h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

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1991.03.08

Electromyographic Study of Swallowing ―Part 2 : The Influence of Posture on the Swallowing of Normal Subjects― *

著者は先の研究において,両側の口輪筋及び胸鎖乳突筋の表面筋電図により,これらの筋が嚥下運動を比較的良く反映していることを報告した. 今回は嚥下障害患者の治療に際し,しばしばその重要性が指摘されている体位について検討するために,先の報告と同-の対象及び同一の手法を用いて,各種体位が嚥下運動に及ぼす影響について検討した.体位は臥位を基準として,体位60°,体位30°に設定し,各体位で口腔内唾液,冷却(0°C)ゼリー5 ml, 室温(24.5°C)ゼリー10 ml を嚥下させた. その結果,次に述べる興味ある結論が得られた.(1)口輪筋の収縮持続時間については,体位60°で,平均1,300±426.61 msec (冷5)から1,569.05±554.63 msec(温10)まで分布した.体位30°では,平均1,188.10±360.18 msec(冷5)から1,347.62±566.89 msec (温10)まで分布した.坐位に比較すると,収縮持続時間の短縮が認められ,体位30゜の冷5・温10嚥下で有意に短縮していた.(2)胸鎖乳突筋の収縮持続時間については,体位60°で,平均1,207.14±273.53 msec(冷5)から1,392.86±457.24 msec(温10)まで分布した.体位30゜では,平均1,133.33±307.54msec(唾液)から1,314.29±450.59 msec (温10)まで分布した.収縮持続時間は坐位に比較すると短縮する傾向を認めたが,体位60°では有意差がなく,体位30゜での冷5嚥下で有意差を認めた.(3)胸鎖乳突筋の収縮開始時間については,体位60゜で,平均92.86±106.40 msec (唾液)から114.29±167.44 msec (温10)まで分布した.体位30°では,平均100.00±182.35msec(温10)から159.52±184.81 msec (冷5)まで分布した.体位60°と体位30°のいずれの場合においても,坐位に比較すると収縮開始時間が短縮していた.(4)体位60°と体位30°とを比較すると,各筋の収縮持続時間及び胸鎖乳突筋の収縮開始時間に有意差を認めなかった.以上の結果より,体位は嚥下における口腔期の時間を短縮させる影響があることが示唆された.さらに咽頭期に密接に関与している胸鎖乳突筋の収縮開始時間を早くする影響が認められた.                         (平成3年10月25日採用)

1991.03.07

Studies on the Treatment of Hepatic Carcinomas by Intraportal Infusion of an Anticancer Drug ―Time Course of Drug Levels in Liver and Tumor― *

肝細胞を制癌剤による障害から保護する目的で, fructose溶液を経門脈的に注入し,肝におけるfructoseの急激な代謝で,肝エネルギーレベルを一過性に低下させることにより,制癌剤の代謝過程で生じる有害な中間代謝産物やフリーラジカルが減少するため,薬剤に’よる肝細胞障害を抑制しうる方法を考案して先に報告した.今回,経門脈的制癌剤投与直前に40% fructose溶液を5分間注入し,末梢静脈内,肝組織内,腫瘍組織内薬剤濃度の経時的変化を測定した. 1.末梢静脈血の経時的濃度変化は,制癌剤投与終了後3分で, 3.8μg/mlまで上昇し,その後は次第に低下した.投与終了後10分では,末梢静脈内に投与した場合と同程度の濃度となった. 2.肝組織内の経時的濃度変化は,3分で最高値を示し,門脈内制癌剤単独投与に比べ投与終了後15分値,30分値で有意に低下した. 3.腫瘍組織内の経時的濃度変化は, fructose溶液の前注入の有無にかかわらず,末梢静脈内投与に比べ有意に高値を示した. 4.腫瘍組織内濃度と肝組織内濃度の比は, 40% fructoseの前注入を行うと,わずかではあるが上昇させる傾向にあった.             (平成3年10月19日採用)

1991.03.06

An Experimental Epidermal Cyst : A Study by Light and Electron Microscopy, and the Image Analysis Method *

