h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

topimage01

2002.01.01

Tryptophan degradation by indoleamine 2,3-dioxygenase (IDO) and tryptophan 2,3-dioxygenase (TDO) in murin concepti *

 Indoleamine 2, 3 -dioxygenase (IDO)とTryptophan 2, 3-dioxygenase (TDO)は必須アミノ酸のひとつであるトリプトファン(Trp)を酸素化する反応を触媒し,N-ホルミルキヌレニンを産生するTrp分解酵素である. 1998年にDavid Munn らはIDOが正常妊娠時に胎盤で局所的にTrpを枯渇させ,その結果母体側の免疫拒絶を担うT細胞が機能不全に陥るという報告を行った.しかしIDOの役割は十分に解明されていないことから,マウス胚/胚体外組織を用いてIDO発現 (Trp分解酵素活性, IDO蛋白, IDO mRNA)の時間的推移を解析した. Trp分解酵素活性は,受精後5.5日目には非常に低いものの,胚/胚体外組織で検出でき,その後急激に増加し24時間後の6.5日目にはピークに達し,次いで次第に減少した.IDO蛋白は妊娠初期には認めず,妊娠8.5日目から12.5日目に発現を認めた. IDOmRNAの発現は8.5日目以前は非常に低いものであったが, 9.5日目にピークを示した.Trp分解酵素活性の方が, IDOの蛋白質およびmRNAの発現よりも早い時期に上昇するという結果が得られた.そこで妊娠初期に高発現しているTrp分解酵素が如何なるものかを解明するために,もう1つのTrp分解酵素であるTDOに着目し検索を行ったところ,TDOはmRNAまた蛋白レベルの双方で,妊娠初期から胚/胚体外組織で強力に発現していた.それに加えて,妊娠初期のTrp分解酵素活性はIDOの特異的な阻害剤である1-methyl-Trpで抑制されなかった.以上のことから,妊娠初期に発現しているTrp分解酵素活性はIDOではなくTDOであることが示唆された. これまでTDOは成体の肝臓でのみ特異的に発現していると報告されているが, TDOの発現が肝臓以外の組織中に初めて確認された.妊娠初期の組織中でTrpを枯渇させるのに, IDOよりもむしろTDOが強力に働いていることを示唆する結果を得た. 妊娠初期にはTDOがTrp濃度を強力に低下させ卵の着床を導くが,中期に至って胎児への大量のTrp供給が必要とされるようになると, Trpを枯渇させずにIDOが胎盤局所での免疫抑制を行う,という役割分担をTDOとIDOで行っているのではないかと考察した.                                 (平成13年11月19日受理)

2001.04.07

Fiberoptic endoscopic examination of swallowing (FEES) compared with videofluoroscopy (VF) in the evaluation of aspiration in stroke patients *

 嚥下障害が疑われ経管栄養となっている脳血管障害患者105名に対して嚥下内視鏡検査(FEES)と嚥下造影(VF)を施行した. FEESの臨床的有用性を確認する目的で,VF上の誤嚥頻度とFEESによる嚥下咽頭期評価の結果を比較し,その関連性について重回帰分析を行った. 喉頭閉鎖運動異常,声帯運動の異常,喉頭粘膜の知覚異常, FEES上の誤嚥(喉頭内侵入),咽頭残留については,それぞれVF上誤嚥を認めた患者64名中60名(93.8%), 26名(40.6%), 56名(87.5%), 62名(96.9%), 59名(92.2%)に認められた.一方,VF上誤嚥を認めなかった患者41名ではそれぞれ3名(7.3%), 20名(48.8%), 1名(2.4%),8名(19.5%), 9名(22.0%)であった.VF上の誤嚥と高い相関がある項目は,喉頭閉鎖運動異常,喉頭知覚低下, FEES上の誤嚥,咽頭残留であった.重回帰分析の結果では,VF上の誤嚥とFEESの5項目の関係については,有意な相関を声帯運動の異常を除く残り4項目で得られた. FEESの各嚥下咽頭期評価を変数として重回帰分析を行った.各変数への点数配分をスコアーとして,正常は1,異常は2として入力した.その結果,重回帰式は,「VF所見スコアー」=0.297+0.395×「喉頭閉鎖運動スコアー」-0.113×「声帯運動スコアー」+0.411×「喉頭知覚スコアー」+0.229×「誤嚥スコアー」-0.478×「咽頭残留スコアー」となった.得られた重回帰式の自由度修正済み重相関係数の二乗(R2)が0.819と高いことから, FEES上のこれらの所見を詳しく分析することによってVF上の誤嚥を予測できるものと考える。FEESはベッドサイドでも施行可能で,直視下で安全に咽頭喉頭を観察できる利点もあり,今後の評価法として利用価値が高い.                               (平成13年10月22日受理)

