h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

topimage01

2022.12.07

A case of isolated thyroid metastasis that was diagnosed 24 years after renal cancer surgery

転移性甲状腺癌において原発部位は腎癌が最も多いとされているが,今回腎癌術後24年と長期間経過後に孤立性甲状腺転移の症例を経験したので報告する.症例は68歳,女性.既往歴に右乳癌,両側肺癌,左腎癌あり.右乳癌温存術後の放射線治療目的に前医より当院放射線治療部に紹介.位置決めCT で甲状腺右葉腫瘤を指摘され当科紹介.頸部超音波で甲状腺右葉に約3㎝大の被膜を有する低エコー腫瘤を認めた.穿刺吸引細胞診で良性との結果で経過観察としていた.その後,腫瘤の増大を認めたため,手術を勧め,甲状腺右葉切除術を行った.術後病理検査で腎癌(淡明細胞癌)の転移との診断であった.その後当院泌尿器科に紹介し,全身精査するも明らかな遠隔転移なく経過観察となっている.腎癌術後に甲状腺腫瘤を認める場合は転移の可能性を考慮する必要性があると考える.

2022.12.01

Evaluation of laparoscopic and robotic sacrocolpopexy with total hysterectomy using the POP-Q system and EQ-5D

背景:超高齢社会の到来で,QOL を損なう骨盤臓器脱に対する手術療法は増加し,当院でも腹腔鏡・ロボット仙骨腟メッシュ固定術(LSC・RSC)を行っている.子宮の取り扱いは施設によって異なり,子宮温存,子宮亜全摘,子宮全摘術のいずれかを併用する.子宮全摘を併用した場合,メッシュびらんの頻度が増加するという報告があり,メッシュびらんを予防する目的で子宮頚部を残す腟上部切断術が主流である.しかし,悪性病変の発生リスクを低減するために,当院では子宮全摘を伴うLSC・RSC を施行している.これまで子宮全摘を伴うLSC・RSC に限定してPOP-Q スコアやQOL を評価した報告はない.今回,子宮全摘を伴うLSC・RSC での術前術後の骨盤臓器脱の構造的な評価方法であるPOP-Q システムによるスコアリングとQOL の評価方法であるEQ-5D を用いて,当院で行っているLSC・RSC の有効性,患者満足度を検討した. 方法:2020年4月より1年間,骨盤臓器脱の患者に同意を得て,手術前後でPOP-Q システムの記録とEQ-5D による質問を実施し,POP-Q システムのスコア,stage とEQ-5D の関係や手術前後の評価を行った. 結果:症例は合計22例で,術式はLSC とRSC によるものが各11例であった.全体の手術成績平均は,手術時間148分,出血量30 ml,摘出子宮54 g だった.全体のPOP-Q stage は,術前平均2.45,術後平均0.41で,有意に改善を認めた(p <0.001).全体のEQ-5D のスコアは,術前0.719,術後0.991で有意に改善を認めた(p<0.001).また2022年3月までの観察期間中,再発やメッシュびらんを認めた症例はなかった.子宮全摘を併用したLSC・RSC は,腹腔鏡とロボットのいずれにおいてもQOL を改善した.短期から中期の観察ではあるが再発やメッシュびらんを認めなかった.子宮全摘を併用したLSC・RSC は,仙骨腟メッシュ固定術の一つの選択肢となり得ると考えられた.

2022.11.21

An Accidental Ingestion Of A Hearing Aid Including A Litium-Ion Rechargeable Battery Which Resulted In Spontaneous Excretion

認知機能障害がある高齢者は,異物誤飲を生じるリスクとなりうる.これは認知症の併存によって誤飲の事実を患者本人が認知していないことや異物誤飲による症状が非特異的,もしくは無症候性であることが多いことと関係している.このため認知機能障害のある高齢者において異物誤飲は発見が遅れる可能性がある.リチウムイオン充電式電池を内蔵した補聴器の誤飲がMRI の撮像を契機に発覚し,その後合併症なく自然排泄が得られた症例を経験したので報告する.症例は82歳女性,尿路感染の診断で入院となった.入院時から不穏行動があり,感染症によるせん妄が疑われた.入院2日目に補聴器を紛失したと訴え捜索を行ったが発見できなかった.入院4日目に腰椎圧迫骨折の精査目的で行ったMRI 検査において腹腔内に強いアーチファクトを認め,補聴器の誤飲が疑われた.腹部CT 検査を行い,補聴器であることを確認した.補聴器が充電式であることやトライツ靭帯を超え横行結腸に存在していることから外科的摘出を行わず自然排泄を待つこととした.その後,異物・電池誤飲に伴う腸管症状をきたすことなく経過し,入院5日目に補聴器が自然排泄された.精神疾患患者や高齢患者など,誤飲を生じうる患者が嚥下可能なサイズの装着物を紛失した際には,X線検査を行うことで発見できる可能性がある.異物誤飲に伴う腸閉塞や腸管損傷に加え,補聴器に使用されている電池がボタン型電池であるのか内蔵型の充電式電池であるのかによって,誤飲に伴う合併症の有無を評価し,対応する必要がある.

