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Online edition:ISSN 2758-089X

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2006.03.07

Early stage intestinal-type small gastric cancer with lymphatic vessel invasion; report of a case *

 症例は75歳男性.胃癌検診のため当院にて上部消化管内視鏡検査施行.胃前庭部前壁に小発赤を認め,生検にてGroupⅤ(tub2)のため,精査治療目的で当院に入院となった.上部消化管造影検査,上部消化管超音波内視鏡検査等施行し,深達度M,Type0’Ⅱcの胃癌と診断し,内視鏡的粘膜切除術(切開剥離法)を施行した.病理組織検査で病変はType0’Ⅱa+Ⅱc,大きさは6×5mm,粘膜筋板より378μm粘膜下層に浸潤しており,脈管侵襲は陰性であったが,リンパ管侵襲は陽性であった.組織型はtub2であった.リンパ管侵襲が陽性であったことから,患者(医師)に充分な医療情報を提供し,同意のもと,腹腔鏡下幽門側胃切除術を施行したが,リンパ節転移は認めなかった.
(平成18年3月18日受理)

2006.03.06

effect of behavior therapy on the neuropsychological function of patients with obsessive-compulsive disorder – memory function – *

【問題と目的】
 最近の神経心理学研究では,強迫性障害において,視覚空間性記憶や注意・遂行機能といった認知機能の障害が指摘されている.しかしながら,特に繰り返しの確認行為と記憶機能との関連については論議があり,一致した見解には至っていない.本研究は,強迫性障害患者が行動療法後に強迫症状の有意な改善を示した際の,記憶機能の変化について検討することを目的とする.

【方法】
 対象者は,SCIDによって診断された強迫性障害の外来患者で,行動療法単独治療が有効であったもの,および十分な薬物療法(少なくとも8週間以上のfluvoxamine200mg/日の服用)が無効で,行動療法を加えて改善を示したものとである.主に曝露反応妨害法を用い,マニュアル化された1セッション45分の行動療法を12週間おこなった.記憶機能は,R-OCFTとWMS-Rを用いて行動療法の前後に評価した.強迫症状の重症度は,Y-BOCSにより評価した.

【結果】
 行動療法後の,Y-BOCS得点の減少率は,58.26±13.28%(範囲:36.36%~78.13%)であった.症状改善後の評価において,R-OCFTの「模写」「直後再生」「遅延再生(40分後)」得点が有意に増加した.さらに,WMS-Rの「遅延再生」「言語性対連合Ⅰ」「論理的記憶Ⅱ」「視覚性再生Ⅱ」において有意な増加がみられた.

【考察】
 本研究は対象者が少ないため,結果は慎重に取り扱う必要があるが,これらの結果は,行動療法で強迫症状の十分な改善が達成された際,記憶の遅延再生がある程度回復するであろうことを示している.強迫性障害患者の認知機能の基盤となるメカニズムを明らかにするためには,対象者を増やし,記憶への自信といった他の記憶関連因子や,注意・遂行機能といった他の認知機能,さらにこれらの機能と脳機能画像との関連を分析することも含め,さらなる研究が望まれる. (平成18年4月27日受理)

