h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

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2008.02.03

Results of endoscopic submucosal dissection performed in our hospital *

 近年,胃上皮性腫瘍に対する内視鏡的粘膜切除術(EMR:Endoscopic mucosal resection)の新しい手技として切開・剥離法(ESD:Endoscopic submucosal dissection)が開発され,当院においても2002年11月よりIT knife(Insulation-tipped diathermic knife)を用いたESDを行ってきた.今回,ESDでの治療成績を導入前に行っていたEMRと,一括断端陰性切除率および偶発症の頻度について比較検討した.その結果,ESDでは一括・断端陰性率は90%で,腫瘍径に関らずEMR(46%)と比較して有意に良好な結果が得られた.一方,偶発症の頻度はESDで高く(出血4.4%,穿孔3.4%),十分な対策が必要であった.(平成20年2月7日受理)

2008.02.01

Impact of combination partial splenic embolization and endoscopic variceal ligation therapy in cirrhosis patients with esophageal varices and thrombocytopenia *

目的:脾機能亢進症とくに血小板数低下を伴った食道静脈瘤は治療に難渋することがある.今回,我々は血小板数低下を伴った食道静脈瘤に対して部分的脾動脈塞栓術(PSE)併用内視鏡的食道静脈瘤結紮術(EVL)を行い,EVL単独施行例と比較した.
対象と方法:血小板数5万以下の食道静脈瘤患者に対しPSE併用EVLを48例に,EVL単独治療は42例に施行しレトロスペクティブに比較した.両治療群の背景には有意差は認めなかった.静脈瘤出血の予防治療の場合には,まずPSEを施行し約2週間後にEVLを行った.静脈瘤破裂の場合には,EVLで止血処置を行い,約2週間後にPSEを施行した.PSEによる脾塞栓術は平均68%であった.EVLは静脈瘤形態がF1以下かつ発赤所見がRed color(RC)sign(-)となるまで,繰り返し施行した.治療後に静脈瘤がF2に増大またはRC signの出現を静脈瘤の再発とした.両治療施行後の静脈瘤の累積再発率,出血率,生存率をKaplan-Meier法とCox比例ハザードモデルによる多変量解析にて検討した.
結果:1)治療後に静脈瘤の再発は高頻度にみられたが,PSE併用EVL後の再発率はEVL単独治療と比較し有意(p=0.036)に低率であった.2)静脈瘤の出血率についてもPSE併用EVL例では有意(p=0.021)に低値であった.3)累積生存率はPSE併用EVL例は有意(p=0.041)に高率であった.4)多変量解析の結果,PSE併用EVL例の静脈瘤再発のハザード比は0.42,静脈瘤出血のハザード比は0.18,死亡のハザード比は0.29で,EVL単独例と比較し有意な予後改善を示した.
結論:血小板数低下を伴った食道静脈瘤患者に対するPSE併用EVLは,静脈瘤再発や出血の予防ができ,予後の改善も期待できるため有用な治療法と思われた.
(平成19年12月19日受理)

2008.01.07

High-functioning pervasive developmental disorders presenting in school non-attendees in adolescence – Comparison with adjustment disorders and clinical consideration of HFPDD – *

 目的:思春期の不登校においては,その背景にある高機能広汎性発達障害に気づかれず,適応障害と診断されることがある.しかし,高機能広汎性発達障害と適応障害とでは,不登校を呈していてもその対応が異なる.そこで本研究では,両者の差異,及び高機能広汎性発達障害への対応について検討した.
 対象・方法:2005年6月から2007年5月までに,川崎医科大学附属病院心療科外来を,不登校を主訴に受診した中学生・高校生116名(男性46名,女性70名).その内,米国精神医学会による「精神疾患の分類と診断の手引 第4版」(DSM-Ⅳ-TR)によって,広汎性発達障害と診断され,精神遅滞がないことを確認された高機能広汎性発達障害群27名(男性14名,女性13名),適応障害群26名(男性9名,女性17名)に対して,児童には自閉症スペクトラム指数日本版(以下AQ-J)を,親には高機能自閉症スペクトラム・スクリーニング質問用紙(以下ASSQ-R)を施行した.
 結果:①AQ-JとASSQ-Rは共に高機能広汎性発達障害群の得点が有意に高く,適応障害群との鑑別に有用であった.②高機能広汎性発達障害のAQ-J陽性群とAQ-J陰性群では,下位項目の「注意の切り替え」「細部への注意」において有意差が認められず,共に高値であった.また,高機能広汎性発達障害のAQ-J陰性群は,「注意の切り替え」「細部への注意」において,適応障害群に比して有意に高値であった.③治療を継続した高機能広汎性発達障害群の17名のうち,15名が再び登校できるようになった.再登校の契機は,5名は目標を定めたことで,4名は転校したことであった.
 考察:①不登校を呈した高機能広汎性発達障害と適応障害の鑑別検査として,他者評定式のASSQ-Rだけでなく,自己評定式のAQ-Jを組み合わせて使用することが有用である.②広汎性発達障害は社会性やコミュニケーションの障害が基本であるが,本研究においては,AQ-Jの総得点が低得点でも,「注意の切り替え」「細部への注意」の得点が高い場合は,広汎性発達障害の可能性があることが示唆された.③不登校を呈した高機能広汎性発達障害の場合は,「注意の切り替え」「細部への注意」の障害が,不登校という症状を引き起こしている可能性が考えられ,対応としては,どのような体験や出来事にこだわりが生じているのかを正確に把握し,環境の調整や視点を変えることが有効と考える.
(平成19年10月22日受理)

