h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

topimage01

2002.04.01

Analysis of autonomic nervous reactions accompanying nausea induced by visual stimulation *

 本研究は,ヒトにおいて生体防御反応の一つである嘔吐の前兆現象である悪心に到るまでの自律神経反応を定量的に解析することを目的とした. 悪心を誘発させるために,低頻度かつ不規則な振動および回転などを加えたビデオ画像,すなわち動揺性視覚刺激を健常成人19名に注視させた.悪心の自覚症状は,実験前後に行った13項目にわたるアンケート調査の各項目について,5段階評価の回答を得て数値化した.回答値の平均スコアを実験前後で比較したところ自覚症状は有意に悪化した(P<0.001).動揺性視覚刺激中に,自律神経反応の指標として,胃電図,心電図,呼吸運動,手掌部発汗量,前額部発汗量および指尖部末梢血流量の変化を連続的に測定した.視覚刺激を与えない状態をコントロール(第1相)として,ビデオ放映時の前半3分を第2相,後半3分を第3相,ビデオ放映後5分間を第4相とし,コントロール時の値と比較検討した. 胃電図より解析した胃運動の振幅は第3相においてコントロールと比べ有意に増加した(P<0.05).しかし,胃運動の周波数成分である徐波,正常波,および頻波それぞれの振幅が全振幅に占める割合には,徐波が減少する傾向はあるものの有意な差は認められなかった.心電図より解析した平均心拍数はコントロールに比べ第2相で有意に減少したが(P<0.05),この減少は一過性であった.呼吸数はコントロールに比べ,ビデオ放映中有意に増加した(P<0.05).手掌部の発汗には,実験中有意な増減は見られなかったが,前額部の発汗はビデオ放映中有意な増加が見られた(P<0.05).また指尖部末梢血流量については,第2相で有意な減少が見られたが(P<0.05),それ以降では有意な増減は認められなかった.さらに,空腹群(6名)と食後群(13名)の胃電図上の変化を比較した結果,空腹群では第2相における振幅増加が抑えられる傾向が見られた.悪心の自覚症状においても食後群の悪心スコアは空腹群に比べて有意に高い値を示した(P<0.05). 以上より,悪心という自覚症状の発生に到る過程において,交感性及び副交感性の自律神経反応が出現していることが明らかになった.         (平成14年9月10日受理)

2002.03.07

Cold-preservation of primary isolated pig hepatocytes – Fundamental study concerning optimal medium – *

 肝再生医療の資源として正常ヒト肝細胞の確保が理想であるが,深刻なドナー不足の現状がある.この問題を解決するためには,限られた提供臓器をいかに有効利用するかがきわめて重要である.それには,肝細胞の効率的な分離と効果的な細胞の冷保存法の確立が必要である.外科的に切除したブタ肝からの肝細胞の分離は, collagenaseとdispaseを組み合わせることにより90%以上のviabilityを有する肝細胞を得る事が可能であった.さらに当該細胞を用いて8時間冷保存に耐えうるか否かについて各種保存液の比較検討を行った.冷保存液として,①University of Wisconsin solution (以下UW)液,②UW液にvitamin Cの誘導体である2-O- a -D-Glucopyranosyl-L-Ascorbic Acid (以下ascorbic acid-2 glucoside ; AA 2 G) 100 m g/mlを添加した保存液,③100% fetal bovine serum (以下,FBS),④Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium (以下, DMEM)に10% FBSを入れた保存液の4種類を検討した.UW液を使用することで,有意に8時間冷保存ブタ肝細胞のviability, plating efficiency, アンモニア代謝能が維持された.さらに,UW液に強力な抗酸化剤であるvitamin C配糖体であるAA2Gを組み合わせることで更に効果的に冷保存肝細胞の機能を維持することができた.その理由として, AA2G添加UW液では活性型caspase-3の誘導が抑制され,細胞内ATP量が有意に保持されたためであると考えられる.当該結果から,UW液十AA2Gは冷保存に最も適した保存液であり,臨床応用への有効性が示唆された.                       (平成14年8月28日受理)

2002.03.06

Antifibrosis effect of intrferonγ (IFNγ) and rapamycin (Rapa) in immortal human hepatic stellate cells *

