h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

topimage01

2005.02.06

A clinical study on mental state at the time of recovery from depressive states. – Comparing mood disorders and adjustment disorders – *

【目的】
 時代の変化とともに,抑うつ状態の病像も変化し,臨床的には,従来の内因性の気分障害と心因性の適応障害の鑑別が困難になっている.本研究では,気分障害(大うつ病性障害・単一エピソード,大うつ病性障害・反復性,双極性障害)と適応障害による抑うつ状態の回復時の精神症状を比較し,その差異について検討する.
【対象】
 川崎医科大学附属病院心療科外来を抑うつ状態で受診し,米国精神医学会による「精神障害の分類と診断の手引き」(DSM-Ⅳ-TR)1)によって気分障害または適応障害と診断された患者のうち,治療により回復した患者135例を対象とした.
【方法】
 2005年1月から2005年3月までの間に外来受診した患者のうち,抑うつ状態から回復し維持療法のために受診している気分障害(大うつ病性障害・単一エピソード,大うつ病性障害・反復性,双極性障害)と適応障害の患者について,主治医がハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)による客観的症状評価を行った.また,患者にはベックうつ病評価尺度(BDI)と精神症状評価尺度(SCL-90-R)の自己質問紙表を用いて主観的症状評価を行った.各疾患群のHAM-Dの正常群について,SCL-90-RとBDIを用いて,精神症状,主観的評価と客観的評価,性差,などについて調査した.
【結果】
 適応障害,大うつ病性障害・反復性,大うつ病性障害・単一エピソード,双極性障害の順に,SCL-90-Rは高い得点を示した.適応障害は大うつ病性障害・単一エピソード,大うつ病性障害・反復性,双極性障害と比べて,SCL-90-R得点が有意に高かった.
 適応障害は,大うつ病性障害・単一エピソード,大うつ病性障害・反復性,双極性障害と比べて,BDI得点が有意に高かった.
 各疾患群においては,男性と女性で,SCL-90-R得点において有意な差を認めなかった.
 各疾患群のSCL-90-Rの下位分類の形態は,いずれも強迫症状と抑うつ症状の得点が高い2峰性を示した.
【考察】
 SCL-90-Rは,幅広く精神症状とその重症度を捉えるが,より神経症性障害の症状を反映しやすく,その得点が高いことは神経症性障害を主体とした精神症状を呈しているか或いは自覚していることを示す.本研究での各疾患群のSCL-90-Rの得点が,適応障害,大うつ病性障害・反復性,大うつ病性障害・単一エピソード,双極性障害の順に高いという結果は,その順に,回復時にも精神症状を呈している或いは自覚していると考えられ,治療の際に配慮が必要と考えた.この結果は,心因が大きく関与している可能性が高いものほど,抑うつ状態回復時にも精神症状を呈しやすいことを示唆しているものと考えた.適応障害においては,大うつ病性障害・反復性,大うつ病性障害・単一エピソード,双極性障害に較べて主観的評価(BDI)が有意に高いということは,抑うつ状態の客観的改善にも関わらず,抑うつ症状を自覚しているということであり,治療の際に配慮が必要と考えた.また,このように主観的評価と客観的評価に大きな較差が生じることは,適応障害の病前性格として,心身の不調を過度に自覚する傾向や自己を過度に低く評価する傾向が認められるためではないかと考えた.
 各疾患群で強迫症状と抑うつ症状が高い値を示していることは,気分障害圏の病前性格において強迫性格傾向が強いという報告に一致し,強迫症状と抑うつ症状は密接な関係をもつことを示唆しているものと考えた.また,各疾患群でのSCL-90-R得点の違いはあるものの,抑うつ状態を呈した適応障害と気分障害のSCL-90-Rの下位分類のプロフィールは同型であり,抑うつ状態を呈した適応障害は,気分障害圏の一群である可能性が考えられた.
(平成17年9月1日受理)

2005.02.04

Diagnostic criteria of primary OP, and guidelines on the management and treatment of glucocorticoid-induced osteoporosis *

 高齢者人口の増加とともに,骨粗鬆症の頻度は増加している.骨粗鬆症は,脆弱性骨折に導き,その結果QOLの低下をきたすので,その早期診断,骨折リスクの評価や,予防と治療が重要である.
 骨強度は第一義的には骨密度(BMD)と骨質の統合を反映する.2000年,BMDに基づいた「原発性骨粗鬆症の診断基準」が定められた.
 骨質は,構造,代謝,ダメージ蓄積と石灰化が関与する.また,「骨粗鬆症診療における骨代謝マーカーのガイドライン」が作成された.
 グルココルチコイドは,骨粗鬆症の合併症を惹起する.そのため,「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン」が提唱された.
 本総説では,これらの診断基準とガイドラインを記載した.本総説が骨粗鬆症の臨床実地に使用されることを期待する.

