h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

topimage01

1989.02.02

Therapeutic Effect of Transcatheter Arterial Embolization (TAE) ―Pathological Aspects of Resected Specimens― *

肝細胞癌の治療法として肝動脈塞栓術(TAE)が普及して以来10年を過ぎた.われわれも過去7年間に200例近くのTAEを経験し諸種の観点から検討し報告してきた.本論文ではTAE施行後の肝癌組織について検索し, TAEの効果と限界について考察を加えた.TAEの塞栓効果は肝癌の形態とくに被包型か否かによるといわれているが,腫瘍血管内のゼラチンスポンジの塞栓状態にも関連する可能性のあることを示した.リピオドール単独のみ動注した場合の壊死効果とTAEにリピオドールを併用した場合のそれを対比し,リピオドール単独では壊死効果を認めないことも,病理組織学的検討から明らかにした.一般にリピオドールと抗癌剤の懸濁液の動注はゼラチンスポンジ併用の有無にかかわらず有効であるとされているが,抗癌剤がリピオドールからどのように遊出して肝癌の壊死をもたらすかの詳細は必ずしも明らかでなく,これらの動態について病理組織学的裏付けが検討されるべきであろうと考えられる.(平成元年3月30日採用)

1989.02.01

Liver Disease and Endotoxin *

エンドトキシン(Et)と肝疾患の研究は三つの発見によって進歩してきた.まず第一に,1892年にPfeifferがコレラ菌から耐熱性毒素を見いだし,Etと名付け研究が開始された.最近になってEtの分子構造が解明され,多彩な生物活性を治療に応用する試みがなされている.第二には1970年にLevinらによりカブトガニ血球抽出物を用いたリムルステストが創案され,Etの検出法として広く用いられることとなった.第三には1972年Caridisらは重症肝疾患例に敗血症を伴わないEt血症を認め,内因性Etと肝疾患との関係が注目されるようになった.肝疾患での内因性Et血症の成因として, RES機能低下,肝実質細胞のEt処理能の低下,肝側副血行路の発達,腹膜からのEt吸収の亢進,腸内細菌叢の変化,腸粘膜からのEt吸収の亢進,Et不活化因子(EIF)の低下等が想定されている.一方,肝障害の成因として,Etによる直接の肝障害のほかに, Shwartzman反応の関与,Et血症に伴う肝循環障害や補体,プロスタグランディンの関与,さらにEtにより刺激されたKupffer細胞による肝障害等が示唆されている.このように,内因性Etが肝障害の促進因子か,または肝障害の結果として内因性Et血症がみられるのかは,いまだ明らかではない.最近,合成発色基質を用いた定量的リムルステストが開発され,Etの研究の新しい展開を迎えた.肝障害が進展するに伴って,血中Etの上昇と細網内皮系(RES)機能低下が認められ,また肝細胞癌に対する肝動脈塞栓術後にも同様の変動がみられている.今後は,Etの有用な生物活性を生かした合成化合物の研究,内因性Etの本態および肝疾患との因果関係について多角的な検討が望まれる.(昭和64年1月4日採用)

1989.01.26

A Case of Retroperitoneal Malignant Fibrous Histiocytoma *

後腹膜に発生した悪性線維性組織球腫の1例を報告した.症例は82歳の女性,全身倦怠感を主訴に来院し,右下腹部に腫瘤を触知した.検査では鉄欠乏性貧血と,腫瘍マーカーのうちCA 125が50U/mlと高値を示した.腹部超音波,腹部CT,腎尿路造影,消化管造影にて右下腹部,右腎下極に接した後腹謨腫瘤と診断し摘出術を行った.17×12×10 cm (1012g)と6×5×4 cm (46 g)の2個の後腹謨腫瘤は腫瘍被膜は持たないが,限局性の腫瘍であり完全摘出した.割面では壊死,出血を伴う黄色灰白色充実性腫瘍であった.病理学的には悪性線維性組織球腫(storiform pleomorphic type)であった.術後4ヵ月に局所再発を生じ,術後10ヵ月で死亡した.術後CA 125は低値となり,再発時にも上昇しなかった.病理解剖は行っていない.(昭和63年12月24日採用

1989.01.25

A Case of Duodenal Brunnerioma Detected by Mass Survey and Removed by Endoscopic Polypectomy *