外傷性表皮嚢腫の研究は,以前より行われているが,単離状の個々の表皮細胞が皮下組織に迷入した状態を設定した研究は行われていない.今回,ラットの背部皮膚真皮内に遊離表皮細胞の自家移植を行い,個々の表皮細胞の動態および運命を画像解析システムにて検討し,さらに,移植表皮細胞の増殖と分化を電子顕微鏡的に観察した.(実験方法)実験動物は, F344系雄ラット(生後5週,体重100 g)を使用した.ラットの両側耳介を切離し,軟骨除去後トリプシン処理して, DNase-I溶液下に表皮細胞浮遊液を作製した.そしてウシ胎児血清添加MEM培地を加えて濾過した後, PBS溶液で洗浄して表皮細胞懸濁液を作製し,それをラットの背部皮膚真皮内に注射し,経時的に生検を施行した.生検した材料は二分割し,一方をH-E染色切片としてハイグレード画像解析装置による画像解析を行い,他方は超薄切片を作製して電顕的に観察した.(光学顕微鏡および電子顕微鏡的所見)注入後6時間では,遊離表皮細胞が真皮下層から筋層にかけて散在していた.12時間目には隣接する表皮細胞間にデスモゾームの形成が認められた.1日目には表皮細胞の増殖によりネストを形成した.2日目には表皮様構築が更に進展し,最下層の基底細胞様表皮細胞には,基底板の形成が認められた.3日目には表皮様構築の中心部に角質細胞層の形成が見られた.5日目には最下層の表皮細胞に完全な基底板が形成され, anchoring fibrilが観察された.7日目には,典型的な表皮嚢腫構造を呈した.基底細胞層の表皮細胞は扁平化が進み,基底板の不整が目立つようになった.嚢腫の周囲では多数の線維芽細胞による被包化が強まった.14日目には表皮細胞はすべて角質化し,角化嚢腫の周囲に異物巨細胞や組織球が出現した.そして21日目には角化嚢腫は消失し,もはや真皮内には観察されなかった.(光学顕微鏡的レベルでの画像解析)画像解析にて表皮嚢腫の表皮細胞と耳介正常皮膚の表皮細胞との比較を行った.そして,以下の結果を得た.(1)表皮嚢腫の表皮細胞は正常皮膚の表皮細胞に比べ,個々の核の平均面積は有意に小さい値を示した.(2)嚢腫壁の表皮細胞は,正常表皮細胞よりも有意に扁平化の傾向を示した.この実験的嚢腫の消失は,表皮様構築が完成して嚢腫を形成した後に,何らかの理由によって増殖能をもった表皮細胞がその分裂機能を停止し,表皮細胞の供給が途絶えてしまうことによると考えられた.               (平成3年9月21日採用)

1991.03.05

Ultrasonographic Mass Survey of the Abdominal Organs’ *

腹部超音波検査は無侵襲で手軽な検査法であり,多臓器の疾病の発見に有用であることから,近年集団検診にも導入されるようになった. 1987年から1989年までの3年間に岡山県鴨方町と灘崎町で,老人保健法に基づく集団検診を受診した8,454人(男性2,619人,女性5,835人)に腹部超音波検査を行い,その成績を集積し,成人病集団検診における腹部超音波検査法の意義について検討を行った. 対象臓器は肝・胆・膵・脾・腎・大動脈としたが,可能な限り腹部全体を走査した.使用装置は,横河RT2600, RT2800, RT3000,アロカSSD650で3.5MHzリニア型・コンベックス型探触子を用い,検査終了後にVTRを倍速再生して,複数の医師によりダブルチェックを行った.走査は竹原式に準じた標準走査法を作成して行った. 有所見率は38.4%であった.疾患別有所見率は脂肪肝12.1%,腎嚢胞11.0%,胆石5.8%,肝嚢胞5.7%,胆嚢ポリープ4.0%の順であった.癌を19例(0.22%)発見した.すなわち,原発性肝癌5例(0.06%),胆嚢癌1例(0.01%),膵癌1例(0.01%),腎癌7例(0.08%)のほか,胃癌2例(0.02%),膀胱癌2例(0.02%),卵巣癌1例(0.01%)で,13例(68.3%)が根治切除された. 腹部超音波集団検診における癌発見率0.22%及び切除率(肝癌を除く) 92.9%は,胃集団検診の胃癌発見率0.19%・切除率93.8%に匹敵する結果であった.腹部超音波集団検診は,癌の早期発見及び潜在性疾患の検出に有用であり,積極的に一次検診から導入すべきであると考えられる.対象臓器は肝に限定せず胆・膵・腎・脾・腹部大動脈を加えることで有用性が増した.腹部超音波集団検診と胃集団検診を併用することで集団検診の受診率増加が認められた.これらの結果から,成人病集団検診における腹部超音波検査法の重要性は,さらに増加することが示唆された.          (平成3年10月25日採用)

1991.03.04

Macro-Pathological and Histological Changes in Gastric Cancer *

近年の胃集団検診において,発見される胃癌の形態は,すでにある診断学では,分類に困難な症例が増加している印象を受ける.このことは,今後の胃癌の診断学において重要なエピソードである.この原因を明らかにするため,岡山県における発見胃癌(昭和46年から63年までの18年間, 4,455例)を3期にわけ,年齢・性・肉眼分類・組織分類について検討した.全胃癌数は4,455例(前期821,中期1,562,後期2,072),早期胃癌は2,079例(前期336,中期646,後期1,097),進行胃癌は2,376例(前期485,中期916,後期975),分化型胃癌は2,561例(前期539,中期837,後期1,185),未分化型胃癌は1,675例(前期215,中期614,後期846)であった.その結果,肉眼分類ではBorrmann 2型と4型の増加が認められた.組織学的分類では,若年者において未分化型胃癌が増加している事実が明らかとなった.今後の胃癌早期診断において,この肉眼的・組織学的変化は重要な事実であると思われた.                            (平成3年10月25日採用)

1991.03.03

Correlation of Localization of Breakpoints in BCR Gene and Clinical Course in Patients with Chronic Myelogenous Leukemia *