2006.03.05

Wnt-Frizzled interaction involved in chick limb development *

 LRP-5とLRP-6とともに10種類のFrizzled(Fz)がWntのレセプターとして知られているが,リガンドとレセプターの関係はWntタンパク質が直接的な結合実験が困難なため,あまりわかっていない.ニワトリ肢芽で特定のパターンをもって発現するニワトリWnt-3a,Wnt-4,Wnt-5a,Wnt-6,Wnt-7a,Wnt-10a,Wnt-11のWntメンバーにC末端にHAのタグをつけ,ニワトリFz-4,Fz-10にはレセプターの細胞内にFLAGのタグをつけDF-1細胞で発現させた.DF-1細胞に単独もしくは共存下で導入したWnt-HAとFz-FLAGのコンストラクトを発現させ,直接結合するWnt-HAを調べるために,anti-FLAG抗体でレセプターの免疫沈降を行う前後でウエスタンブロッテッイングを行った.Wnt-HAが発現しているDF-1細胞の上清をFz-FLAGを発現させた細胞に加えた時,Fz-10に対してWnt-3a,Wnt-5a,Wnt-7aが,Fz-4に対してはWnt-5aが検出された.Fz-10ではWnt-6とWnt-10aに弱い結合がみられた.少量のWnt-7aはWnt-5aとの比較においてFz-10との結合効率はよく,Wnt-7aに対して高い親和性がみられた.Wnt-7aは時間的,空間的に肢芽においてFz-4ではなくFz-10と共に発現している.これらの結果は,四肢の形態形成におけるWntとFzの発現と機能的な関係を現している.
(平成18年4月12日受理)

2006.03.04

Clinical characteristics of seven patietns with Asperger’s disorder not attending school in adlescence *

 従来の乳幼児検診では問題を指摘されないままに成長したアスペルガー障害の子どもが思春期に至り,初めて不適応行動を呈する例がある.本研究では,未診断のまま成長し不登校を呈した思春期の症例についてその原因や対応について検討した.
 対象は,2005年6月から2006年1月までに,川崎医科大学附属病院心療科外来を,不登校を主訴に受診した15歳から17歳の患者23名のうち,米国精神医学会による「精神疾患の分類と診断の手引き」(DSM-Ⅳ-TR)によってアスペルガー障害と診断された7例(男性2例,女性5例)である.全例に対して発達歴を患者および母親より聴取した.患者に対しては児童用自閉症スペクトラム指数(Autism-Spectrum Quotient:AQ)を,家族に対しては高機能自閉症スペクトラム・スクリーニング質問用紙(High-Functioning Autism Spectrum Screening Questionnaire:ASSQ-R)を施行した.また臨床心理士が WISC-Ⅲを施行した.いずれも充分な説明と同意のもとに行った.
 問診にて,
1)全例に不登校の明確な誘因を認めた.
2)全例に幼児期の社会性の障害と想像力の障害を認めた.
3)全例に1歳半検診,3歳児検診では問題を指摘されていなかった.
4)全例に他者との違和感を認めた.
5)独特の思考を6例に認めた.
6)全例にいじめられ体験を認めた.
7)タイムスリップ現象を6例に認めた.
8)感覚過敏は過去には2例,現在には5例で認めた.
 心理検査にて,
1)児童用AQでは,20点以上の高得点(自閉症圏)が6例であった.
2)ASSQ-Rでは,19点以下の低得点(問題のない群)が6例であった.
3)WISC-Ⅲでは,全例においてIQ80以上(平均IQ97)であった.
 不登校の要因と対応として,以下のように考えた.
1)児童用AQが高く,ASSQ-Rが低いという結果は,親が子どもの問題を認識していないということを示しており,また前思春期に生じる他者との違和感は,患者の孤立感を強め,対人関係での緊張感を強めている可能性がある.親子の認識のずれには親の障害の理解が,他者との違和感については,アスペルガー障害の説明で,自身の長所と短所を理解するとともに,自身と他者との違いを理解することが大切となる.
2)独特の思考は思春期までに形成されやすく,学年が上がり対人関係が複雑になることにより,破綻を来たした可能性がある.これに対しては,それを否定するのではなく,体験を通してより適切な思考にいたることが大切となる.
3)いじめられた記憶が,タイムスリップ現象として再体験され,対人関係での恐怖感を強めている可能性があり,周囲の大人がタイムスリップ現象を理解することが大切となる.
4)感覚過敏が,学校という刺激に満ちた空間の中で,患者を苦しめている可能性があり,まずは刺激を少なくするという環境調整を,時には薬物療法を検討する必要がある.
(平成18年4月5日受理)