2008.01.06

Effects of intermittent inhalation of nitric oxide on plasma nitric oxide concentration in the systemic circulation *

【背景】一酸化窒素吸入療法(inhalation of nitric oxide:INO)は,肺高血圧症やacute respiratory distress syndrome(ARDS)などの治療法として用いられ,肺血管を選択的に拡張して肺動脈圧を低下させ,動脈血酸素化を改善することが報告されている.NOの吸入方法としては,副作用を軽減し,換気血流ミスマッチを防ぐ観点から間欠的INOが注目される.これまで,吸入されたNOの動態については,肺血管内で極めて短時間に酸化・失活されると考えられてきたが,最近,吸入されたNOが肺循環を経て,体循環の NO動態に影響を与える可能性が示されている.したがって,繰り返しNOを吸入させることで体循環のNO動態が影響を受ける可能性が考えられる.そこで,本研究では,間欠的にNOを吸入させた時の体循環血中NO動態をin vivo計測用NOセンサを用いて検討した.
【方法】全身麻酔したブタ(n=7)を対象に,右頚動脈及び左大腿動脈から挿入した5Frのシースを介してNOセンサ(amiNO-700,Innovative Instruments,Inc.,USA)を挿入し,センサ先端の感知部を弓部大動脈と左腸骨動脈内に留置した.人工呼吸器に連結したNO吸入装置を介してNO(1ppm)を吸入させた.一回のNO吸入時間は15分間とし,15分間のNO吸入休止期間をおいて,同様のNO吸入を計4回行った.
【結果】NO吸入を繰り返した結果,弓部大動脈,左腸骨動脈における血中NO濃度は1回目(弓部大動脈:0.9±0.8nM,左腸骨動脈:0.1±0.9nM),2回目(弓部大動脈:1.4±1.0nM,左腸骨動脈:1.1±1.0nM),3回目(弓部大動脈:1.1±1.0nM,左腸骨動脈:0.5±1.0nM),4回目(弓部大動脈:1.5±1.1nM,左腸骨動脈:0.7±0.8nM)と,いずれの部位でも再現性をもって上昇した.NO吸入による血中NO濃度変化は,弓部大動脈と左腸骨動脈の間,吸入回の間で有意差がなかった.NO吸入は脈拍数,動脈圧に有意な影響を与えなかった.
【結論】間欠的NO吸入における体循環のNO濃度変化をNOセンサを用いて,安定して評価することができた.NOを繰り返し吸入させた場合,吸入の度に弓部大動脈だけでなく,より末梢の左腸骨動脈レベルにおいても血中NO濃度が上昇することが示された.その際,NO吸入の繰り返しによる動脈血NO濃度上昇の減弱は認められず,間欠的 INOにおいて,吸入されたNOが再現性をもって,肺循環を経て体循環のNO動態に影響を及ぼすことが明らかになった.(平成19年10月22日受理)

2008.01.05

Expression and regulation od PC-cell derived growth factor in a rat model of progressive renal disease *

 Progranulin(PC-cell-derived growth factor:PCDGF)は,悪性奇形腫PC細胞から分離された分泌型の成長因子であり,正常組織においては性腺,乳腺,肺,消化器,脳などの上皮細胞に発現が認められている.PCDGFは乳癌,卵巣癌などの腫瘍で強い発現が認められ,腫瘍新生に関与していることが知られている.また,一部では皮膚の創傷治癒や血管新生に関与しているとの報告もある.しかし疾患腎では,その発現および調節機構は未だ解明されていない.進行性腎疾患の原因は多彩であるが,最終的に不可逆性の腎不全に至る.我々は代表的な進行性腎障害モデルである5/6腎摘ラットを用い,PCDGFと疾患腎の関連を解析した.
 PCDGF mRNA及び蛋白発現は,腎機能低下に伴い増加した.免疫染色では,sham-ope群では腎髄質にPCDGFの強い発現を認めたが,皮質では極わずかな発現しか認めなかった.しかし5/6腎摘モデルの8週の腎組織では,PCDGFは皮質の萎縮尿細管上皮細胞に強い発現を認め,in situ hybridizationでも同様の結果が得られた.さらに,16週の腎組織ではPCDGFの発現はより広範囲に認められた.慢性の腎低酸素が進行性腎疾患の一因であることから,我々は低酸素がPCDGFの発現を誘導するのかについて検討した.ヒト腎尿細管上皮細胞において,24時間の低酸素ストレス(5%,1%O2)は,PCDGFのmRNAと蛋白発現を上昇させた.
 ラット5/6腎摘モデルでは,慢性腎低酸素症がPCDGFの発現を誘導している可能性が示唆された.腎障害の病期進行に伴いPCDGFの発現が増強していることから,PCDGFは進行性腎疾患の病態形成に関与しているのかもしれない.
(平成19年10月17日受理)

