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Online edition:ISSN 2758-089X

topimage01

2004.03.05

Laparoscopic splenectomy for inflammatory pseudotumor of the spleen: report of a case *

 脾原発inflammatory pseudotumorは比較的稀な疾患であり,その術前診断も困難とされている.今回,われわれは本症に対して腹腔鏡下脾臓摘出術を行った1例を経験したので報告する.症例は68歳,女性.前医で平成7年に右乳癌のため右乳房部分切除術を施行され,術後定期検査で脾腫瘤を指摘された.自覚症状は無く,血液検査でも異常を認めなかった.腹部超音波検査で脾臓に径26mm大の低エコーの腫瘤を認め,腹部CT検査でも脾臓に約25mm大の腫瘤を認めた.腹部血管造影検査では明らかな腫瘍濃染は認めなかった.良性の原発性脾腫瘍,乳癌の脾転移,悪性リンパ腫などが考えられ,診断的意義を含めて腹腔鏡下脾臓摘出術を施行した.病理組織学的に脾原発inflammatory pseudotumorと診断された.本症は術前診断が困難な上,脾臓摘出に診断と治療が委ねられているため,低侵襲な腹腔鏡下脾臓摘出術が最も適していると考えられた. (平成17年4月11日受理)

2004.03.04

Primary testicular lymphoma diagnosed as recurrence eight years after initial complete remission *

 症例は73歳男性.1995年に左無痛性陰嚢腫大が出現し左精巣腫瘍を認めた.左精巣摘出後の病理組織はびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)であり,精巣原発悪性リンパ腫(PTL)と診断した.化学療法(THP-COP)6コースと抗腫瘍剤の髄腔内投与,および対側精巣に放射線照射(30Gy)を施行し完全寛解を得た.初診から8年後の2003年7月に右側無痛性陰嚢腫大と鼻閉感が出現.右精巣摘出術を行い,DLBCLと診断した.Rituximab併用化学療法(Biweekly THP-COP)を施行後,第2完全寛解を得て,現在寛解継続中である.PTLは,再発や転移をきたしやすいため節外性悪性リンパ腫の中でも予後不良な一群とされている.本症例は予防的に対側精巣に対して放射線照射を行ったにもかかわらず,8年後に同部位に再発した.PTLは長期寛解後の症例にも再発することがあるため,長期間に渡る注意深い経過観察が必要である.(平成17年3月24日受理)

2004.03.03

One case of a bear-inflicted facial wound *

 報道等による本年の熊による人への被害報告は,例年になく多い.今回我々は,51歳男性が母子熊に遭遇し,顔面外傷を受けた症例を経験した.熊の襲撃の多くは頭頚部に集中しており,襲撃部位によっては時として致命的になることがある.一般的な救急処置に加えて,感染症や寄生虫症対策等を行う必要がある.特に破傷風やガス壊疽菌症には十分注意すべきである.また,顔面軟部組織損傷の治療にあたっては,機能,形態をなるべく元通りに再建する必要があり,組織欠損の量,周囲皮膚とのカラーマッチなどを考慮し皮弁や植皮,骨を含めた複合組織移植などの選択を行う必要がある.さらに外傷の程度に応じて,半年から1年は,機能および形態面に注意を払いながら外来にて経過観察を行う必要がある.(平成16年12月20日受理)

2004.03.02

Total knee arthoroplasty for windswept deformity – a case report – *

 Windswept deformityは一側の内反変形と反対側の外反変形が同時に存在する病態である.我々はwindswept deformityに人工膝関節全置換術(TKA)を施行したので報告する.症例は63歳の女性で関節リウマチ(RA)に罹患している.当科に膝の変形による歩行不能を主訴に初診した.金属楔・ブロックの補填材を併用してのセメント固定人工膝関節全置換術を施行した.術後,疼痛はなく不安定性も見られない.屋外歩行が可能となり本人は非常に満足している.長期成績は経過を待たねばならないがwindswept deformityの治療にTKAは有用であった.(平成16年12月20日受理)

2004.03.01

Chronological changes of bone mass indices by quantitative ultrasound in the calcaneus in women *