2001.04.06

Cytogenetic analysis of secondary hyperparathyroidism *

 透析医療の進歩に伴い長期透析患者数は年々増加している.長期透析患者QOLに大きく影響する重要な合併症の1つである透析骨症は現在においても重要な問題で,その中でも二次性副甲状腺機能亢進症は精力的に検討されてきた.最近の報告によれば,X染色体の不活化を用いたMonoclonarityの検索で,内科的治療に抵抗性で摘出術を必要とする二次性副甲状腺機能亢進症において, Monoclonalな副甲状腺細胞の増殖が認められることが示されている.しかしこの二次性副甲状腺機能亢進症において見られる副甲状腺過形成及び腫瘍性増殖の責任遺伝子については全く解明されていない. 今回我々は,二次性副甲状腺機能亢進症と診断され,外科的に摘出された副甲状腺に対して,責任遺伝子の染色体座位を明らかにすべく,細胞遺伝学的検索を行った.副甲状腺摘出術を受けた血液透析患者15名,15腺に対して染色体解析を行い,また,血液透析患者22名,42腺について, Allelotypingを行い, Loss of heterozygosity 解析(LOH解析)を行った.染色体解析では15腺中13腺にて,解析可能であり,染色体数の異常を6腺に認めた.7番染色体の増加が38% (5/13), 22番染色体の欠失が23% (3/13)に認められた. LOH解析では,22番染色体,11番染色体のMicrosatellite markerにおいて,それぞれ, 19% (8/42), 1% (3/42)のLOHを認めた.病理組織所見と染色体異常, LOHの有無との間に関連を認めなかった. 今回の結果から,複数の染色体で,数的異常やLOHを認めた.その内,7番染色体,11番染色体,22番染色体の異常が,副甲状腺の増殖調節に関与している可能性が示唆された.                               (平成13年10月17日受理)

2001.04.05

Evaluation of intermittent claudication by near-infrared spectroscopy and air plethysmography *

 間歇性跛行をみとめる下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)40症例51肢と下肢の虚血がなく症状の認められない若年健常者47例94肢,高齢健常者10例20肢を対象に,近赤外線分光法 (NIRS)と空気容積脈波(APG)を用いてトレッドミル歩行負荷による間歇性跛行の客観的重症度評価を施行した. NIRSでは歩行負荷終了時から酸素化ヘモグロビン(Oxy-Hb)と脱酸素化ヘモグロビン(Deoxy-Hb)の示す曲線の交差点までを回復時間(RT),APGでは安静時動脈流入量/下腿容積(rAIIndex)およびトレッドミル負荷後の動脈流入量/下腿容積(eAIIndex)を測定した. rAIIndex, eAIIndexがともに0.9 ml/min/100 cm 3より大で,負荷前より負荷後が上昇したものⅡa,負荷前より負荷後が低下したものをⅡb,rAIIndexが0.9より大でeAIIndexが0.9以下をⅡc, r AIIndexが0.9以下をⅡdとすると,軽症のⅡa,Ⅱbは保存的療法に効果があるが,Ⅱc,Ⅱdには効果がなかった.RTが180秒以下の症例は,保存的療法に効果あるも, 300秒以上の症例は効果がなかった。NIRSによる回復時間とAPGによるrAIIndex, eAIIndexを用いた重症度分類は,ASOの治療方針の決定のー補助手段として有用であった。         (平成13年10月16日受理)