2022.10.27

Three cases of Asymptomatic Gastric Anisakiasis during health check-ups

本邦での胃アニサキス症の報告例は多く,健康診断(以下:健診)や人間ドック診療において偶然発見される無症候性の胃アニサキス症の報告例も散見される.我々は,当施設の人間ドックで発見された胃アニサキス症3例を経験したので報告する.症例は58歳女性,66歳男性,73歳男性.自覚症状は全例で無症状であった.診断時期は12月から2月の冬季で,全例で検査数日前に鯖,イカ等の魚介類の生ものの摂食歴があった.血液検査所見では,白血球数は全例で正常範囲であり,CRP は2例で軽度の上昇を認めた(0.02 mg/dl,0.41 mg/dl,0.91 mg/dl).好酸球数は2例で前回値より軽度の上昇を認めた(181/μl から322/μl,379/μl から540/μl).胃内視鏡所見については,穿入部の発赤,浮腫,びらんを全例で認め,2例で非萎縮粘膜領域に虫体が穿入していた.背景胃粘膜所見は「胃炎の京都分類」で評価すると1例が萎縮やびまん性発赤等の所見のないH. pylori 未感染胃相当であり,2例は除菌後の症例(木村・竹本分類:C2 type)であった.過去の報告例と同様,当院で診断した3症例は,全例が無症状で発見され,2例で好酸球数の上昇が認められた.健診・人間ドック診療において胃アニサキス症を検査前に強く疑うことは困難であるが,この疾患を念頭に入れ,無症状であっても十分な問診や内視鏡観察を行うことが重要である.

2022.10.26

Relationship between BPSD and regional cortical volume in dementia

認知症の症状,特にBPSD は罹患した本人のみならずその家族や周りの人の生活,QOL にも影響を与える.BPSD は中核症状と環境要因,身体要因,心理要因などの相互作用によって起こることが多く症状の軽重には個人差もあることからその発症予測は難しい.BPSD 発症に関わる神経基盤の理解とその発症リスク予測につながる客観的な指標の確立のための探索的検討として,BPSD の発症と脳の構造的変化との関連を検討する目的で,MRI データにおける大脳皮質の局所容積変化をBPSD 発症の有無で比較し,BPSD 発症に関連する脳領域の検討を行った.川崎医科大学附属病院脳神経内科ものわすれ外来を受診した患者20名(平均74.8歳,男性5名)を対象に年齢,性別,認知機能(MMSE-J,FAB),うつ(GDS-15-J),BPSD の程度(阿倍式BPSD スコア:ABS)を用い,BPSD の有無(ABS:0vs1以上)によって患者を2群に分け患者背景,臨床指標評価を比較した.また同時期に測定したMRI 3DT1画像データを使用し,SPM12ソフトウェアを用いて患者の灰白質,白質,脳脊髄液領域を分離し,解剖学的標準化を行って灰白質容積の群間差を検討した.結果,年齢,性別,MMSE,FAB,GDS は両群間で有意差を認めなかった.灰白質容積の群間差の検討では,BPSD あり群では右中前頭回(BA6),右下前頭回三角部(BA45)の灰白質容積が有意に低下していた.BA6とBA45におけるABS と灰白質容積にはそれぞれ負の相関があった.認知症患者のBPSD 発症が右前頭葉皮質の灰白質容積低下が関連している可能性が示唆された.先行研究によりBA6は他者の意図を推察する心の理論課題に関与し,BA45の灰白質容積の低下は統合失調症患者における妄想や陽性症状との相関が示唆されている.今後BPSD の発症予測や個別治療の可能性につながる重要な知見と考えられ,今後の研究の進展が期待される.

2022.10.26

A case of intra-abdominal abscess that developed 4 years after pancreatic cancer surgery

症例は74歳男性.膵体部癌を指摘され当院消化器外科にて201X 年に膵体尾部切除施行. 術後半年間テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム内服.3ヶ月ごとのcomputed Tomography(CT)と腫瘍マーカーで当院消化器外科にて経過観察していた.術後4年に腹痛で当院消化器外科外来を受診.CT で新たに胃大弯側から横行結腸にかけて内部壊死を疑う造影不良域を伴った腫瘤性病変を認めた.膵癌の大網播種を疑われ,abdominal ultrasonography(AUS)でも同様に腹膜播種が疑われた.消化器内科で化学療法の方針となり病理学エビデンス取得目的でendoscopic ultrasound-guided fine-needle aspiration(EUSFNA)を施行したがEUSFNA では明らかな腫瘍細胞を認めず,壊死様の蛋白様物質とともに多数の細菌を認めた.採血で炎症反応高値であったことから,膵癌の腹膜播種ではなく腹腔内膿瘍を疑い抗生剤で治療を開始.治療後の画像検査では膿瘍の縮小を認めた.今回膵癌術後4年目に発症した腹腔内膿瘍の一例を経験したため若干の文献的考察を加えて報告する.

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