された直近16例においては,さらに刺入本数が増加し,線量体積因子の改善が認められていた.今回の検討から,アプリケーター針の刺入本数が多いほど線量分布が改善し,とくに16-17本の刺入により良好な線量分布が得られることが示された.

2019.11.11

Current Status of Point-of-Care Ultrasonography (POCUS) – Assessment of Bedside Ultrasonography Cases in the Intensive-Care Unit in our Hospital –

近年point-of-care 超音波(以下POCUS)の有用性が注目されている.しかし,その定義,対象臓器や疾患,必要とされる手技などは明らかとなっていない.当施設でICU(intensive-care unit)入院患者に対しベッドサイドで腹部超音波検査(abdominal ultrasound: AUS)を施行した症例をPOCUS 症例とし,当院のPOCUS の現状をretrospective に検討した.POCUS 施行例245例で,検査依頼領域は肝胆膵領域が最多で次に消化管領域が続いた.検査依頼領域に何らかの所見が認められた症例は47.8%であった.POCUS の正診率については94.5%であった.診断困難例は全例が消化管疾患でその中でも消化管出血とくに出血性直腸潰瘍が多く,いずれも内視鏡検査で診断されていた.POCUS で緊急対応が必要と指摘した症例は28例あり,その28.6%は検査依頼領域以外の部位に病変を認めた.28例の内訳では消化管領域(60.7%)と循環器領域(17.9%)であった.POCUS では検査依頼領域以外の領域に所見を認める事もあり,腹部全体の検索が重要である.また消化管領域はPOCUS による診断が困難なこともあり,AUS 所見で症状が説明できない場合には、内視鏡検査なども検討すべきである.以上のことから,緊急疾患は消化管領域と循環器領域に多く,特に消化管領域については慎重な検索が重要と考えられた.また,AUS を用いて適切なPOCUS を行うためには,急性腹症を含めた腹部疾患の横断的かつ総合的な病態判断が必要である.

2019.11.11

A preliminary study of QOL of levocarnitine administration for patients with urologic cancer

今回我々は初の試みとして,泌尿器科領域癌における抗癌剤治療前後での血清カルニチン値を測定し,QOL への影響について検討した.さらに癌治療中の患者においてカルニチン補充が及ぼすQOL への効果について検討を加えた. 2016年6月1日から2018年9月30日までに当科で化学療法もしくは分子標的薬治療を行った泌尿器科領域癌患者17例を対象とした.抗癌剤治療前後での血清カルニチンを測定し,その後レボカルニチン1,500 mg/ 日の経口投与を行い,QOL についてprospective に評価を行った.抗癌剤治療前,治療3カ月,レボカルニチン経口投与1カ月,3カ月の4ポイントで血清遊離カルニチンを測定し,QOL については Brief Fatigue Inventory( BFI)を用いた global fatigue score(GFS)で評価した. 年齢中央値は69歳(52~82歳)で男女比は12:5であった.疾患は尿路上皮癌が10例,前立腺癌が5例,腎癌が2例であった. 治療内容は尿路上皮癌に対するgemcitabine/cisplatin が10例,前立腺癌に対するdocetaxel が3例,cabazitaxel が1例,etoposide/cisplatin が1例,腎癌に対する分子標的薬(sunitinib,pazopanib)が2例であった.血清遊離カルニチンは,抗癌剤治療前:49.0±12.1μmol/L,抗癌剤治療後:36.0±10.3μmol/L と抗癌剤治療後に統計学的に有意な低下を認めた(p<0.05). また抗癌剤治療前と比して17例中13例(76.5%)が,抗癌剤治療3カ月でカルニチンの低下を認めた.血清遊離カルニチン値が基準値未満に低下した症例(<36μmol/L)をカルニチン低値群(n=9),基準値を保っていた症例をカルニチン非低値群(n=8)として2群間について検討した.カルニチン低値群においてレボカルニチン内服3カ月で,内服前と比して統計学的に有意なGFSの低下が認められ,QOL の改善が得られた(p<0.05).一方,カルニチン非低値群では,レボカルニチン内服前後でGFS に差異は認めなかった.またレボカルニチン内服3カ月でGFS が改善した症例をレボカルニチン有効例とすると,カルニチン低値群で88.9%(8/9)が有効,カルニチン非低値群で50.0%(4/8)が有効であった. 抗癌剤治療中のカルニチン欠乏症では,カルニチン補充でQOL の改善が期待できると考えられた.レボカルニチンは泌尿器科領域癌患者の治療の際に補助薬の一端を担うことが期待される.また泌尿器科領域癌患者において,抗癌剤治療によって血清遊離カルニチン値が低下することが示唆された.

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