2001.04.04

Excitablity of spinal anterior horn cells after transcranial magnetic stimulation – Measurement of the excitation suppression time in spinal anterior horn cells after median nerve electrical stimulation – *

 脊髄前角細胞について,その興奮に続く抑制時間を検討した報告は少ない.そこで健常成人93名を対象として,末梢神経の電気刺激による前角細胞の興奮に続いて,経頭蓋的磁気刺激法による再興奮の有無を検討した.表面電極,同心型針電極およびsingle fiber針電極を用いて単独で運動誘発電位を記録したところ,これら3群間に電極による明らかな潜時の差は認められなかった.前角細胞より末梢でcollision (衝突)を起こさせた波形を経頭蓋的磁気刺激法のみの波形と比較したところ, collision technique を用いた場合の方が有意に潜時の延長が認められた.電気刺激が先に前角細胞に到達した後に磁気刺激が前角細胞に到達するよう設定した場合,多くの例で潜時の遅れが認められた.以上の結果から,従来報告されているdiscending volleys の骨格筋での記録は疑わしいと考えられる.また,多くの前角細胞は,末梢神経の電気刺激によって,数ms~数十ms以上の興奮抑制が生じると推察される.                  (平成13年10月16日受理)

2001.04.03

Correlation between APC germline mutation and clinical phenotyoe in familial adenomatous polyposis *

 背景:家族性大腸腺腫症(FAP)は多発性大腸腺腫と多彩な大腸外病変を特徴とし,adenomatous polyposis coli (APC)遺伝子変異に起因する遺伝性疾患と考えられている.本症における遺伝子診断の意義を明らかにするため, APC遺伝子変異と臨床徴候の関係を検討した. 対象と方法:大腸および大腸外病変からFAPと臨床診断した32家系44例を対象とし,以下を検討した.1)生殖細胞APC遺伝子変異をPCR-SSCP法,ないしPTT法でスクリーニングし,5’側(エクソン1 -1 2)変異群,3’側(エクソン13-15)変異群,変異陰性群の3群に分け,大腸病変の程度,胃・十二指腸腺腫の頻度と経過,および他の大腸外病変(骨腫,デスモイド,網膜色素上皮過形成)の頻度を比較検討した.2)変異陽性例の塩基配列異常を検索し,上記臨床徴候と対比した. 結果:1)7家系8例は5’側変異群,11家系22例は3’側変異群,14家系14例は変異陰性群であった.3’側変異群では他の2群よりも密生型大腸腺腫症,十二指腸非乳頭部腺腫,および網膜色素上皮過形成の頻度が有意に高かったが,十二指腸非乳頭部腺腫の進展との関係は明らかではなかった. 2) 8家系11例にnonsense変異を,8家系17例にframeshift変異を認めた.コドン161および1556の変異家系は大腸腺腫症が散在性で鋸歯状腺腫を伴っていた.コドン1556変異家系では顕著な進行性十二指腸腺腫症を,コドン1530変異家系では浸潤性デスモイド腫瘍の発生を認めた. 結論:APC遺伝子変異部位の違いによる臓器特異的なFAPの形質発現を明らかにした.従って本遺伝子診断はFAP患者の管理方針決定の一助となりうると考えられる.しかし,FAPの原因としては, APC遺伝子以外の遺伝的素因の関与も推測された.                               (平成13年10月16日受理)

2001.04.02

A background examination of four cases of primary biliary cirrhosis complicated by hepatocellular carcinoma *