2005.01.06

Free hand puncture technique for hepatocellular carcinoma under diaphragmatic dome – combined treatment with PEIT+RFA *

 横隔膜直下に存在するHCCはエコーで摘出が困難で,PEITやRFA治療に際して肺組織がかぶってくるため,穿刺が不可能のことが多い.このような状況に対して人工胸水や人工腹水を用いて穿刺を容易にする試みがなされているが侵襲もあり頻雑となる.今回横隔膜直下のHCCの治療にfree hand法を用いたPEIT+RFA治療を試みた.病変の描出は良好で穿刺や焼灼による合併症なく施行しえた.free hand法は従来のアタッチメントを使用する方法と異なりプローブも穿刺針も一定の角度に固定されておらず自由に角度を変えて穿刺することが可能であった.free hand法のポイントは穿刺針とプローブを操作中つねに平行に保ち超音波ビームから針が外れないことと穿刺針を進める間,針の先端を見失わないようにプローブを微調整しながら確実に病変の中心を穿刺することである.
(平成17年7月27日受理)

2005.01.05

Survey of parasitological examinations performed by the Department of Parasitology, Kawasaki Medical School, 3. results: 1996 to 2003 *

 第1・2報に引き続き,1996年から2003年までの8年間に川崎医科大学寄生虫学教室へ検査依頼のあった169例の検体について集計した.その結果,62例(36.7%)に内部・外部寄生虫の感染が認められた.寄生虫の種類別内訳は,原虫類4例(赤痢アメーバ3,大腸アメーバ1),線虫類20例(アニサキスⅠ型幼虫6,回虫3,鞭虫3,蟯虫2,東洋眼虫2,アメリカ鉤虫1,糞線虫1,ロア糸状虫1,線虫類1),吸虫類2例(異形吸虫類1,浅田棘口吸虫1),条虫類13例(裂頭条虫類7,広節裂頭条虫3,シャチ条虫1,無鉤条虫1,有鉤嚢虫1),節足動物23例(フタトゲチマダニ7,タネガタマダニ4,ヤマトマダニ3,イエダニ1,ニキビダニ1,クロアリガタバチ1,ゴキブリ科1,モリチャバネゴキブリ1,ナミニクバエ1,ヒトヒフバエ1,コロモジラミ1,ウオジラミ類1)である.
 今回の集計では,内視鏡による虫体摘出例が陽性例の約1/4と多かったのが特徴であり,消化管寄生虫症の診断には内視鏡的検査が有用であることが示唆された.
(平成17年8月3日受理)

2005.01.04

A clinical oncologist thinks about medical resources and changing industrial structure in Japan, and further international contribution *

 臨床腫瘍医からみた生命科学を軸にした産業構造の変換,将来の国の姿,国際貢献の形を提言した.生命科学の進歩によって,日々われわれの診療と情報は地域や国を救い人類を救う貴重な種となる.国際貢献へ向け,だれが,いかに視点をかえさせるのか大学の責務として認識すべきである.

2005.01.03

Metabolic syndrome from the viewpoint of health care medicine *

 メタボリックシンドロームは粥状動脈硬化症の発症進展を促進する疾患概念であり,心血管イベントを予測するうえでLDLコレステロールとは独立した病態と捉えられている.同一個人に耐糖能異常,脂質代謝異常,高血圧,腹部肥満など複数の危険因子が集積することによって,飛躍的に心血管疾患の罹患率と死亡率を高めることが特徴である.これまでWorld Health Organization,National Cholesterol Education Programによる二つの主要な診断基準が提唱され,広く臨床に用いられてきたが,最近International Diabetes Federation,日本より腹部肥満の重要性を考慮した新しい診断基準が発表された.これらの基準はハイリスク群を抽出し,疾患予防を目的とする日常臨床上有用な判定基準といえる.メタボリックシンドロームと心血管疾患発症との関連性については,前向きコホート研究によって非メタボリックシンドロームに比べ冠動脈疾患死亡や全心血管疾患死亡の危険度を著しく増加させることが判明している.
 本総説では,メタボリックシンドロームと身体活動・運動,食生活および心理的ストレスとの関連性に焦点をあてた疫学研究の成果を要約し,予防医療の現場で対処すべき課題や方法について述べた.メタボリックシンドロームおよびそれを構成する危険因子と各生活習慣因子との関連生を示す前向きコホート研究は若干報告されているものの,まだその研究数は不足している.今後は新しいメタボリックシンドロームの診断基準に基づいた心血管疾患発症や全死亡についての検討が必要であり,さらには,メタボリックシンドロームの改善要因としての身体活動・運動や食生活,心理的特性に関する介入研究の蓄積が必要である.

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