慢性骨髄性白血病(CML)では,特有の染色体転座に伴って,9番染色体上の癌遺伝子ABLと22番染色体のBCRの再構成が生じ,近年,この検索は,診断上不可欠になってきている.最近では, BCR遺伝子内の切断部位により,慢性期(CP)の期間が異なっているとの報告もみられ,このBCR再構成は予後を検討するうえでも,重要な情報である可能性が示唆されつつある.今回,当科で経験した6例のCMLにおいて, BCR再構成の検査結果より切断点の存在する部位を推定し,それぞれの臨床経過と照らし合わせたところ, BCRの中でもより5’側に切断点を有する症例が,現在までのところCPのままであることが判明した.今回は,少数例の検索であるため,明確な結論には至らないが,今後症例を積み重ねて,予後判定としてのBCR再構成の検討を加えていきたい. (平成3年10月19日採用)

1991.03.02

Morphological Studies of Salmonella enteritidis Uptake by Microfold Cells (M Cells) of the Peyer’s Patch *

パイエル板リンパ濾胞上皮上に存在するM細胞は,腸管腔内の抗原性物質を選択的に取り込み,内包したリンパ球及びマクロファージに伝達するという抗原提示細胞としての機能があり,現在までに種々の細菌のM細胞からの取り込みが確認されている.一方, Salmonella enteritidisはヒト食中毒の起因菌として一般的な腸内細菌であるが,その侵入様式は明らかにされていない.そこで,著者は,家兎においてパイエル板を含めた回腸結紮ループ内にSalmonella enteritidis GIFU 3161 (ATCC 13076)を投与して蛍光抗体間接法並びに電子顕微鏡的観察を行った.また, 0.5%ホルマリン処理死菌の投与も行った.その結果,生菌は投与後90分で既にM細胞に付着,取り込まれ,180分後では内包したリンパ球やマクロファージに受け渡されている像が確認された.一方,絨毛上皮並びに濾胞上皮上の吸収上皮細胞からは取り込まれなかった.死菌投与においては,6時間後でもいかなる細胞からも取り込みを認めなかった.また,死菌による感作実験として経口投与と経静脈投与の方法で行ったが,経静脈投与では640倍の凝集価の上昇を認めたのに対し,経口投与では8倍であった.経静脈感作した家兎における生菌の回腸結紮ループ内投与実験では,未感作家兎に比べてM細胞への付着の低下を認めた.                              (平成3年9月13日採用)

1991.03.01

Effect of Loading Reduction on Cardiac Hemodynamics in Experimental Mitral Regurgitation *

僧帽弁閉鎖不全(MR)に対する減負荷時の心血行動態の変化とその機序を解明する目的で,実験的MR犬13頭を対象に前・後負荷を制御することにより心血行動態を検討した.(1)下大静脈狭窄による前負荷軽減にて全心拍出量は減少し,前方拍出量は不変であった.収縮期房室間圧較差は不変であったが,逆流僧帽弁口面積(MROA)は全収縮期にわたって減少し,逆流量は有意に減少した.(2)hydralazine chloride投与による後負荷軽減にて前方拍出量は増加, MROAと房室間圧較差は収縮後期のみ減少し,逆流量は不変であった.(3)前・後負荷軽減時には前方拍出量は増加し,逆流量は減少した.MROAと房室間圧較差はともに減少した.MRにおける減負荷時の血行動態の特徴とその機序が示され,臨床上減負荷療法を行う上で重要な成績と思われた.                  (平成3年10月22日採用)

1991.02.12

A Case with Swallowing Disturbance of Unknown Origin Whose Swallowing Improved Markedly Following Bilateral Cricopharyngeal Myotomy *

6か月間原因不明の嚥下障害として経管栄養により入院治療を受けていた症例を経験した.この症例に対して,X線映画,筋電図検査を行った.両側輪状咽頭筋切断術の適応と考え,施行後,嚥下が著明に改善した.本法は今後増加すると予測される嚥下障害例に応用されるべき治療法と考え報告した.             (平成3年7月8日採用)

1991.02.11

Prolonged Disturbance of Consciousness in a Patient with Thrombotic Thrombocytopenic Purpura *

遷延する意識障害を呈した血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の65歳男性例を経験した.症例は,黄疸を主訴に入院.赤血球破砕症候群を伴う溶血性貧血,血小板減少,腎障害,動揺する神経症状と脳波異常,発熱の存在よりTTPと診断した.入院第3病日より血漿交換療法を施行したところ,意識障害以外の症状の改善を認めたため,プレドニゾロン(PSL)60 mg/日と,新鮮凍結血漿輸注療法に切り替えた.以後,PSLは,4週間で5mg程度の長期漸減療法としたが,発症後5ヵ月を経て意識はほぼ清明となるも,なお,脳波上徐波の出現を認めた.この異常脳波所見は,発症約9ヵ月後にはじめて正常化した.これまでに報告された遷延する意識障害を呈する症例と比較検討し,本例での病因を推察する.                              (平成3年5月21日採用)

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