h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

topimage01

2007.02.04

The functional impairment of fanconi anemia pathway due to FANCA mutation or polymorphism *

 Fanconi貧血(FA)は,FANCAタンパクのようなFAコア複合体の構成遺伝子や,FANCD2タンパク,時にその他の関連遺伝子の変異によって引き起こされる稀な遺伝疾患である.FAコア複合体は,DNA損傷によってFANCD2タンパクをモノユビキチン化するE3リガーゼとしての役割を果たしている.FA患者由来の細胞はマイトマイシンC(MMC)やcisplatinのようなDNA架橋剤に高感受性を示す.最近,FA患者ではない癌患者においても,FA遺伝子の変異やメチル化による発現低下が検出された.しかし,癌患者におけるFA遺伝子の変異が細胞におよぼす影響は全く調べられていない.
 今回,患者由来の変異ないしは一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism:SNP)を有するcDNAを,ニワトリB細胞株DT40細胞から作製したFANCA欠損細胞の系に発現させ,cisplatinへの感受性の相補や,FANCD2モノユビキチン化および核内フォーカス形成について検討した.癌患者由来のSNPをもったFANCAはcisplatin感受性の相補は不完全で,MMC処理後のFANCD2モノユビキチン化はやや減少していた.しかし,これらの細胞は野生株FANCAを欠損細胞に発現した際と同様に,MMC処理後に核内フォーカスを形成した.一方でFA患者由来の変異をもつcDNAを発現させた細胞では,核内フォーカスは全く観察されなかった.これらの結果から,癌患者で認められたFANCAのSNPは,FA経路の部分的欠損によってゲノム不安定性を引き起こし,さらには癌を発症させた可能性があることが示唆された.
(平成18年10月10日受理)

2007.02.03

Additional report on human cases of infestation with the Hard Tick, Ixodes ovatus (Acarina: Ixodidae) in Japan – a bibliographical review – *

 前報(初鹿,1998)に続いて,1997年9月~2005年9月に本邦で発生したヤマトマダニ人体寄生例の報文を通覧して疫学的に検討した.今回の症例は,前報に追加の3症例を含めて40例(男性15,女性11,性別不明14)である.患者の都道府県別発生数では静岡が27.5%で最も多かった.患者は4~9月に発生していたが,発生率は5月の37.5%をピークに,83.3%が5~8月に集中していた.患者の年齢は1~74歳で,9歳以下が30.8%と最も多かった.年齢と性別の関係では,9歳以下の女児と50歳代の女性が最も多く,それぞれ19.2%だった.虫体の寄生部位は,眼瞼が61.5%で最も多く,次いで頸部と耳介が各7.7%,以下,胸・腹部などがそれぞれ3.8%の順で,頭部・頸部の寄生が92.3%(24例)を占めていた.患者がマダニの寄生を受けた場所については大多数が山岳地帯であるが,その他に野原や庭などがあった.本邦において2005年までに報告されたヤマトマダニの人体寄生症例は,前報の216症例を加えて256例となる.本稿ではこれら256例についても疫学的検討を加えた.(平成18年10月6日受理)

2007.01.06

A case of tympanic plate fracture following mandibular condylar fracture *

 関節突起骨折に伴う外耳道骨折の報告は少なく,あまり知られていない合併症である.症例は80歳,男性.平成17年11月27日に犬の散歩中に転倒してオトガイ部を打撲し右耳出血がみられた.近脳神経外科にてX線で右関節突起骨折を認めたために,当院救急部を紹介受診し当科に対診された.神経症状はなく,オトガイ部に挫創,右耳前部に腫脹,右外耳道内から少量の出血を認めた.オトガイ部を縫合し,外耳道内にボスミンガーゼを挿入した.追加のX線検査にて下顎正中部骨折も認めたが,高齢で義歯の咬合不正がなく保存的に加療した.CT検査では下顎頭は粉砕状で内側へ転位し,外耳道前下壁骨折を認めた.聴力検査では骨伝導力の低下はみられなかった.MRI検査では関節円板に形態的変化はなく,転位骨折した下顎頭との関係は正常であった.また開口により関節円板と下顎頭は良好な位置関係を保ったままで前方移動していた.治療は保存療法後に開口練習を継続している.関節突起骨折の時には外耳道の皮膚損傷の有無を確認し,損傷が見られた時には止血と外耳道狭窄防止を兼ねて外耳道へのパッキングが重要である.
(平成18年9月7日受理)

