h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

topimage01

1998.03.02

In vivo observation of the brain microvessels by needle-probe CCD intravital microscope *

 従来よりcranial windowを作製し実体顕微鏡により限られた領域の脳軟膜微小血管の観察は可能であった.本研究ではニードルプローブ型CCD生体顕微鏡を使用することにより広い領域での脳軟膜の微小血管の生体内における動態観察をおこなうことにより,脳血流調節において,どのレベルの細動脈が重要な働きを担っているかを明らかにすることを目的とした. 脳微小血管の生体内での観察に,ニードルプローブ型CCD生体顕微鏡を用いたが,脳表面の微小血管観察に直視型システム,大脳皮質内の微小血管観察に側視型システムを用いた. 動物実験に雑種成犬を使用した.全身麻酔下で,左頭蓋骨の除去を行い硬膜を切開した.内頚動脈血流をトランシットタイム型超音波血流計で測定した. 10%C02負荷,アデノシン,ニトログリセリンの頚動脈内投与では頚動脈血流の増加と,それに対応する脳表細動脈径の全般的な増大を認めた.これに対しアンギオテンシンⅡの頚動脈内投与では頚動脈血流の減少と脳表面の細動脈径増大減少の混在を認めた.これらの血管の直径の変化は特に血管径75μm未満のものに大きい傾向を認めた.一部の例で,側視型ニードルプローブを大脳皮質内に刺入する事により,大脳皮質内の微小血管を観察することが可能であった. 以上,血流の調節は主として血管径75μm未満の比較的細い細動脈で行われ,血流の増加は細動脈の全般的な拡張で,血流の減少はそれの部分的な収縮で行われる.                               (平成10年9月8日受理)

1998.03.01

Serum anti-ganglioside antibody in inflammatory demyelinating neuropathies *

 Guillain-Barre症候群(GBS), Fisher症候群(FS),慢性炎症性脱髄性多発根神経炎(chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy ; CIDP)における血清抗ガングリオシド抗体をenzymelinked immunosorbent assay (ELISA)法にて測定し,臨床症状,電気生理学的検査所見との対比を行った.四肢運動障害と抗GM1抗体,抗GD 1 a抗体,抗GD1 b抗体が,眼球運動障害と抗GQ 1 b抗体がそれぞれ相関を認めた.電気生理学的検査では, GBS17例中,脱髄型は14例で,軸索型は2例であった.軸索型は2例ともに抗GMI抗体の上昇が認められ,前駆症状に下痢があった.最近,注目されているCampylobacter jejuni (C. jejuni)感染後軸索型GBSの可能性が示唆された. CIDPにおいては抗ガングリオシド抗体と有意な関係は認められなかった. (平成10年9月3日受理)

1998.02.07

Rectus sheath hematoma occured in a case receiving hemodialytic therapy *

 外傷などの明らかな外力を伴わない非外力性腹直筋血腫は稀な疾患であり,他疾患として手術される場合もあり注意が必要である.最近,凝固異常疾患や,抗凝固療法中に発生する本症の報告が散見されるようになった.今回,我々は透析導入後に腹直筋血腫を発症した症例を経験したので本邦報告例を集計して報告する.症例は75歳の女性で,多発性結節性動脈炎による腎機能障害のため,ヘパリン使用による血液透析が行われていた.透析導入から約1週間後に右下腹部痛が出現し,腹部エコー,CTにて腹直筋血腫と診断した.ヘパリン使用による透析を中止し,手術すること無く保存的に治療し得た.本邦では1928年の茂木の報告を最初に,84例の報告があるが,その内,透析中の発症は3例に過ぎなかった.しかしながら,今後,透析療法施行患者が増えるにつれ本疾患も増加してくる事が予測されるため,十分考慮に入れるべき疾患と思われる.     (平成10年8月17日受理)