 定量的超音波法(QUS)を用いて女性における踵骨の骨量指標の経時的変化を検討した.
 対象は,QUSにより年1回の測定が複数回(追跡期間平均3.3年,1~7年)施行された健常女性701例(年齢:56.0±12.4歳)である.
 QUSの骨量指標として,超音波の速度(SOS),広帯域超音波減衰係数(BUA)およびSOSとBUAから数学的に計算されるStiffnessが使用された.そして,対象を年代別に3群(21~44歳の閉経前(129例),45~59歳の閉経周辺期~閉経後早期(265例)と60~87歳の閉経後後期(307例))に分類し,各群における骨量指標の経時的(1~7年)な変化率を検討した.その結果,SOSの変化率は3群ともに(7年間:+0.2~+0.9%)殆んどで変化がなかった.
 BUAの変化率は3群ともに最も大きな低下(7年間:-5.6~-10.7%)を示し,21~44歳群よりも45~59歳群と60~87歳群が著明であった(7年間:21~44歳群:-5.6%,45~59歳群:-9.2%,60~87歳群:-10.7%).Stiffnessの変化率は,21~44歳群では低下(-0.9%)は小さかったが,残りの2群での低下は大であった(45~59歳群:-8.3%,60~87歳群:-7.6%).
 このように,健常女性の踵骨ではQUSで得られる骨量指標の加齢に伴う変化は,骨密度を反映するSOSよりも骨密度と骨質を併せた指標であるBUAの低下率が大きいことが示された.また,今回の研究結果から,年代別の骨量指標の経年的変化率の基準値が得られたので,骨量指標の急速喪失者の検出に利用できるものと思われる.
(平成17年5月6日受理)

2004.02.07

Gene analysis of α-thalassemic abnormal hemoglobin, Hb Constant Spring, possessing a mutation at the terminal codon of α-globin gene *

 αグロビン遺伝子の終止コドンに変異をもつHb Constant Spring保因者と診断されているタイ人(10人)から単離された赤血球をαグロビン遺伝子の解析に用いた.
 Hb分析は,赤血球から調製した溶血液の等電点電気泳動法,陰イオン交換BioAssist QカラムによるHPLCあるいは自動分析器,HLC-723G7,によって行った.キットによる簡易法でDNAの抽出をし,欠損型のαサラセミア-2変異体やαサラセミア-1変異体の検出はGap-PCR法で行い,非欠損型のαサラセミア変異体の検出はαグロビン遺伝子のPCR-シーケンシング法で行った.
 Hb分析ではHb A2付近にHb Constant SpringやHb Eと推測される低あるいは高含量の異常Hbが存在し,また,HbAより陽極にHb Hが存在するものもあった.αサラセミア-2変異体の2種の欠損型(-α3.7と-α4.2)は,双方とも存在しなかったが,αサラセミア-1変異体の欠損型は–SEA型が存在した.調べた検体中に検出された終止コドンに変異を持つ非欠損型のαサラセミア様変異体はα-Constant Spring(αCS)のみならずα-Pakse(αPakse)が存在した.このことから,タイで検出されるHb H症には,–SEA/αCSαや–SEA/αPakseαの遺伝子型が存在すると考えられた.また,2検体は,この地域でよくみられるHb E症の保因者でもあった.
 この研究は,αCSがHb H症の原因となっている東南アジア地域(タイ,ベトナム,カンボジア,フィリピンなど)から日本に移住している多くの人々のヘモグロビン異常症の解析に有益であると思われた.(平成16年11月9日受理)