 要旨:今回我々は4例の肝細胞癌(HCC)合併原発性胆汁性肝硬変(PBc)を経験したのでその背景因子について検討した.自験例はいずれも血液学的にはHBV, HCVの肝炎ウイルスが陰性で,アルコール飲酒歴も認めず,血液,組織学的にPBcと診断された症例である.4例の肝障害発生年齢は56.5±2.6歳, HCC診断時年齢は70.0±2.5歳と長期経過例で,組織学的にはScheuer Ⅲ期が1例,IV期が3例といずれも進行例であった.当科で経過観察中の組織学的進行例20例のPBCでHCC合併例(4例)と非合併例(16例)の肝予備能を比較した結果, HCC合併例は非合併例に比して有意に%プロトロンビン時間(%PT),アルブミン(Alb)値が高値で肝予備能が保たれていた. HCC合併PBCは肝障害発生から長期経過した組織学的進行例に多く,肝予備能が比較的保たれた症例であった.                  (平成13年10月12日受理)

2001.04.01

Morphological studies on the Diphyllobothriid Tapeworm (Cestoda: Pseudophyllidea) found from a man in Kasuga city, Fukuoka prefecture, Japan *

 福岡県春日市在住の33歳男性(寿司職人)にみられた裂頭条虫寄生の1症例と虫体スト囗ビラの形態について報告した.この患者は,平成10年頃から糞便中に条虫様の短い片節を頻繁に自然排出していたが,平成12年6月6日にプラジカンテルによる駆虫後,頭節を備えた裂頭条虫の成熟スト囗ビラ(長さ340 cm, 最大幅8.0 mm) 1条を排出した.この条虫は次のような点から, Rausch and Hilliard(1970)による広節裂頭条虫Diphyllobothriumlatum (Linnaeus, 1758) Lu he, 1910の形態的特徴に一致する虫体と思われた.即ち,1)頭節は棍棒状で長径1.72 mm, 背腹の高さ0.55 mmである.2)片節は縦径<横径を呈し,縦径平均1.55 mm, 横径平均7.7mm縦径:横径比は1:5)で,厚さ約0.7mmである.3)生殖孔は片節前縁から片節縦径値の約1/5後方に開口し,生殖孔周囲に著明な乳頭が認められる.4)子宮ループの数は5~6で側方に向ってさほど伸展してない.5)子宮ループの最前端は陰茎嚢の前縁を越えている.6)精巣は一層に配列し,前後の各片節の精巣との境界に隙間がある.7)陰茎嚢は洋梨形で長径平均660μm,短径平均360μmで,片節の前後軸に対してほぼ水平位をとる.8)虫卵は楕円球形で無蓋端側に小突起を有し,長径平均60.2μm,短径平均41 .4 μm,卵殻の厚さ平均1.5μ.mで,卵殻表面には点刻を認めない.症例の患者は,職業上各種魚介類の刺身を食べており,この条虫の感染源については特定できなかった.最近, D. latumおよびその近縁種の中間宿主であるベニマスrainbow trout, oncorhynchus mykiss(チリ産およびノルウェー産)が我が国に輸入されている.従って,本邦における裂頭条虫類のヒト寄生例の中には依然としてDlatumやその近縁種の感染者が見つかる可能性があると思われる.(平成13年9月26日受理)

2001.03.07

A case of lung abscess in a child with no symptoms other than chest pain *

 症例は生来健康の11歳男児.発熱や感冒症状もなかったが,突然胸痛を訴え,当院救急外来を受診し,胸部レントゲンで2ヵ所の結節性陰影を認めたため入院となった.胸部CTでは1ヵ所にニボー像があった.エコーガイド下に胸壁に接した部位を経皮的穿刺し,細菌学的検査に提出したが,嫌気性菌や結核菌を含め,細菌を同定することができなかった.入院後CRPは半日で0.8 mg/dl から3.2 mg/dl に上昇したが, PAPM/BPの投与4日目で陰性化した.免疫学的検査ではT細胞やB細胞,免疫グロブリンにも異常なく,好中球の貪食能や殺菌能にも異常を認めなかった.小児の肺膿瘍は稀であるが,基礎疾患を持つ児に多い.胸痛の直前まで無症状で炎症反応も強くなかったことから, silentabscessと考えられた.我々が捜し得た限りではこのような報告はなかった.原因については不明であった.                     (平成13年8月18日受理)

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