2007.01.05

a case of unresectable unicentric Castleman’s disease that indicated significant response after radiotherapy *

 症例は70歳代女性.平成××年4月11日嘔吐のため近医に入院,保存的に治療し症状は軽快した.同時に施行された腹部超音波検査で下腹部に腫瘤を認めたため,当科紹介入院となった.当院で施行した腹部超音波検査では,骨盤腔に8×4cmの内部が均一な低エコー腫瘍を認め,また内部を上腸間膜動脈の本幹およびその分岐を貫通するsandwich signを認め,悪性リンパ腫を疑った.SIL-2R 618 U/ml,TK 6.1 U/lは軽度高値を示し,血清アミロイドA蛋白はSAA 517mg/mlと高値(正常範囲<8.0mg/ml)を示した.また胸腹部造影CT,MRI,67Gaシンチグラフィーでは腹部腫瘤以外異常所見を認めなかった.6月27日病理組織診断目的のため腹腔鏡補助下に生検を施行した.病理組織学的には,硝子化を背景に,随所でリンパ濾胞も目立ち,濾胞間の増生,一部のリンパ濾胞では,濾胞内に血管が入り込むような所見が認められた.以上から,hyaline vascular typeの Castleman病と診断した.外科的切除不能のため放射線治療を施行し,著明な縮小効果が得られた.
(平成18年8月30日受理)

2007.01.04

Age-related changes in bone mineral density in Japanese adult males: association with bone metabolic markers *

[目的]女性における骨密度の加齢変化は既に詳しい検討が行われているが,男性についての検討は少ない.特に,日本人男性についての報告はほとんどみられない.そこで,本研究では,日本人男性における骨密度の加齢変化および骨密度変化と骨代謝マーカーとの関連について検討した.
[対象と方法]1989年から2005年までに健康診断の目的で当院で骨密度測定を実施した成人男性を対象とした.全対象例1,737人のうち443人が異なる年度に複数回受診しており,初診時の年齢は54.3±10.4歳,初回から最後の受診時までの期間は平均4.8年であった.腰椎,大腿骨および橈骨の骨密度を二重エネルギー吸収測定法により測定し,初診時の値から横断的検討を,初診および最後受診時の値から縦断的検討を行った.経時的な骨密度測定を行った症例のうち39-71例を対象に種々の骨代謝マーカーの測定を実施した.また,問診結果および胸腰椎X線写真により脆弱性骨折の既往の有無を判定した.
[結果]横断的検討では橈骨および大腿骨頸部骨密度と年齢との間に有意な負相関が見られ(それぞれr=-0.377,-0.224),腰椎骨密度と年齢には有意な関連は認められなかった.縦断的検討による骨密度の年間変化率は腰椎0.405±1.56%,大腿骨頸部-0.249±1.12%,橈骨-0.517±0.89%で,加齢とともに腰椎では有意な増加,大腿骨頸部と橈骨では有意な減少が示された.骨代謝マーカーのうちで尿中デオキシピリジノリンと腰椎および大腿骨頸部の骨密度変化率との間に有意な負相関が認められた(それぞれr=-0.323,-0.439).観察期間中に4例で脆弱性骨折の発生が見られたが,骨折発生と骨密度や骨代謝マーカーとの間には有意な関連は認められなかった.
[結論]男性では加齢とともに腰椎の骨密度増加を示す例が多く,骨粗鬆症の評価の際には注意が必要である.また,男性でも女性と同様に骨吸収の亢進が将来の骨密度減少のリスクとなる可能性が示唆された. (平成18年10月3日受理)

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