2004.02.06

Local expression of fractalkine and macrophage-related matrix metalloproteinases in patiets with inflammatory bowel diseases: Regulation of inflammation and distinguishing features in Crohn’s disease and ulcerative colitits *

fractalkine(FKN)は1997年に同定されたchemokineであるが,白血球走化作用のみならず細胞接着作用をも合わせ持っている.また,細胞基質分解酵素であるmatrix metalloproteinases(MMPs)もchemokinesと同様,種々の炎症性疾患に関わっている.そこで,潰瘍性大腸炎(UC)およびクローン病(CD)の粘膜局所におけるchemokinesおよびMMPsの蛋白およびmRNAの発現を活動部位別に検討した.UC20例(男性13例,女性7例,平均41.4歳,全大腸炎型11例,左側大腸炎型6例,直腸炎型3例),CD10例(男性9名,女性1名,平均27.9歳,小腸型6例,小腸大腸型2例,大腸型2例),および大腸に病変のない若年成人(NC)10例(男性8例,女性2例,平均33.2歳)に大腸内視鏡検査を施行し,回腸末端,虫垂開口部,S状結腸,直腸から生検を行った.抗FKN,monocyte chemotactic protein(MCP)-1,MMP-3,-9,-12抗体を用いて凍結切片の免疫染色を行った.中拡大1視野での陽性細胞数を計測し,3視野分を集計したうえでの平均陽性細胞数をタンパク発現の指標とし,炎症の有無,採取部位別に評価した.また,生検組織からmRNAを抽出し,RT-PCRでFKNとMMPsのmRNAの発現を検討した.chemokinesとMMPsともに,炎症部位では,陽性細胞数,mRNA発現ともに有意に増加していた.寛解期患者の非炎症部では陽性細胞数増加やmRNA発現の亢進はいずれも認められなかったが,活動期患者における非炎症部位では陽性細胞数の増加がないにもかかわらずmRNAの発現は有意に亢進していた.非炎症部位の採取部位別検討では,回腸末端でのFKN,MMP-3,-9,-12がCDでの陽性細胞数がUCに比べて有意に高値で,虫垂開口部では逆にUCでのMCP-1,MMP-3,-9がCDに比べ高値であった.活動期のUC,CD患者では,chemokinesとMMPsは炎症部のみならず非炎症部においても mRNAの発現が亢進していた.しかし,非炎症部では蛋白発現の増加が抑えられているため局所の炎症が惹起されていないものと考えられた.すなわちIBDにおいては,post-transcriptional regulationが有効に機能することで炎症を制御していることが示唆された.また,部位別の検討では発現パターンが異なることから,非炎症部位であっても回腸末端や虫垂開口部でのchemokinesやMMPsの発現を検討することにより,鑑別困難例の診断などの臨床応用が期待できる.(平成16年10月27日受理)

2004.02.05

Gene analysis of hemoglobin M-Hyde Park [β92His → Tyr] *

 ヘモグロビン(Hb)異常症の一つでHb M症と呼ばれる一群に分類されるHb M-Hyde Park[b92His→Tyr]は,bグロビン鎖のアミノ酸置換によるメト化ヘモグロビン(ferri-Hb)の形成によってチアノーゼと溶血性貧血を呈する.今回,Hb M症の疑われる男児(発端者),父親(パキスタン人),母親(日本人)と兄のパキスタン人家系について,溶血液のHb分析,グロビンの構造解析や遺伝子解析を行い,発端者とパキスタン人の父親がHb M-Hyde Parkのヘテロ保因者であると診断した.
 また,本家系と日本人3家系6症例について,bグロビン遺伝子群の7ヶ所,bグロビン遺伝子内部の5ヶ所の多型をPCR-RFLP(Polymerase Chain Reaction-Restriction Fragment Length Polymorphism)法,PCR-直接sequence法により決定し,比較した.この結果,bM-Hyde Parkの変異を持つalleleはパキスタン人と日本人では異なったパターンを示した.これはHb M-Hyde Parkの変異発生起源が,異なる民族間で独立したものであることを示唆している.
 さらに,最近開発された遺伝子解析法であるSingle Step Extention Method(SSE:またはSNaPshot法)を導入し,bグロビン遺伝子内部の5ヶ所の多型と,Hb M-Hyde Parkの変異の決定を行った.この結果,本法はPCR-直接sequence法の結果と一致し,既知の変異や多型を決定する方法としては,ARMS(Amplification Refractory Mutation System)法やPCR-RFLP法,SSCP(Single Strand Conformation Polymorphism)法に比べより簡便で優れた方法であると考えられた.(平成16年10月21日受理)

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