症例は,68歳女性で,5年前の胃集団検診で十二指腸に隆起性病変を指摘されるも放置していた.近医で十二指腸病変を指摘され,当科へ紹介され入院した.十二指腸造影では,十二指腸球部に根部をもつ有茎性の隆起性病変を認めた.内視境検査で,十二指腸に有茎性ポリープを認めた.頭部に近い茎部に3か所にわたり0.2 mlずつエタノールを注入してからポリペクトミーを施行した.摘出したポリープは, 1.5×4cm大であった.組織所見では,Brunner腺腫と診断された.本邦においては,内視境的ポリペクトミーにて摘出されたBrunner腺腫の報告例は自験例を含め41例の報告があるに過ぎない.内視境的ポリペクトミーされたBrunner腺腫の17%の症例が胃集団検診で発見されていることになり,胃集団検診の読影に際しては十二指腸球部の読影もおろそかにできないことを強調したい.(昭和63年11月11日採用)

1989.01.24

A Case of Leiomyoma in the Rectum Removed by Endoscopic Polypectomy *

内視境的ポリペクトミーにて摘出した直腸平滑筋腫の1例を経験した.症例は62歳男性で腹部膨満感と鈍痛あり, 1987年10月22日に当院へ入院した.注腸造影では,直腸に隆起性病変を指摘された.大腸内視境検査では,肛門縁より7cmの部に亜有茎性の隆起性病変を認め,その表面は正常粘膜で覆われていた.ポリペクトミーを施行し病変を摘出した.摘出標本の大きさは7×7×7mm大であった.割面では,中央部に5mm大の白色の腫瘤が認められ,病変は正常粘膜で覆われていた.組織学的所見では,平滑筋腫と診断された.本邦において,内視境的ポリペクトミーにて摘出された大腸平滑筋腫の報告は14例にすぎない.(昭和63年11月11日採用)

1989.01.23

A Case of Pigeon Breeder’s Disease with Progressive Lung Fibrosis *

長期経過をたどり肺線維症へ進展した鳩飼病の1例について報告した.症例は過去に15年間の鳩飼育歴をもつ60歳の男性で,呼吸困難を主訴に入院した.胸部レ線では,両下肺野にびまん性に網状,多発する小輪状影が認められた.副腎皮質ステロイド剤による治療の適応を決めるため,経気管支的肺生検が行われた.病理組織検査では, peribronchial fibrosisの所見が得られた.血清免疫学的検査では,本患者血清中に鳩排泄物抽出抗原に対する沈降抗体が認められた.これらの結果より本症例は慢性型鳩飼病の1例と考えられた.(昭和63年10月31日採用)

1989.01.22

A Case of Inferior Myocardial Infarction Caused by Left Anterior Descending Artery Lesion *

患者は70歳男性.急性心筋梗塞で入院.心電図は, II, III, aVFに限局する純下壁梗塞所見を呈した.冠動脈造影では,左前下行枝は心尖部をまわり後室間溝を上行し,その左前下行枝末梢側に高度狭窄を認めた.左室造影上,同部に一致した限局性心室瘤を認めた.したがって本例の梗塞責任冠動脈は左前下行枝と考えられた.左前下行枝を責任冠動脈とする下壁梗塞はまれで,その場合多くは前壁梗塞を合併する.本例で心電図上純下壁梗塞を呈した機序として,左前下行枝の解剖学的特異性および末梢部閉塞の2点の関与が考えられた.(昭和63年10月29日採用)

1989.01.21

Improvement of Atrial Fibrillation and Congestive Heart Failure with Hypertrophic Cardiomyopathy by Electrical Cardioversion ―A Case Report― *

症例は起坐呼吸の状態で緊急入院した肥大型心筋症の53歳の男性である.入院時胸部X線写真では著明な心拡大と肺うっ血がみられ,心電図は頻脈性心房細動を呈していた.本例は頻脈性心房細動を合併したためにうっ血性心不全に陥ったものと考えられた.薬物投与のみでは心拍数や心不全のコントロールが十分でなかった.そこで電気的除細動を施行したところ洞調律に復帰し,臨床像および血行動態は著明に改善した.本病態における電気的除細動の有用性とその意義について述べた.(昭和63年10月26日採用)

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