 interferony (IFNγ)とrapamycin (Rapa)による抗肝線維化効果を検討するためヒト肝星細胞を不死化した培養細胞(TWNT-4細胞)を用いて基礎的検討をおこなった.TWNT-4細胞はヒト肝星細胞L1 90細胞にhuman telomerase reverse transcriptase (hTERT)を導入することによって作成した. TWNT-4はplatelet derived growth factor βreceptor(PDGF-βR), α-smooth muscle actin (α-SMA), collagen type 1 (α)を発現しており活性化肝星細胞の形態を呈する.肝星細胞を抑制する事が知られているIFNγを1000 U/ml以上の濃度で24時間曝露してもcollagen type 1 (α1 )の発現はほとんど低下しなかった.しかしながらIFNγを100 U/ml の低濃度でも14日間曝露するとcollagen type 1 (α1)の産生はRNA及び蛋白レベルで低下した.免疫抑制剤であるRapaも1-10 ng/ml の範囲で用量依存的にcollagen type 1(α1)の産生の抑制がみられた.さらにIFNγ 10 U/ml とRapa0,1 ng/ml の極めて低い濃度を併用して14日間曝露すると単独群と変わらずcollagen type1 (α1)の抑制が認められた.すなわちIFNγとRapaの併用では各々の毒性を無視できる低濃度でもcollagen type 1(α1)の抑制を認める事が明らかとなった.さらにIFNγとRapaは肝星細胞の活性化マーカーであるPDGF-βRとα-SMAを抑制する事,培養細胞上清中へのtransforming growth factor beta 1 (TGF-β1)分泌を抑える事を示した.アデノウイルスベクターを用いてTNF-related apoptosis inducing ligand (TRAIL)をTWNT-4細胞に形質導入することによりアポトーシスに陥らせることができた.これらの実験結果からIFNγとRapaは活性化肝星細胞に作用して肝線維化を抑制し, TRAILはアポトーシスの誘導をもたらす可能性が明らかとなった.今後これらの薬剤を用いて肝硬変における抗肝線維化治療への臨床応用が期待される.         (平成14年8月28日受理)

2002.03.05

Establishment of cis-diamminedichloroplatinum (Ⅱ)-resistant human testicular seminoma cell line JKT/DDP and analysis of the expression of the genes related to anticancer drug-resistance associated with cytoplasmic CDDP metabolism *

 ヒト精巣セミノーマ由来の樹立株である高転移株(JKT-HM)を用い,長期,少量,間歇的にcis-diamminedichloroplatinum (Ⅱ) (CDDP)を投与することによってCDDP耐性株(JKT/DDP)の作成を試みた.その後, original細胞であるヒト精巣セミノーマ株 (JKT-1),その高転移株であるJKT-HMと成長曲線, CDDP感受性, CDDP細胞内濃度についてin vitroで比較検討した.その結果, JKT/DDPは通常のCDDP無添加の培養においてはJKT-1 , JKT-HMと比較して,成長曲線に差は認めなかった.しかし,CDDP添加による培養では,明らかに成長曲線に差を認めた.また, CDDP存在下で細胞形態を観察すると, JKT-1 , JKT-HMでは細胞質が分葉化し,クロマチンの凝集を認めたが,亅KT/DDPでは紡錘形の細胞が敷石状の増殖を示していた.CDDPに対する感受性についてIC50 Collagen gel drop embedded drug sensitivity test (CD-DST)法で検討した結果, JKT/DDPは他の2つの細胞株と比較して,有意にCDDP耐性を示した.よって, CDDP耐性細胞を樹立したと考えられた.次に, JKT-1 , JKT-HMおよび, JKT/DDPにおけるCDDP細胞内濃度, CDDP細胞質内代謝に関連する抗癌剤耐性関連遺伝子(Multidrug resistance 1, MDR1 ; Multidrug resistance associated protein, MRP ; Lungresistance-related protein, LRP ; Glutathione-S-transferase π, GST一π)の発現について検討した. CDDP細胞内濃度はJKT/DDPで他の2種類の細胞よりも低下しており,また, MDR1 , MRP, LRP, GST-πのmRNAの発現についてReal Time PCR で検討したところ, JKT/DDPは, JKT-1 , JKT-HMに比べてMDR 1 , MRP, GST-π遺伝子が有意に発現の亢進が認められた.よって, JKT/DDPはJKT-1 , JKT-HMに比較して,CDDPに対して耐性化を示しているとともに, CDDPに対する耐性化の機序のひとつにCDDPの細胞外への能動的な排出の亢進が関与していることが示唆された.                                (平成14年8月29日受理)

2002.03.04

p21 transduction augments differentiated phenotypes in immortalized human hepatocytes *

 近年,肝不全に対する肝補助療法として肝細胞移植や肝機能の中心を担う部分に生物学的素材を用いたバイオ人工肝臓の開発が望まれている.肝細胞療法に使用する細胞はより高い分化肝機能が維持されていることが重要であると考えられる。p21 WAF1はcyclindependent kinase (CDK) inhibitorであり,特にG1期における細胞周期停止を誘導する事が知られている.また, P21を強制発現させる事で様々な細胞株で分化誘導が示されている.本研究ではSV40T抗原ヒト不死化肝細胞株NKNT-3におけるp21の分化誘導能を検討した. NKNT-3にp21発現アデノウイルスベクター(AdCMVp21 , CMVのエンハンサー及びプロモーター下流にp21がインサートされている)およびTAT protein とp21のfusion protein (pTAT-p21)を用いて, p21の形質導入をおこなった.細胞形態,細胞周期,アルブミン発現,薬物代謝酵素であるcytochrome P450関連酵素(CYP)発現に及ぼす効果を検討した.免疫染色およびWestern blotting によってAdCMVp21およびpTAT-p21による効果的なp21の発現がNKNT-3細胞に認められた. p21形質導入後の細胞は細胞密度は減少し,胞体の増大を認めN/C比の低下が認められた.細胞周期解析ではG1arrestの状態となった.また,アルブミンおよびCYP3A4, CYP2C9の発現増強が認められた.ヒト不死化肝細胞(NKNT-3)にp21を過剰発現させることにより分化機能誘導が可能であることが示唆された.                 (平成14年8月29日受理)