2008.01.04

Clinical significance of sentinel lymph node detection in early gastric carcinoma using fluorescent beads and dye for the less invasive surgery *

 はじめに:胃癌でセンチネルリンパ節(SN)同定が可能であれば,縮小手術の可能性が広がってくる.SN同定のトレーサーは色素やRIが一般的に使用されている.しかし,RIは特殊施設を要するという欠点がある.また,色素はがん細胞に比して粒子径が微小で,がん細胞の流れを反映しているかという疑問が残る.われわれは,色素法(Indocyanine Green:ICG)に加え,新たなトレーサーである蛍光ビーズを使用し,SN同定の有用性について検討した.さらに,微小転移が根治性におよぼす影響について検討するために,過去の胃癌切除症例を用いてリンパ節微小転移と予後との関与について検討し,胃癌手術におけるセンチネルリンパ節同定を利用した縮小手術法を提起する.
 対象と方法:2003年6月以降当科で胃癌と診断され,蛍光ビーズおよびICGを使用したSN同定に同意の得られた92例を対象とした.蛍光ビーズ・ICG併用法は31例,ICG単独法(前期)は29例,ICG単独法(後期)は32例であった.蛍光ビーズは,術前日内視鏡下に病変粘膜下に注入した.ICGは術中漿膜側から注入し,5~15分で緑色に染まったリンパ節および紫外線照射で蛍光発光したリンパ節をSNとした.ICG単独法において前期ではICG25mgを蒸留水5mlに,後期では3mlに溶解した.SN摘出後は標準郭清を行った.また,SN同定を行った症例の摘出リンパ節1,808個について転移の有無を検索すると同時に抗サイトケラチン(CK)抗体(AE1/AE3)を用いて微小転移を検索した.さらに過去の胃癌症例のうちpT1pN1,pT2pN1症例43例の摘出リンパ節1,475個およびpT2pN0症例46例の摘出リンパ節1,591個に対し抗CK抗体を用いた免疫組織染色による微小転移の検索を行い,予後との相関を検討した.
 結果:早期癌に限るとSN同定率は蛍光ビーズ・ICG併用法で92%(23/25),ICG単独法(初期)で76.1%(16/21),ICG単独法(後期)で,96.1%(25/26)であった.SNの正診率は,蛍光ビーズ・ICG併用法で95.4%,ICG単独法(初期)で93.7%,ICG単独法(後期)では96%であった.後期症例で,リンパ節転移を認めた2例中1例はSNに転移を認め,1例はSNおよびSN station内に転移を認めた.SN stationに範囲を広げると正診率は100%となった.ICG単独法(後期)で微小転移は2例(12%)に認めたが,SN station外に微小転移を認めたのは1例(single cell)のみであった.さらに過去の胃癌症例で微小転移の有無と予後の間には有意差は認められず,微小転移が予後に与える影響は小さいと思われた.
 考察:蛍光ビーズはICGと併用する事でSN同定率を上げることが可能であったが,脂肪の自己蛍光が妨げとなり臨床応用は難しいと考えられた.ICGを用いた早期胃癌におけるSN同定率および正診率は高率であるが臨床的には,SN stationに広げた郭清を行ったうえでの縮小手術が妥当と思われた. (平成19年10月15日受理)

2008.01.03

Antitumor effect and it’s mechanism of tranilast in gastric cancer cell lines *

 Tranilastは抗アレルギ-剤として使用されているが,いくつかの腫瘍細胞で増殖を抑制する効果が報告されている.この研究では胃癌細胞株に対するtranilastの抗腫瘍効果について検討した.5種類の胃癌細胞株にtranilastを72時間作用させ,腫瘍細胞の増殖抑制効果をPremix WST-1 cell proliferation assayを用いて評価した.用いたすべての胃癌細胞株においてtranilastは濃度依存性に抗腫瘍効果を示し,IC50は80~240μMであった.次に,胃癌細胞株に抗癌剤(CDDP,5-FU,TXL)およびtranilastとの併用による増殖抑制効果の増強について検討し,抗癌剤単独投与と比較して抗癌剤とtranilastとの併用では腫瘍増殖抑制の増強を認めた.Tranilastによる胃癌細胞株の細胞周期に与える影響およびアポト-シスの誘導作用についてはFACS解析を用い,tranilast単独投与によりG0G1期細胞の増加を認め,TUNEL法ではアポト-シス細胞が観察された.CDDPとtranilastの併用では,CDDP単独投与と比較してsubG1期細胞の増加,アポト-シス細胞の増加がみられた.アポトーシス細胞の免疫染色では核の膨張,断片化が確認された.Western blotでは,p53,p21の発現増強がみられ,p21を介したG1停止による細胞増殖抑制がtranilastの主な作用と考えられた.Tranilastはヒト胃癌細胞株に対し単独でも抗腫瘍効果を認め,他の抗癌剤との併用による抗腫瘍効果の増強も認められ,tranilastは新たな抗腫瘍薬となることが示唆される.(平成19年10月15日受理)

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