2006.03.03

Age-related influences of clinical features of the lumber disc herniation – Immunological evaluation on co-cultured rat nucleus pulposus cells and macrophages – *

 腰椎椎間板ヘルニア(LDH)の疼痛発生機序には,機械的圧迫因子と化学的因子の関与が挙げられる.機械的圧迫因子に関しては,前方圧迫要素,後方圧迫要素,不安定性の三つの組み合わせが考えられる.一方,化学的因子に関しては一酸化窒素(NO),炎症性サイトカインなどの関与が示されている.また,LDHの臨床像は若年者と高齢者では異なっており,この違いに関する化学的因子の解明は未だなされていない.
 今回われわれは,LDHによって惹起される免疫炎症反応は年齢によって異なるという仮説を立てた.本研究の目的は,炎症細胞中のマクロファージに注目し,髄核細胞とマクロファージの相互作用によって生じるNOおよびサイトカイン産生能への,年齢が及ぼす影響を検討することによって,年齢によるLDHの臨床症状の違いの原因を解明することである.
 実験には,生後3週齢,12週齢,32週齢のSprague Dawleyラット(雄)各15匹,計45匹を用いた.ラットの髄核細胞と炎症性マクロファージの単培養と両細胞の共培養を行い,培養開始2,24,48,72時間後の培養液中のNO値,および培養開始後7日目の培養液中の炎症性サイトカインを各週齢において測定し,年齢が及ぼす影響を単培養と共培養とで比較検討した.
 その結果,NOに関して共培養では,培養開始24時間後から有意に上昇し,さらに週齢が増すにつれNOの有意の上昇を認めた.しかし単培養においては,髄核細胞,マクロファージ共に培養時間,週齢によるNO産生量に有意差を認めなかった.NO産生量から,LDHにおいては加齢に伴い炎症が強くなることが示された.
 一方,サイトカインに関して共培養では,週齢を増すにつれてTIMP-1ならびにIFN-gammaが減少しており,IL-10は上昇していた.このTIMP-1の変化は,週齢によって侵害因子に対して髄核細胞の防御反応が変化していることが示唆された.さらに免疫応答の観点からIFN-gammaとIL-10に着目し解析を行った.IFN-gammaは週齢が増すと減少し,IL-10は週齢が増すと高値を示すというサイトカインバランスの逆転が起きていた.
 以上から,ラットを用いた髄核細胞とマクロファージの共培養においては,加齢に伴い炎症および免疫応答が変化した.この結果はLDHの臨床症状が加齢に伴い変化するという臨床的事実に対する原因の一つを示したものと考える.(平成18年3月7日受理)

2006.02.07

Viral encephalitis: Analysis of 10 cases based on clinical symptoms *

 当科で経験した辺縁系脳炎患者の臨床的特徴(発症様式,原因,臨床症状,検査所見,画像所見)について検討した.
 対象は,2000年4月から2004年8月までに当科に入院した辺縁系脳炎患者10例(男性7例,女性3例)である.
 結果は,(1)発症様式:急性発症8例,亜急性2例.(2)原因:単純ヘルペス脳炎2例,非ヘルペス性辺縁系脳炎8例.(3)臨床症状:意識障害8例,痙攣発作6例,失見当識1例,記銘力障害3例,精神症状(人格変化・幻覚・妄想)1例,健忘(前行性・逆行性)7例.(4)検査所見:肝機能障害6例.脳波にてPLEDs2例,PSD1例,てんかん波3例,徐波化4例.(5)画像所見:頭部MRIにて病変が辺縁系に限局6例,より広範に分布するもの4例.
 辺縁系脳炎10例中8例が,原因不明の非ヘルペス性辺縁系脳炎であった.亜急性に進行する痴呆患者においても辺縁系脳炎を鑑別にあげる必要がある.検討した半数例で肝障害が見られ,病因との関連を考える上で注目された.(平成18年1月25日受理)

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