2002.03.03

Immunohistochemical study of HSP27 in ovarian cancer, 1st report – Determination of opitimal evaluation method- *

  「目的」 heat shock protein 27 (HSP 27)の免疫組織化学的な発現が上皮性卵巣癌の予後因子として意義があるかどうかを検討するために,最適な判定基準を作成することを試みた.  「材料と方法」上皮性卵巣癌71症例の組織切片を用い,免疫組織化学的にHSP 27を染色した. GeislerらとArtsらおよび著者らの基準に従ってHSP 27の染色性をそれぞれ評価し,予後との関連について解析を行った.  「結果」陽性のcut off を25%以上に設定した著者の評価方法での生存解析とGeislerらの基準を一部変更した生存解析で, HSP 27陽性群の予後が有意に不良であった.しかし,他の評価方法を行った場合には生存曲線に有意な差はみられなかった. Geislerらの本来の評価方法でもHSP 27発現スコアの平均は生存群で4.97,死亡群では6.16であり,有意な差がみられなかった.  「考察」上皮性卵巣癌の予後因子としてHSP 27の発現を検討する場合に,我々の作成した25%陽性基準は適切であることが示唆された.       (平成14年8月28日受理)

2002.03.02

Examination of the lethality of the means used to attempt suicide and the seriousness of the resulting physical injuries – Clinical study review – *

 【背景】自殺企図症例において,重症未遂者は軽症未遂者に比べて狭義の精神障害の割合が高い傾向が指摘されている. 【目的】自殺企図症例において,その「手段の危険性」と「結果としての身体的重症度」を指標として臨床検討を試みた. 【対象】1992年4月から2001年6月までの期間に,自殺企図により川崎医科大学附属病院精神科に入院し著者が治療に直接関与した患者延べ56例と,自殺企図により当院他科に1週間以上入院となり著者がリエゾン精神医学的関与を行った18例を抽出し,検討を加えた. 【方法】当科入院56例とリエゾン18例の合計74例について後方視的に調査を行った.企図手段の致死性から危険度を判定して「高危険群」と「低危険群」の区別を試みたが,判定困難な事例が必ず存在する事が確認され「判定困難群」を設定した.身体的重症度は「重症群」と「非重症群」に区別した. 【結果】危険度の分類では「高危険群」は42例,「低危険群」は18例,「判定困難群」は14例,となり,重症度の判定では「重症群」は38例,「非重症群」は36例,となった. 各群において診断上「狭義の精神障害」が占める割合は「高危険群」は85.7%,「低危険群」は55.6%,「判定困難群」は85.7%であり,「重症群」は84.2%,「非重症群」は72.2%であった.  「狭義の精神障害」の占める比率の比較では「高危険群」と「低危険群」の間には統計上X2検定で有意差を認め(P=0.011<0.05),「高危険群」と「判定困難群」め間には有意差はなかった(P =0.685).一方,「重症群」と「非重症群」では有意差は認めなかった(P =0.21). 【考察】身体的重症度よりも手段の危険性の方が,狭義の精神障害の占める比串と相関しており,自殺企図においては身体的重症度のみならず企図手段の危険性の判断が極めて重要であることが示された.危険性の判定においては「判定困難群」が必ず存在する事が確認され,「判定困難群」は「低危険群」よりも「高危険群」に類似したグループであると考えられた.                          (平成14年8月23日受理)

2002.03.01

Seven cases of primary carcinoma of the duodenum *

 今回我々は消化管癌の中でも稀とされる十二指腸癌の7例を経験した.年齢は平均61歳(48~79歳),男女比は6:1であった.初発症状は心窩部痛が3例,黄疸が1例,無症状が3例で,診断には上部消化管内視鏡検査,低緊張性十二指腸造影が有効であった.発生部位は乳頭上部が2例,乳頭下部が5例で,手術は4例に膵頭十二指腸切除を,2例に局所切除を施行し,1例は切除不能例であった.組織型は高分化型腺癌6例,粘液癌1例であり,粘膜上皮までに留まる早期癌であれば内視鏡的切除も可能であることから,正確な術前診断を行い的確な術式の選択をすべきと考えられた.    (平成14年6月28日受理)

2002.02.07

 

2002.02.06

 

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