1998.02.06

A case of mitochondrial myopathy with peripheral neuropathy *

 患者は41歳男性.8歳頃より四肢,特に下肢の筋力低下を自覚し,28歳時に一過性の眼瞼下垂と外眼筋麻痺が出現,その後消長を繰り返す両上下肢の筋力低下と構音障害,嚥下障害が出現した.28歳時におこなった大腿四頭筋筋生検では,軽度の筋原性変化とragged-red fiber, 電顕で腫大した異常ミトコンドリアがみられたためミトコンドリアミオパチーと診断した.30歳時に行った筋電図所見では神経原性変化がみられ,末梢神経伝導検査では感覚神経伝導速度の潜時の遅延がみられた.末梢神経障害の合併が疑われ,腓腹神経生検を施行.小径,大径有髄線維の脱落と軸索変性を認めた.また異常ミトコンドリアの集積や炎症はみられなかった. 以後症状は消長を繰り返していたが, 31歳頃より緩徐進行性となった.41歳時,筋力低下が進行したため再度筋生検を実施したところ,筋原性変化の悪化がみられた. 本例の末梢神経障害の原因としては,ミトコンドリア異常に伴う代謝性因子の関与が示唆された.                           (平成10年8月12日受理)

1998.02.05

Two cases of vestibular neuronitis in childhood *

 前庭神経炎は「蝸牛症状を伴わない,急激な前庭機能のみ(一側または両側)の障害」と定義されている. 1952年Dix&Hallpikeがvestibular neuronitisの100例の臨床症例を報告してから疾患としての概念が確立され,我が国では日本平衡神経科学会より出された診断基準(1987年)が広く用いられている.疫学的には30~50歳代に多く,若年には少ないとされており,小児の前庭神経炎についてはこれまで若干例の報告しかない.今回我々は,前庭神経炎の2幼児例を経験した.1例で先行する感冒症状を認め,2例に健側向き水平回旋混合性眼振と患側の温度眼振検査の高度反応低下を認めた.2例とも早期に動揺感の消失と頭位および頭位変換眼振の消失を認め,成人に比べ自覚症状や他覚所見の早期の回復を認めた.                          (平成10年8月8日受理)

1998.02.04

A case of cerebral fat embolism manifested by motor aphasia *

 症例は17歳女性.平成7年2月27日交通事故で頭部を含む全身を打撲し,当科救急受診.意識は清明で,左前額部に挫創を認めるも神経学的には異常を認めず,頭蓋単純写,頭部CTでも異常を認めなかった.右大腿骨骨幹部に非開放性の骨折を認めたため,同日鋼線牽引を施行した.受傷48時間後に,眼瞼結膜と前胸部の点状出血,および運動性失語症が出現.胸部X線では明らかな異常を認めなかったが動脈血酸素分圧の低下を認めた.脳脂肪塞栓症と診断し,低分子デキストランを用いた血漿増量療法を施行した.翌日の脳波では瀰漫性に徐波を,脳血流SPECTでは左前頭葉白質で低灌流を認めた.第8病日に運動性失語症は消失.同日の頭部MRIでは,左前頭葉白質と両側半卵円中心にT1WIでlow, T2WIでhigh intensity を示す点状の異常陰影を多数認めた.1ヶ月後,失語症を含め神経学的にはなんら異常を認めなかったが,頭部MRIでは点状の異常陰影は一部が残存していた.一般に脂肪塞栓症は長管骨骨折の重篤な合併症で,呼吸不全,中枢神経症状,点状出血を主徴とするが,診断し得ないことも稀ではない.また,頭部外傷が合併し,意識障害や神経脱落症状が存在すると,長管骨骨折の根治的な観血的整復術は待機的に行われるため,その間に脳脂肪塞栓が起こる可能性が高くなる.本例の一過性の運動性失語症は,頭部MRI,脳波,脳血流 SPECTの所見より,左前頭葉の運動性言語領野周辺の白質の脂肪塞栓による虚血症状と考えられ,迅速でかつ適切な治療により軽快消失したものと思われた.長管骨骨折の患者に神経学的脱落症状が突然出現した場合,脳脂肪塞栓症をまず疑うことが重要で,診断し得た場合には迅速かつ適切な治療の開始が必要であると思われた.                                (平成10年8月8日受理)

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